紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「幻色江戸ごよみ」宮部みゆき

2005年04月27日 | ま行の作家
宮部お得意の“人情モノ”。こよみというだけあって、
町人のさまざまな物語が季節を追って描かれていきます。
しかしながら、どれも切ない。大きな事件が起こるわけでもなく
(たまに起きるけど)、一生懸命生きている町人たちの
取るに足らない話ばかりなのですが、だから余計に切ないねえ。
ああ、もう、どれもこれも、ホントに切ない(^^;)。
でも、「器量のぞみ」と「首吊り御本尊」は心温まりました。

不器量で大女のお信が、評判の美男子に見初められる「器量のぞみ」。
見初められた理由は、もちろん“器量がいいから”。あまりにも
馬鹿にされているとお信は怒りますが、実際会ってみるといい人。
いい人なんだけれども、いや、だからこそお信は心配になって…。

「首吊り御本尊」は、奉公人の神様のお話。
奉公先から逃げ出した捨松は、案の定連れ戻され、しかも後日、
大旦那様に呼ばれることに。身を引き締めて大旦那様と対面した
捨松でしたが、床に伏せっていた大旦那様は思った以上に優しく、
一幅の掛け軸を取りだして、捨松にある話をしてくれます。

全12作のうち、2作しか「ほろり」とする話はなく、
残りは全部切ないのです(うるうる)。とはいっても、
宮部のこと。切ない中にも優しい言葉にあふれ、
後からじわじわ心に染みてくるのですね。
宮部の人情ワールドを堪能したいなら、ぜひに。


幻色江戸ごよみ」宮部みゆき(新潮文庫)

「顔のない男」北森鴻

2005年04月27日 | か行の作家
以前読んだ「闇色のソプラノ」と同じくらい、
お腹の中に“違和感”がどっしりと居座って、
あまり良くない気分で読み進みました(^^;)。
しかーし。それも全部計算づくだったのね、ということ。
工藤さんや陶子さん、那智先生などが出てくる物語は、
安心して楽しめるのだけれども、本作や「闇色のソプラノ
共犯マジック」といった、ちょっと変わった雰囲気の
物語も北森さんは書くのですねえ。といっても、これらが
面白くないのかというと、そうではなく、練りに練られた
その“構成”を楽しむ物語に仕上がっているのです。

雑誌連載時は連作短編という形をとっていたようですが、
1冊にまとまるとハッキリ分かりますね。これは長編です。
根底に流れるのは“顔のない男=空木”の存在。
全身骨折で死亡した男・空木の身辺を探るうち、
2人の刑事は、次々と新たな事件に遭遇していきます。
空木に少しでも近づいたと思ったら、いきなり突き放される…。
そんなことを繰り返されると、途中で止まらなくなる
じゃないですか(笑)。後半は一気に読んでしまいましたとも。

何がすごいって、これだけ違和感というかイヤーな感じを
味わいながら(笑)、それでも、主人公同様に振り回されつつ、
しかも物語にぐいぐい引き込まれていくんですよ。たぶん、
作者の思惑通りに翻弄されたんじゃないかと思います(笑)。
ついでに言っちゃいますが、ラストは「ほほーっ」と
ため息モノです(^-^)。あっ。それから、名前は明かされ
ませんが“三軒茶屋のビアバー”、出てきますよー。


顔のない男」北森鴻(文春文庫)

「幻惑密室 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦

2005年04月26日 | な行の作家
チョーモンインシリーズ第1作。短編かと思ったら、長編でした。
しかも、長編第1作といいながら、この前に短編が1つあるのですね。
それを読んでいなくても支障はないですが、何度もその事件に
触れられるし、たぶんネタバレもされているので(笑)、できれば、
順番通りに読んだ方が楽しめるんじゃないかと思います。
確か、「念力密室!」に収録されていたと思います。

チョーモンインとは、超能力問題秘密対策委員会の略だそうで、
“超問員”ではなく“チョーモンイン”と言い張るのは、
出張相談員(見習い)の神麻嗣子。文庫版には「てけてけ」という
音を鳴らしながら走りそうな(笑)イラストが描かれます。
彼女の仕事は、超能力が関わる事件の調査。警察と協力して、
事件を解決することもある、とかないとか(笑)。

