時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

AFL・CIO分裂の行方

2005年08月02日 | グローバル化の断面

低下一方の組合組織率→反転回復はなるか

労働組合はどこへ行くか(2)

    本来ならば、7月25日、シカゴでのAFL-CIO大会は1955年のAFLとCIOの統合以来、50周年を記念する歴史的な日となるはずであった。ところが結末は少なくもAFL-CIOの側からみれば、最悪の日になってしまった。アメリカの労働問題を研究し始めた最初の頃、AFLとCIOの間の抗争、そして連携への道に関する文献をかなり読んだので、今回の出来事も感慨深い。上昇期の労働組合は、すさまじい抗争もあったが労働条件改善を目指して生き生きとしていた。政治力も強く、経営側と四つに組んでわたりあっていた。しかし、使用者側の労働組合忌避策、組合の戦略展開の誤りなどが重なり、70年代後半くらいから次第に活力が感じられなくなってきた。肝心な組合員拡大も失敗の連続だった。

「勝利のための変革」連合?
  このサイトでも既報(7月26日)の通り、しばらく前から分裂の可能性は指摘されてはいたが、AFL-CIOを構成する3大組合のうち二つが脱退してしまった。サービス従業員国際組合Service Employees International Union(SEIU)とティムスターズTeamstersである。結局、AFL-CIOから脱退するのは7組合になり、脱退後は「勝利のための変革」という連携組織をつくることになった。アメリカの労働組合組織率は、1950年代の30%台から2004年には12.5%にまで低落してしまっていた。アメリカの「労使関係」ウオッチャーの一人として、ついにここまできたかという思いがする。20世紀初頭以降、強力な資本家・経営者と戦いながら、労働者の地位改善に取り組んできた労働組合だが、「ビッグ・レイバー」といわれる大組織に拡大する過程で、いつの間にか奢りや腐敗も忍び込んでいた。組合内の権力闘争も熾烈であった。今回、脱退した側も残存する側も、長い間見てきたが、運動方針に革新性や戦略が感じられない。R.フリーマンなどがかねてから主張してきたように、基盤とする産業の盛衰が大部分を決めている。組合も時流に乗り遅れないように、展望を持たなければ足下から崩れていく。民間部門の組織率が8%台というのは、組合は労働者の見方であるなどと、いえるような状況ではとてもない。

 組合民主制
  もっとも、こうした問題はアメリカ労働運動の生成期からの特徴ではあった。なぜもっと前に内部改革ができなかったのかという感想はあるが、組合の内部統制のあり方は、60-70年代頃には「組合民主制」の問題として、関係者にとっては大きなトピックスであった。ティムスターと暗殺されたロバート・ケネディ司法長官との対決などは歴史的な事件であった。今回、脱退したティムスターズは、その名の通り、元来運送馬車の御者たちの組織であったが、その歴史をたどると、腐敗・汚職、犯罪の汚点が目立つ。AFL-CIOに復帰後も今日まで、さまざまな出来事があり、清新なイメージとは遠かった。
   CIO 自体、1935年にAFL内部に設置されたが、1937年にはAFL から追い出された組織である。AFLは伝統的に職業別組合が主体であり、保守的なビジネス・ユニオニズムといわれる路線を維持してきた。他方、CIOは最初はThe Committee for Industrial Organization としてスタートし、その後、Congress of Industrial Organizationとなった。最初は20世紀前半における大量生産を背景に生まれた不熟練、半熟練の労働者を組織することで、組織を拡大してきた。互いに激しい抗争を続けてきたが、1955年に漸く統合し、今日まで紆余曲折を繰り返してきた。


組合間競争の開始
  AFL-CIO会長ジョン・スウィニーは10年間、会長の座にあったが、今回の出来事もあり、対立候補なく続投することになった。今後、AFL-CIOと「勝利のための変革」は互いに組織拡大を目指して、組合間の勢力争いを展開することになる。当面の目標は両者ともに、ほとんど唯一拡大が期待できるサービス部門の組織化である。両者はすでに組合員獲得キャンペーンに乗り出した。現在未組織であり、組織化すれば組合員数としても大きな企業として、ウオールマート、コムキャスト、クリアー・チャネル, トヨタなどが目標として名前が挙がっている。当初から大規模工場として成立した日産や本田は、UAWなどが組織化の目標としてきたが、成功しなかった。トヨタもこれまでは攻略できなかった。両組合がいかなる戦術を繰り広げるか、見物ではある。 組合間の競争で組織人員を増やしてきたアメリカの労働組合である。競争がうまく働けば相互に刺激要因が生まれる。

分裂した民主党支持基盤
  他方、政治の世界でもAFL-CIOは、主として民主党の基盤として期待されてきた。これから民主党は、二つの組織を相手にしなければならない。この分裂がお互いに競い合い、全体としてプラスの拡大となれば、組織労働者の地位改善には寄与することになる。グローバル化は、労働組合組織を厳しく追い込み、地盤沈下をもたらしてきた。労働者を支える基盤が崩壊して行くことは、それに代わる支えがほとんどないだけに、将来が案じられる。
  日本の連合についても同様にいえることだが、旧態依然たる方針を踏襲し、政治に傾斜して長期構想や新たな戦略を提示できない組合には未来はない。組合を取り巻く状況を観察すると、アメリカの労働組合運動が再生する可能性は厳しいが、労働者にとっては今回の危機が転じて幸いとなることを期待する以外にない(2005年8月2日記)。

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