「病気療養も退屈だなあ」 | |
「でも、まあ、毎日けっこう楽しいこともあるよ」 | |
「だけど、夜になると、おかか先生のことが、とっても気になるんだ」 | |
「またテレパシーで呼びかけてみようかな? ……いや、ここはひとつ、肉声で!」
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「おーい! おかか先生ーっ!」 | |
「……なーんてね。ふふっ。遠く離れてるんだもの、聞こえるわけないよね」 | |
その頃おかか先生は…… 「いやいや、ちゃんと聞こえてるよ」 | |
「お前の声は、いつでもどこでも、私にはちゃんと聞こえるのさ」 |
「病気療養も退屈だなあ」 | |
「でも、まあ、毎日けっこう楽しいこともあるよ」 | |
「だけど、夜になると、おかか先生のことが、とっても気になるんだ」 | |
「またテレパシーで呼びかけてみようかな? ……いや、ここはひとつ、肉声で!」
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「おーい! おかか先生ーっ!」 | |
「……なーんてね。ふふっ。遠く離れてるんだもの、聞こえるわけないよね」 | |
その頃おかか先生は…… 「いやいや、ちゃんと聞こえてるよ」 | |
「お前の声は、いつでもどこでも、私にはちゃんと聞こえるのさ」 |
草木も眠る丑三つ時 ―― おむさんの心の深奥に秘められている「何か」が、むくむくと頭をもたげるらしい。 |
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私と共に寝室に居たおむさんは、深更になると、またも興奮して、「アオーン」と鳴きながら、ガリガリと障子を開けようとした。 しかし障子は、読者諸兄姉が既にご存じの通り、打掛によって締め切られている。 賢いおむさんは、無駄と知るや、障子を開けることを諦めた。 | |
が、やがて、箪笥の上に飛び乗り、更に、その上の書類棚に上がった。 | |
寝室の隣は、書斎である。そして、これら二つの和室の間には、天井付近に開口部がある。そう、いわゆる「欄間」である。 | |
おむさんは、欄間をすり抜けて、寝室から書斎へ移動し、本棚を伝って、床に降り立った ―― 。 | |
その際、本棚に置かれてあった物をガラガラガッチャーンと落した。おむさん自身が、怯えてしまった。 | |
無論、私も驚いた。開口部がある以上、全く予想しないことではなかったが……。 | |
やがておむさんは寝室に戻り、私の布団の上で丸まって、安らかな寝息を立て始めた……と思いきや、彼は再び、箪笥の上に飛び乗った。 | |
二度目なので、私も余裕を持ってカメラを構える。 | |
私の大切な書類をぐしゃぐしゃに踏みつぶしながら、おむさんは書斎を窺う。 | |
私は書斎に移動して、撮影を続行。 | |
欄間の開口部を挟んで、私とおむさんの目が合った。 | |
おむさんは、抜けられる位置を求めて移動し、 | |
寝室から書斎へ、するりと抜け出た。 | |
ブレボケ写真で恐縮であるが、おむさんは画面左上から右下に向かって飛び降りている。○の中におむさんの顔が写っている。 | |
このところの室内暮らしですっかり綺麗になっていたおむさんの顔も、ほこりだらけになってしまった……。 | |
別人のようにおとなしくなり、書斎でくつろぐおむさん。疲れたような、「してやったり」とでも言いたげな、満足したような、なんとも言えない良い表情をしている……。 |