今回の超能力は“ハイヒップ”というもの。初めて聞きました。
大ざっぱにいえば、強烈な催眠術のような感じでしょうか。
いつものように、この能力にはには制限があり、推理するのに
必要な条件もきちんとそろってます。基本的に推理をしない
(というかできない)私でも、なんだか解答が導き出せそうな
くらいとてもキレイな論理が展開されていきます。
いつもながら感服しますねえ。その上、物語自体も面白い。
どちらかというと軽いタッチなので、長編とはいっても
すらすら読めちゃいます。引き続き読んでいきたいシリーズです。


幻惑密室 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦(講談社文庫)

「眼球綺譚」綾辻行人

2005年04月26日 | あ行の作家
再読です。実は、私の初・綾辻作品(笑)。
よりによって、なぜこれを選んだのか、当時の自分を恨みます(^^;)。
基本的にホラーは嫌いではないので(どっちかというと好き)、
当時も楽しんだことは間違いないのですが、
この作品から「館シリーズ」もホラーなんだと
想像してしまったことが、綾辻を手にとらなかった理由だな。

「読んでください。夜中に、一人で。」その妖しい誘い文句の
通り、夜中に読ませていただきました(笑)。
7人の“由伊”が織りなす妖しい世界。
ひと言でホラーと言ってしまってはなんだか申し訳ない気がします。

北森さんとか、柄刀さんとか、読み始めると、自然と
物語の世界にどっぷりつかってしまって、その世界の、
物語の美しさとともに、作品を堪能できる作家さんとは違って、
否応なく物語の世界に引きずり込まれるんだけれども、
それは、“どっぷりつかって堪能(にっこり)”というよりは、
ひしひしと感じる恐怖がとてもリアルに、身近なものに
感じられてしまうんですね。それは「館シリーズ」も同じ。
物語に引き込む、その引き込み方も作家それぞれなのでしょうが、
綾辻のように“いつも恐怖と隣り合わせ♪”というのは他にない。
そんなことを、改めて実感しながら読みました、夜中に(笑)。

好きな作品を挙げるなら「再生」と「眼球綺譚」。
「再生」は、おぼろげですが覚えてました。最後の最後で
背筋がぞくぞくする、あの感じがたまりませんねえ。
「眼球綺譚」は、内容はまったく覚えてなかったけれども、
読み進めば進むほど、背中のあたりがぞわぞわしてくる。

ちなみに装丁は、ハードカバーも文庫も京極夏彦なのです。


眼球綺譚」綾辻行人(集英社文庫)

「有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリー」有栖川有栖編

2005年04月25日 | あ行の作家
同じく、今度は“鉄道ミステリ”を集めたアンソロジーです。
鉄道ミステリーというと、時刻表とにらめっこするアリバイものを
想像しますが、そういった作品は、実は少なかったのです。
しかも、先の作品が“本格”ならば、今回は“広義のミステリー”と
いった感じ。ホラーや怪談、幻想小説っぽいものも多いのです。
で、こっちはこっちですんごい面白い。印象に残る作品が多いのです。

中でも面白かったのが「高架殺人」ウィリアム・アイリッシュ。
疲れた体を引きずるようにして帰宅する刑事が、高架を走る電車の
中から、窓の外で繰り広げられている“人生ドラマ”を何気なく
見ているとき、反対側の座席に座っていた男性が何者かに撃たれる。
頭の回転は速いのに、動きは信じられないくらい遅い刑事が、
やりたくないのに、関わってしまったが最後、その事件解決に乗り出す。
というような話。登場人物たちがとても愛嬌があって、ついっと
物語に引き込まれていきます。しかも、とろいはずのこの刑事が、
むちゃくちゃカッコよく見えるから不思議さー(笑)。
作者の名前だけは聞いたことがありますが、作品は未読。
でも、こんな感じの作品ならば、長編も読んでみたいと思います。

ほかにも、江坂遊のショート・ショート3作がいい味を出してますし、
アリスと上田信彦が2人で書いて上演された舞台のシナリオ「箱の中の殺意」
も収録(なんだかどこかで聞いたことのあるタイトルですが(笑))。
私には犯人はサッパリ分かりませんでしたが、かなり楽しみました。


有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリー」有栖川有栖編(角川文庫)

