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【社説】 少年調書出版 情報を封じ込めるな

2007年09月22日 | スクラップ
2007年9月21日


 少年犯罪を防ぎ、子どもたちを健全に育てるために、もっと情報を得たい、と願う人は多い。関係者の人権に十分な配慮が必要だが、公権力が情報流通を強権的に遮断する社会は不健全だ

 昨年六月、奈良県の医師宅で母子三人が焼死した事件をめぐり波紋が広がっている。放火した、当時十六歳の長男と父親の供述調書を内容とする単行本「僕はパパを殺すことに決めた」が出版されたからだ。

 奈良地検は長男の精神鑑定医が著者に調書を渡したとみて、秘密漏示容疑で捜査を開始、図書館では問題の本の閲覧制限が始まった

 報道の自由、国民の「知る権利」の見地から見過ごせない事態だ。

 確かに問題の多い本ではある。少年や父親は匿名でも、成績、学校名や家庭環境などが詳細に書かれ、名誉、プライバシーを守ろうと著者が苦慮したようには見えない。

 ほとんどが調書の引用であるこの本には、調書が捜査官による作文であることへの警戒感もない。

 調書からは「父親の勉強強要、暴力が少年の性格をゆがめ犯行の引き金になった」という事件の構図が浮かぶが、捜査官は構図を強調する形で調書を作成したように読める。

 その点を批判的に読み取れていないとして、著者のジャーナリストとしての姿勢に疑問も出ている。

 それでもなお、この本は親子関係や子どもの置かれた環境を考えるヒントをたくさん提供している。

 社会をよくしよう、子どもを正しく理解しようと思えば、情報が欲しくなるのは当然である。だが、少年法の非公開原則のため、国民は不安や疑問を解消できないでいる。

 できる限り情報をオープンにして共有し、社会的批判を通じて関係者の人権擁護策を練る方が前向きで建設的だ。報道側を威嚇するかのような異例の捜査は、報道を委縮させ、国民の「知る権利」を損なう。

 去る五月の出版直後、長勢甚遠法相(当時)は「司法制度や少年法に対する挑戦的態度だ」と調査を指示し、法務局が著者と版元に謝罪などを勧告した。

 そのうえ刑事捜査である。流通していい情報と悪い情報を国家機関が強権的に選別すべきではない

 一部の図書館では問題の本を書架から撤去したり、閲覧や貸し出しを制限している。

 閲覧停止などが許されるのは「出版禁止の裁判が確定したとき」など極めて限定的である。政治家や捜査機関の方針に過剰反応した安易な姿勢は、「知る権利」に奉仕すべき図書館の使命放棄と言えよう。




東京新聞
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