ターコイズ別館・読書録

――図書館へ行こう。

166 翻訳はいかにすべきか 柳瀬尚紀

2010-11-21 06:49:59 | やらわ
 図書館より。岩波新書。岩波なんて久しぶりだ。

 翻訳とは実践である。
 それを標榜する柳瀬先生の、看板に偽りのない好著である。
 いきなり二葉亭四迷の「あひびき」のロシア語からの翻訳が出て面食らうが、言わんとすることはわかる。
 例文も文章の流れにぴたぴた当てはまる。乗りに乗って書いているのであろう。
 よくある「試訳」という語を使わないことにも好感。「試訳」って、「人に文句を言う以上、私の役にも文句をつけたくなるかもしれないが、試しにちょっとだけ訳してみたので、本気になったらもっと上手に訳せるんだからね!」という情けないプライドが仄見えていやですね。

*よい翻訳は短くなる
*彼、彼女、私たち、など代名詞は使わないように
 「人称認証症」「代名詞の駆逐」と揶揄している。
*辞書にあったからそのまま使うことをするな
 long lipsを「長い唇」と訳した例があるが、日本語はそうは言わない。「鰐口」とした。
*日本語として下手すぎる

#対訳 たまねぎの二つの丸い穴に注意せよ
#猫訳 オニオンの、おお、二音にご注目

 ジェフリー・アーチャーが文章の中に12匹の赤いニシンを隠した。いわゆるレッドヘリングというやつである。
原文 he surreptitiously admired her rings.
 admiredの途中から、レッドヘリングが隠れている。
 これを、「指輪の赤に心底見とれている」と訳した。雑文祭か。