「有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」有栖川有栖編

2005年04月25日 | あ行の作家
アリスの編むアンソロジーは私、とても好きなんですよね。
アリスはミステリ作家でありながら、当然ミステリ好きでもあります。
そして何より、いつも私のようなミステリー初心者の目線に立ってくれる、
というのが嬉しいじゃないですか(^-^)。解説は初心者にも分かりやすく
丁寧だし、親切にも自分の思いのたけを“書きっぱなし”にしない。
だから、いくら目次に知ってる作家がいなくても、安心して読めるのです。

実は、どの作家さんも知らない人ばかり(笑)。唯一、つのだじろうは
名前だけは知ってました。古い作品が多いのですが、これが面白い。
普通なら、どうしてもトリックはどこかで見た感が否めないものなのですが、
どれも新鮮! もちろん、読み終わった後で考えてみると、やっぱり
違う作品で見たことがある、とも思うのですが、ホント、見せ方一つで、
こうも面白くなるのか、ということがよく分かりますね。
そういった意味で面白かったのが「逃げる車」白峰良介と、
「「わたしく」は犯人…」海渡英祐。「五十一番目の密室」ロバート・
アーサーも楽しみました(^-^)。


有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」有栖川有栖編(角川文庫)

「御手洗潔の挨拶」島田荘司

2005年04月25日 | さ行の作家
元祖・破天荒な探偵(笑)の、やっぱり破天荒な
4つの物語が収録されています。御手洗の短編は初めてでした。

以前から「数字鍵」はいい、という話は聞いていたのですが、
とてもシリアスな御手洗が拝めます。これまで(とはいっても、
占星術殺人事件」と「斜め屋敷の犯罪」しか読んでないのですが)
とは違った一面、正義感に溢れていたり、とても優しかったり。
最初の方は、やっぱり榎木津を彷彿とさせるのですが
(どっちが先だか^^;)、ちゃんと“推理する”ってところが違う(笑)。
そしてですね、実はここに、御手洗がコーヒーを飲まない理由が書かれて
あるのです。くぅー。切ないねえ(>_<)。

そして何より、短編なのに、トリックが壮大なところが
嬉しいじゃないですか(^-^)。やっぱり御手洗モノは
素晴らしく面白いなあ、と実感したのでした。

あと、最後に「新・御手洗潔の志」という島田さんの文が
載ってまして、ここに、なぜ御手洗作品が映像化されないのか、
ということについて書かれてありました。ひと言で言ってしまえば、
島田さんと製作者側の“日本人観の違い”だそうです。
御手洗潔がああいう態度・行動を取るのは何故か。そこの部分を
きちんと理解した上で映像化してもらえないと、御手洗は、
ただの尊大な人になってしまう。それを避けるために、
きちんと理解してくれる製作者が出てこない限り、OKしない。
というようなことが書かれてありました。納得ですね。
そういうことを踏まえた上で御手洗作品を読んでいくと、
これまでとはまた違った感じ方ができるんじゃないかと思います。


御手洗潔の挨拶」島田荘司(講談社文庫)

「人形はこたつで推理する」我孫子武丸

2005年04月21日 | あ行の作家
久しぶりの我孫子さん。短編は読んだことがなかったので、
選んでみました。前からタイトルは聞いていたのですが、
古本屋さんではついに見ることがなく、新書で買いました(笑)。

腹話術の人形・鞠小路鞠夫を操るのは、朝永善夫。
新人保育士・妹尾睦月(通称おむつ)の勤める幼稚園で出会った
2人(3人?)は、園で飼っていた兎が死んだ事件を皮切りに、
さまざまな“謎”を解明していきます。

せの“おむつ”き、から「おむつ」と呼ばれる睦月。でも、睦月を
ひらがなにすると、それだけでおむつの意味じゃないですか(笑)。
まあ、それはいいとして。

ちょっと情けないよしお(ひらながで呼ばれてます(笑))に
同情しつつも、鞠夫が面白くて、楽しく読みました。短編4作が
収録された連作集なのですが、最後の4話「人形をなくした腹話術師」は、
正直ちょっとしんどかったです。あんな軽いノリで始まったはずなのに、
なぜ?(^^;)とか思いましたもんね。一応ハッピーエンドで終わってますが、
でも実は、根本的なところでは何も解決されていないような気が(笑)。
きっとそれは、後に続くシリーズで解決されていくのでしょうね。
引き続き読んでみたいと思いました。


