時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

国家の盛衰を定める人と金の流れ

2012年05月26日 | グローバル化の断面

 

  ギリシャの財政破綻、シリアを初めとする中東の不安定など、世界経済は明らかに大きな転換期を迎えている。とりわけ従来の先進国と開発途上国の関係に顕著な変化が見え始めた。ダイナミックな変化が進む世界では、先進国でも舵取りを誤ればその地位を保つことは難しい。他方、今は貧しい国でもチャンスをつかめば、先進国入りは夢ではない。国家の盛衰を定めるテンポが速くなってきた。
  
  グローバル化の進展とともに、盛者必衰、国家の盛衰は避けがたい。盛衰を定める要因は、国家財政・運営の健全性、その国が置かれた地政学的状況、潜在的革新力、教育水準、国民の幸福感、など数多い。

 こうした変化の方向を占う尺度のひとつに移民労働者の流れ、そして彼らが本国へ送る外貨の流れがある。経済不振で自国民の雇用を守ろうと門戸を閉ざす先進国が増えている。その背景には失業の深刻化、格差拡大などがある。いかなる変化が起きているか。最近発表されたデータで、考えてみたい。

Source: The Economist April 28th 2012


豊かな国を侵食する貧困
 たとえば、アメリカは依然豊かな国ではある。しかし、明らかに衰退が進んでいる。格差拡大によって、豊かな国の内部で貧困が急速に拡大している。2010年、アメリカの「貧困層」(4人家族で年収$22,000以下、日本円概算約180万円)の数は4620万人と、前年より400万人も増加した。たとえば、医療費が高いため、アメリカで治療を受けられない人々がメキシコ、インドなどで治療を受けいている

 世界最長の国境、アメリカとメキシコ間は、閉鎖性が格段に強化された。南から北への人の流れは明らかに減少している。他方、アメリカからメキシコへの金(送金)の流れは、顕著に増加した。2011年、その額は240億ドルに達した。この増加の一因には、送金統計の実態把握度が改善されたこともある。

 送金の実態も変化している。少し細部を見ると、メキシコにおける銀行などの窓口では、送金受領者の多くはメキシコ人ではなくなり、(アメリカへ入国できず)メキシコで働くグアテマラ、ホンジュラスなどの労働者が本国へ送金する姿が目立つようになった。

 開発途上の貧しい国への送金は急増している。1966年末以降、その額は開発途上国援助を上回るまでになった。世界銀行によると、2011年の貧しい国への送金は3720億ドルに達した。全送金額は5010億ドルであるから、きわめて大きな比重を占めることがわかる。開發途上国への直接投資に近づく数字である。開発途上国への送金は、額が増えるばかりでなく、伸び率も大きくなった。
 
 2009年にリーマンショックで世界経済が破綻した時でも、開発途上国への送金は5%程度の減少を示しただけで、2010年には元の水準を取り戻した。他方、これらの国々への海外直接投資は、この危機の時期には3分の1近い大きな減少を示した。企業はリスクに過敏に反応する。

 1970年時点では、世界全体の海外送金の46%はアメリカから送られたものであった。しかし、2010年にはアメリカのシェアは17%に減少した。アメリカからの送金先も、メキシコばかりでなく、フィリピン、インド、中国など多様化している。

多様化する送金の流れ
 送金元として大きな増加を示したのはガルフ(湾岸)諸国である。石油危機以降、多数の外国人労働者を受け入れてきた。彼らは建築ブームに湧いた湾岸諸国で働き、本国へ送金してきた。海外送金の流れは、図が示すようにいくつかの流れに分かれてきた。

 南アジアやアフリカへの送金の半分以上は、湾岸諸国から送られた。世界レベルでは2000年、湾岸諸国は17番目の送金元であったが、2010年には4番目まで上昇した。めまぐるしいほどの送金関係国の変化がみられる。

 通貨価値の変動には外貨送金は敏感に反応する。近年、アメリカ・ドル、ユーロの人気は衰退した。背景には、これらの地域における競争力の低下がある。他方、アフリカのいくつかの国では輸出が顕著に伸び、通貨価値が上がった。かつては、ヨーロッパで5年出稼ぎをすれば、本国で住宅が買えるだけの貯金ができた。今は、海外出稼ぎ自体難しい。仕事自体が見つからない。ヨーロッパ、アメリカなどの先進国へは仕事を求めて入国することすら困難になってきた。

帰国しない人々も
 アメリカからメキシコなどへ帰国する流れも大きくなった。しかし、他方で一度帰国してしまうともう再入国は難しい。仕事はないが、なんとか踏みとどまろうとする人々も多い。ピュー・ヒスパニック・センターの調べでは、こうした中でメキシコ人の27%近くが帰国したといわれる。かれらの多くはアメリカに1年以上滞在していた。アメリカ大統領選の過程で、国内に不法滞在する人々への対応は、大きな論点となるだろう。

 自国民の雇用維持のため、移民抑制など閉鎖的な方向へ傾く先進諸国が増えたことで、人の流れは縮小している。しかし、高齢化が進む国は、自国民だけに頼っていたのでは、いずれ衰退する。新たな活力を求める以上、閉鎖的政策は続かない。

 
他方、金(送金)の流れは拡大・多様化している。IT技術の進歩によって、人が動かないでも自国で仕事をする、逆にいうと先進国から人材の豊富な国へアウトソーシングが可能になっている。しかし、外貨送金の受け入れが多い国は、経済発展の速度が早いかというと、必ずしもそうではない。受け入れた送金を生産的な活動にまでつなげる道には、いくつかの媒介要因がある。

 国の活力の一端を定める移民の動きは、複雑さを増している。新しい側面も生まれつつある。海外送金が、そのまま国の活力拡大につながる保証もない。台頭する新しい動きを注意深く見つめたい。



 
 

References
”New rivers of gold” The Economist April 28th 2012
「逆転する世界」NHKBS1 2012年5月25日

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« カラヴァッジョ、セザンヌ、... | トップ | 美術書の印刷製本に見る技術進歩 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

グローバル化の断面」カテゴリの最新記事