師弟の自画像:ヴァレット(左)とラウリー(右)
Cecilia Lyon, ADOLPH VALETTE & L.S. LOWRY, Prose Book Publishing, 2020, cover
L.S.ラウリーは、今やイギリス現代美術を代表する画家のひとりとしての評価が確立しているが、しばらく前までは、ロンドンの一部の批評家などからは、イギリス北部の地域だけを描いている例外的画家という評価もあったようだ。ラウリーしか描かない(描けないというべきか)《工業風景》やマンチェスター地域の工場街の作品などから即断し、この画家はヨーロッパ大陸の美術界を席巻してきた印象派の伝統を継承していない異端の画家、あるいは”日曜画家”などの受け取り方もあったようだ。この点は以前にも記したことがある。
しかし、これは大きな誤りであった。ラウリーは画業を志した頃から、アドルフ・ヴァレット Adolph Valette という優れたフランス人画家の指導を受け、印象主義についての綿密なレッスンを受けていた。
彼らは1905年、マンチェスター美術学校 Municipal School of Art in Manchester で出会い、教師と生徒の関係となった。ヴァレットはラウリーに印象主義を教示、パリなどの最新の動向を伝達した。二人の間では、モネ、ピサロなども大きな関心事になっていたようだ。
学芸員として美術学校に勤務していたセシリア・リヨン Cecilia Lyonは二人の師弟関係について詳細な探索を行い、これまで知られていなかった数々の事実を発見した。その成果は、2020年に上掲の研究書として出版され、注目を集めた。
詳細は同書に委ねるとして、ラウリーの作品から、印象派の影響が感じられるいくつかを紹介してみよう。
L. S. Lowry, Still Life, c.1906, oil on canvas, 23.5 x 33.5cm
ラウリーがマンチェスター公立美術学校在学当時の「静物画」習作。
(Lyon p.59)
L.S. Lowry, Portrait of the Artist’s Father, 1912, oil on canvas, 46.1 x 35.9 cm
ラウリーの《父親》肖像
ラウリー《母親肖像》再掲
L.S. Lawry, Sailing Boats, 1930, oil on canvas, 35.5 x 45.5cm
L.S.ラウリー《ヨット》
ちなみに、息子ラウリーが画家として生きることに最後まで賛成しなかった母親が、唯一好んだ作品と言われる。母親思いであったラウリーは、この絵を自らの死まで自室に掲げていた(Howard p229)。
続く