人形はこたつで推理する」我孫子武丸(講談社文庫)

「子猫探偵ニックとノラ 「ジャーロ」傑作短編アンソロジー」

2005年04月21日 | アンソロジー
春先に読んだ作品なのですが、花粉症と猫アレルギーが相まって、
(猫が出てくる物語を読むだけで症状が出るわけはないんですが)
なんだか“苦しかった”という感想を持ってしまいました(笑)。

--父親の名前はサム・スペンサー。となれば、
その子どもたちの名前はニックとノラがふさわしい--

…その辺(↑)実はよく分かってないんですけど(^^;)。
猫好きにはたまらない1冊なんじゃないでしょうか。
どれを読んでも、どこを見ても猫だらけ(笑)。
帯には“猫ミステリー”とありましたが、どちらかというと、
本格は少なく、サスペンスやミステリーじゃないものもありました。
訳者のせいもあるんでしょうが、読みづらいものもちらほら…。

そんな中で、面白く読んだのは「フランケン・キャット」ダグ・アリン。
お金持ちの奥さんを持った獣医の夫は、妻の交友関係にはまったく
目をつぶった状態。積極的に関わるつもりはなく、獣医の仕事に
精を出していたのですが、ある日、雑用係に雇い入れた男が
妙なことを言いだし…というお話。男の哀愁漂うミステリーでした。

それともう一つ「賄賂」キャロリン・ウィートは、猫にメロメロな
人たちが面白い(笑)。もともと猫にメロメロな人たちは、これ以上ない、
というくらいメロメロに、それほどでもない人だって、読みながら
メロメロになっていく、メロメロなお話(笑)。これはミステリーでも
何でもない、ただの猫好きのためのお話だと思うんですけど(^^;)。


子猫探偵ニックとノラ 「ジャーロ」傑作短編アンソロジー」(光文社文庫)

「遠い約束」光原百合

2005年04月20日 | ま行の作家
十八の夏」を読んだきりだった光原さん。BOOK OFFで
たまたま本作を見つけたのはいいのだけれど、表紙を見て、
ちょっと引いてしまいました(^^;)。
創元なのに、どう見ても少女漫画なんだもん(笑)。
(表紙と各作品の扉絵を野間美由紀が描いてます)

浪速大学のミステリ研究会に所属する1年生の吉野桜子は、
初めての合宿で“密室事件”に遭遇!

連作短編という形で、さまざまな謎をミステリ研究会の
面々が論理的な推理で解決していきます。そして最終的に、
桜子が大学入学以前から抱えていた“気掛かりなこと”を、
桜子を大切に想う先輩たちが、解決してくれます。

日常の謎、という部分では光原さんらしいと思うのですが、
なんというか、この人はミステリーを通して少女小説を
書こうとしたのではないかと思ったのです。「十八の夏」は、
ミステリーだけど、美しい純文学寄りの作品だったと
思うんですよね。で、本作は、ミステリーだけど少女小説。
もちろん、ミステリーとしてもとても面白い作品なんですが、
それ以上に、心をかき乱す何かがある。しかも、謎の
使い方がとても上手いので、より心に響くんです。
俄然興味が沸いてきました。
この人の作品を、もっともっと読んでみたいな。


遠い約束」光原百合(創元推理文庫)

「きみがいなけりゃ息もできない」榎田尤利

2005年04月20日 | あ行の作家
私が榎田さんに求めているものが、ちょっと足りない(^^;)。
いつまでも魚住くんを引きずるつもりはないのですが、
でもやっぱり、あのシリーズの感動というか、衝撃というか、
切ない優しさと愛情を、違う作品でも味わいと思うわけです。
フツーのBLじゃないところが読みたい! というのは、
とんでもなくわがままなことだと分かってますが(^^;)。

売れない漫画家・豪徳寺薫子先生、通称“ルコちゃん”こと二木。
生活能力赤ん坊並の彼を放っておけず、幼なじみの東海林は、
それこそ衣食住すべてにおいて面倒をみている。そんな二木に
ある日、メジャーな出版社での仕事が舞い込み…。

