失踪譚 02

 

	（承前） おむは眠った。
	彼の夢の中に、春の精が訪れたのではなかろうか。
	春の精が、自らの顕現を、おむに告げたのではなかろうか。
	その夢は、春のかぐわしい香りに満ちていたのではなかろうか。
	目覚めたおむは、既に春の訪れを知っていたに違いない。
	桜の幹の高みに上ったおむは、目前に迫る「春」を、はっきり見たに違いない。
	きっとこの時、彼は「春」を確信したのだ。
	彼はおもむろに木から下りた。
	その瞳には、或る種の緊張が漲っていた。
	よっちゃんが現れた。
	こんなに早い時間に、よっちゃんが現れるのも、私が見てきた限り、「この冬初めて」のことである。そして恐らく同時に、「この春初めて」のことなのだ。
	15時54分。この日の、最後の写真。 この日の夕刻、ボランティアさんの給餌の後、72時間に亙って、おむは姿を消したのである。 （つづく）

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失踪譚 01

 

	14時21分。 おかか先生、現れる。
	14時37分。 おむ、現れる。
	この日、02月01日。節分の前々日。すなわち、立春の三日前である。
	冷たく強い風のため、おかか先生の毛布も、ご覧の通り。しかし、北風ではなく、西風であった。
	そしてまた、この時 ―― 陽射しが妙に明るかった。
	おむは、この陽射しから、「春」を読み取ったのだろうか。
	それとも、この西風の内に、「春」を嗅ぎ分けたのだろうか。
	いずれにしても、この日から、何かが変わったのである。 （つづく）

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日輪の霍乱

 

	追忍は奸策を廻らせた。
	「ふふふ、オムイの奴を、色仕掛けでたらしこんでやろう……」
	追忍は艶っぽい女装で、オムイに迫った。
	が、オムイは相手にしなかった（眠かったらしい）。
	その時、風で着物がはだけて、あられもない姿に！ ぴらっ
	突然、太陽が燃え上がった。 ぴかーっ
	「ぐはーーーッ！？　ま、まぶしいーーーッ！」
	ガクッ なまめかしい姿態を見て、お日様が興奮したらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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