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石川県の「携帯電話持たせない」条例=野上哲(北陸総局)

2009年07月25日 | スクラップ



 

■必要か、子と話し合おう その時、問われる説得力

 基本的には子どもに携帯電話は必要ないと思っている。私には8歳の娘を頭に3人の子どもがいる。妻とは「今は必要なし」で一致した。友達と顔を突き合わせ、肩を組んで話す。そんな肌触りのあるコミュニケーションで実体験を重ねる中で、大切なことをつかみ取ってほしいからだ。携帯で広がる無防備な仮想世界とは無縁でいい。

 石川県議会で先月末、小中学生に携帯電話を持たせないよう保護者に求める全国初の規定を盛り込んだ「いしかわ子ども総合条例」改正案(議員提案)が可決成立し、来年1月に施行されることになった。罰則はないものの、現代社会にすっかり浸透した「携帯」だけに、「保護者は、特に小中学校に在学する者には、防災、防犯その他特別な目的の場合を除き、携帯電話を持たせないよう努めるものとする」とする条項についてメディアは大きく取り上げた。

 条例改正のきっかけは携帯を介した事件の頻発だった。県立高校で昨年9月、携帯ブログへの書き込みが原因で生徒が同級生の頭をバットで殴る殺人未遂事件が起きた。また、出会い系サイトを介した中高生の買春事件が相次いだことも影響した。

 金沢市に隣接する人口5万人の同県野々市(ののいち)町では、既に町内会や学校などでつくる「町民会議」が、小中学生対象に「持たせない」地域活動を続けている。同会議の北川千里(ちさと)さん(48)に「試しに『家出』で検索してください」と言われた。少女が宿泊先を探すサイトがずらりと出た。「これが現実です」。同町の携帯所有率は小6が9%、中2が13%と極めて低い。北川さんは「『必要ですか』という問いへの町民の答えだ」と話す。

 確かに、同町から外に目を向けると、携帯は子どもに広く普及し、被害も大きい。昨年の文部科学省調査では、所有率は小6が25%、中2が46%で、高2になると96%。また警察庁によると、昨年の出会い系サイトが絡む児童買春や強盗、強姦(ごうかん)などの検挙は1592件。被害者の85%が18歳未満で、アクセスの99%が携帯だ。石川県教委の調査では、中高生約2000人がネット上のいじめ、誹謗(ひぼう)中傷の被害経験があると答えた。

 こうした現実が条例改正を後押ししたが、成立へのプロセスには、十分な議論があったとは見えなかった。最大会派の自民や公明などが改正案を議会に提出する見通しが立った途端、異論が出てきた。石川県は「財産権や表現の自由を侵害する恐れがある」と、憲法との整合性や携帯事業者による訴訟を心配した。議員からは「家庭で決めることで大きなお世話」と反対意見も出た。ネット安全モラル学会(会長、田中博之・早稲田大教授)は「子どもがネットを理解し、適応する機会を奪う」と声明を出し反発した。

 しかし、パブリックコメントの募集はなく、委員会では質疑さえなかった。「ダメなものは理屈抜きでダメ」と言い出す議員までいて議論は深まらない。多様な意見があるからこそ、透明で活発な議論が必要だったはずだ。

 子どもにとって携帯は両刃の剣。期待外れの議場での議論はともかく、保護者には子どもと真剣に向き合う契機にしてほしいと痛感した。大切なのは十分話し合うことで、その上で必要だと決めたら、堂々と持たせればいい。

 ある家族を紹介したい。3人の子どもを持つ金沢市の主婦、小原(こはら)美由紀さん(44)。現在高2の長男の高校合格後に「解禁」した。重視したのは話し合いだった。なぜ必要かと問うと「最近は公衆電話がなく部活で遅くなる時に連絡できない」と親を説得したという。小原さん夫妻は料金を抑えることなどを条件にOKした。「塾で遅くなったり、親が不在がちだったり、各家庭で事情はさまざま。私は、子どもと話すプロセスがあって良かったと思う」と振り返った。

 石川県で非行などに悩む親の集いを続ける「みちくさの会」代表で元教師の赤尾嘉樹さん(67)は「暴走族に入り音信不通の中学生の親が、わらにもすがる思いで『生きてるか』とメールし、『生きてる』と返ってきた」と話す。「携帯が命綱になることがある。規制の発想の前に、子どもの心に耳を傾けて」と言う。

 この条例が一石を投じたとすれば、こうした現実を踏まえ、保護者の姿勢に反省を促した点だろう。そもそも、子どもは見抜いているはずだ。サイトをたくさん見る契約にしないと値引きしない携帯会社。路上でも電車でも携帯を四六時中のぞき込むのも、有害サイトで子どもを傷つけるのも大人だということを。

 「子どもに必要なし」の私の家族も、いずれ話し合うべき時が来る。その時、「君たちのことを真剣に考えているんだ」というメッセージを伝え、ともに考えられるだろうか。私自身が問われている。





毎日新聞 2009年7月10日 東京朝刊

 

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