ガタイがデカく、しかも仏頂面(なイメージ)の東海林が、
かいがいしく二木の世話を焼くシーンがたまらなく好き(笑)。
自分の“野獣”はちらとも見せず、何もかも二木のため、
というストイックさもたまらんねぇ。そういう2人に限って、
相手は底なしの鈍感なのです(笑)。それでも、東海林は
ずっと“今のまま”でいいと思ってきたのに、二木を取り巻く
現状がそれを許さない。二木は、ごく一部ではあるけれども
世間にその作品が認められた漫画家センセイなのだから。

東海林ってば、二木なんていなくても、充分やっていけるのに(笑)。
タイトルの「息ができない」のは二木のことだよね?
文字通り、息だけじゃなく、生きてもいけない。そんな二木のせいで
東海林は、ホットケーキの焼き方がむちゃくちゃ上手くなっていく(笑)。
栄養管理もすばらしいし、いい“お嫁さん”だと思います(にっこり)。


きみがいなけりゃ息もできない」榎田尤利(BE BOY NOVELS)

「悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談」高里椎奈

2005年04月19日 | た行の作家
こちらも、シリーズ3作目。前作、前々作に比べて、
タイトルがストレートなところが非常に好ましいです(笑)。
しかも、連作短編+最後に中編、という変則的な構成。
これがまた、「どぶどろ」や「ぼんくら」などを思い起こさせ、
やっぱり、最後に大きな“謎(ないしは事件)”を隠してある。
あとがきには、「今までとは違った薬屋探偵」とありましたが、
妖怪3人衆(笑)の個々のキャラクターの魅力が、これまで
以上に伝わったんじゃないかと思います。

「当ててごらん。これらの事件には、共通点がある」
喫茶室で毒死した男、マンションから飛び降りた会社員、
プログラマーは列車事後で死に、書店員の娘は手首を切った。
しかも、個々の事件はすでに解決済みなのに!?

高里椎奈も、見た目は西尾維新とは異なりますが、同じように、
面白い日本語を使う作家さんだと思います。意味深で思わせぶり。
だけで、とても思慮深い。この作品は、作者の日本語に振り回される
傾向にあって、見逃しがちなのですが(私だけ?)、
文章がとても優しいんですね。起こる事件はとても凄惨なものが多く、
だからどことなく冷たい印象を受けるし、何より主人公の1人・秋の
性格が超クールだから余計につっけんどんなイメージがあるのですが、
でも、さすが妖怪(笑)。実は、人間全部を包み込んでしまう
優しさに溢れているのですね(^-^)。

だから、リベザルはがんばる。
それがもう、むちゃくちゃいじらしいんだわ(笑)。
しかも、今回はこのリベザルが論理的な推理を披露してくれます。
そういった小ネタをちりばめつつ、最後に迎える最大の謎。
…これが実は微妙で(^^;)。私的には全然OKなのですが、
論理的な解決を期待して読むと、拍子抜けするかもしれません。


悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談」高里椎奈(講談社ノベルス)

「クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子」西尾維新

2005年04月19日 | な行の作家
サブタイトルが“戯言遣いの弟子”というだけあって、
いーちゃんの本領発揮です(笑)。今回初めて、“たわごと”ではなく、
“ざれごと”であることをとても強く意識しました。
いや、最初っから“ざれごと”だとは分かってたんですけどね(^^;)。
なんと言いましょうか、やっとこのモノガタリの片鱗が見えてきたな、と。
まあ、私的に、ということなのですが。

「紫木一姫って生徒を学園から救い出すのが、今回のあたしのお仕事」
人類最強の請負人・哀川潤から舞い込んだ依頼のために、「ぼく」こと
“戯言遣い”いーちゃんは、“クビツリハイスクール”に潜入した…。

以前も少し触れましたが、西尾維新は日本語が面白い。
北村薫はとても“美しい日本語”を使う方ですけれども、
西尾維新は、北村薫とは違った美しさを日本語に秘めてます。
強いて言うなら“本格”的な(本格ちっく)な日本語、でしょうか。
ミステリ的にいうと、ロジックの美しい日本語、となりますか。

