ケータイ文化が得たもの・失ったもの
急な仕事で北海道まで出かける。機内誌「翼の王国」(8月号)の頁を繰ると、どこかで見たような写真が掲載されていた。「中国電影旅行」Traveling China with 10 Movies と題して、10の中国映画作品ゆかりの地を尋ねるという構成である。その最初が「山の郵便配達を捜して」というテーマであの懐かしい映画の故郷へ行くという話である。このサイトでも2月21日「働くことの重み」で話題にしている。原題「那山、那人、那狗」(「あの山、あの人、あの犬」の意、1999年、監督は霍建起 フォ・ジェンチィ)。
郵便配達の仕事を描いているが、日本の郵政改革とは、まったく次元を異にした話である。日本の郵政改革は国民不在のままに、与野党の泥仕合の様相を呈して、今回の結末となった。いったい誰が責任を負うのか。腹立たしいかぎりである。
それに反して、この映画はストーリーこそ単純だが、仕事の尊さ、厳しさを教える感動的な映画であった。環境が違うということを別にしても、日本ではもう制作できないような精神性の高い作品である。
さて、雑誌の特集では、取材班は撮影のロケ現場を求めて、中国の奥地へと向かう。この映画のロケ地は湖南省綏寧であった。北京から桂林へ飛び、そこから車で綏寧まで入ったとのこと。苗(ミャオ)族が住む地域であるらしい。映画でも説明はなかったが、少数民族の村々であることは伝わってきた。そこには、今でも郵政代行所という小さな郵便局があり、1969年から36年勤続する于合松(ユィホォソン)という映画の俳優とは違うが、それを思わせるような54歳の郵便配達人が今でも村々をまわっていた。毎日30キロは山中を歩いているそうである。 映画では、主人公の父親と息子、そして犬が大活躍だったが、この地域では犬が大切にされてきたらしい。主人そしてその仕事の責任の重さを十分知って、縦横に働く犬の忠誠さが目に浮かぶ。
ケータイの時代の到来は、通信の世界を大きく変えてしまった。利便性は改善されたかもしれないが、失ったものも計り知れない。人間の心の深層にまで影響している。電車に乗ったとたんに反射的にケータイを取り出し、画面に見入る大人・子供。ケータイをなくしたと全財産を失ったようにパニック状態になる人。これはもう病気であるとしか思えない。ちなみに私は、ケータイは持ってはいるが、使用するのは月に数回。画面はモノクロのままである。まわりをみても、誰も使っていない旧型モデルである。それで不便を感じたことはほとんどない。