本作はシリーズの3作目にあたるのですが、今回、
青い彼女は出てきません。代わりに、赤いあの人が暴れます。
そんな中をいーちゃんは戯言を駆使して泳いでいくわけです、
半分溺れながら。何に溺れているかというと、たぶん、自分に。
そして今回は、いーちゃんに弟子ができてしまうのですね。
もちろん、いーちゃん本人の許可はなし。その辺の駆け引きが
たまりませんでした。シリーズ中いちばん薄い作品ですが、
私は前作よりも楽しめた気がします(^-^)。


クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子」西尾維新(講談社ノベルス)

「神の手」望月諒子

2005年04月16日 | ま行の作家
電子出版で絶大な支持を得てデビューした、という本作。
全く関係のなかった人や事件が、ある人物を中心に
収束され、劇的な結末を迎える――という構成は、
やっぱり私には“サスペンス”に思えてなりません。

失踪した人物を探す物語は、一般的にハードボイルドという、
と何かで読んだ記憶があるのですが、本作でも、
失踪した作家志望の女性をめぐって、不可解な事件が
起こっていきます。彼女を探す、というよりは、
彼女が“残した香り”を辿っていく、というのが、
ハードボイルドとは違うところ。そして、その結果
出遭う数々の不可解な事件。それが、サスペンス色を
とても濃いものにしていきます。

最近よく思うのですが、私、やっぱり本の読みすぎ
なんでしょうね(笑)。読むほどに筋が見えてくる(^^;)。
事件の詳細やトリックにまでは考えが及びませんが、
だいたい怪しいと思った人物は重大な鍵を握っているし、
ちょっとした表現の違いで、それが伏線であることが
分かるし、半分まで読まずに、結末のおぼろげな形が
見えてきてしまう。逆に言うと、それだけその物語が、
ミステリーとしてはとてもフェアだということなのですが。

本作に関しては、予想を裏切られることなく、
とても素直に結末まで物語りが運んでいきました。
…とこう書くと、面白くなさそうな感じですが(笑)、
さまざまな出来事や事件の絡め方はとても面白かったです。
失踪した女性、というのが、私が思っていたほど
魅惑的ではなくて、現実的だった、というのがちょっとだけ
心残りですが、逆に失踪した人物を男性にして、
女性が彼を探す物語にした方が、この作者には向いている
のかな、とも生意気にもそう思ってしまいました。
というのも、ある事件に関しては女性の目線で進んでいく
のですが、それがいい感じなのですね。ま、あくまでも
私の主観ですが(笑)。

ところで。作中に出てくる作品のタイトルがですね、
「緑色の猿」というのですが…どこかで聞いたことが
ありませんか? そこにもちょっと引っかかった(笑)。


神の手」望月諒子(集英社文庫)

「作家の犯行現場」有栖川有栖

2005年04月05日 | あ行の作家
雑誌「ダ・ヴィンチ」で掲載されていたアリスのエッセイ
「ミステリー・ツアー」をまとめた単行本が文庫になりました。
(ややこしや(笑))
ミステリーの舞台となった場所を訪れる、という企画なのですが、
“この作品のここ”というピンポイントなものではなく
(場合によってはそれもあるけど)、ここを舞台とした作品には、
こんなものもありますよ、と思いっ切り間口を広げてくれている
あたりがなんともアリスらしい(^-^)。私のようなミステリー
初心者にとって、とても良いガイドとなる1冊ですね。
しかも、合間に短編が挟まれているのがまた嬉しい。
旅情を誘う、というと変ですが、エッセイを読んで気分が
盛り上がっている、その気分のままで読めるのがいい。
思うに、きっとアリス自身も盛り上がった気分のまま
書いた作品なんでしょうね(笑)。

今回、より嬉しく思ったのは、私の馴染みの場所が多かったこと。
中でも、横溝正史がよく使った瀬戸内の島々は私にとって、
故郷同然ですからね(^-^)。ただ、私は横溝正史とは反対側から
見てきたわけで、その瀬戸内の島々に対する“思い”にギャップが
感じられて、それがまた面白かった。ほかにも、乱歩ゆかりの地や、
明石大橋のアンカレイジ、「霧越邸」(これは未読)の舞台などを、
アリスの目で見て伝えてくれる、というのがアリスファンには
たまりません(笑)。いやいや。それにしたところで、やっぱり
アリスの解説はとても親切で適切で、しかもくすぐりが上手い。
…と思うのですが。


「作家の犯行現場」有栖川有栖(新潮文庫)