観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

見たことないカモシカを見た!

2013-07-01 05:08:21 | 13.6
修士1年 高田隼人
 私は学部3年のころから長野県の浅間山中腹でカモシカの調査を行っている。顔や角の特徴から識別したカモシカの行動をひたすら観察するというような内容の調査だ。この調査地は人が歩けないような崖はほとんどなく、低木の藪やツルなんかがかなり繁茂している山地帯の森林だ。なので、調査は藪の中にいるカモシカを自分も藪をこぎながら観察するような感じだ。ここのカモシカの体色は、個体差はあれるけどみな灰色である。二年間もここでカモシカを見ているので、浅間山のカモシカはこういうものだと思いう思い込みがあった。
 南先生から、浅間山の山頂付近の草原にもカモシカがいるとを聞いて、新たな調査地の選定がてら、高標高地のカモシカを見に行った。朝四時に出発して、いつもの調査地から望遠鏡を担いで山を二時間ほど登っていくと、切り立った崖と草原地帯に出た。近場の草原を双眼鏡でさっと探した後、こんな見通しのよいところにカモシカがいるはずないだろと思いつつ双眼鏡で遠くの切り立つ崖のてっぺんあたりを眺めていると、なにかが少し動いた。「嘘だろ」と思いつつ望遠鏡を急いで取り出し崖のてっぺんを見てみると、なんとカモシカが崖っぷちを歩いていたのだ!そのあと霧がかかってすぐカモシカを見失てってしまったが、予想外のカモシカの姿に大興奮してしまった!
 そのあと今度は崖の稜線の登山道を歩くことにした。落差が200m以上ある崖下を、「落ちたら即死だな」と思いつつ覗いていると、真っ白いデカい何かがのろのろ崖を歩いていた。また、「嘘だろ」と思いつつ双眼鏡で見てみると、今まで見たことのない真っ白いカモシカだった!白っぽい灰色ではなくて、本当に真っ白で、アメリカにいるシロイワヤギのようだった。
 1日中歩き回ってカモシカを探した結果、遠めで3回、近めで2回の合計5回カモシカを見た。5回ともすべて崖にいた。自分の調査地からさほど遠くない場所にこんなに違うカモシカがいることに本当に驚かされた。また、ここのカモシカたちはどんなふうに暮らしているのかが知りたくてたまらなくなった。今の調査地の森林に住むカモシカとは絶対に違う生き方をしているに違いないと思う。森林ではなく草原+崖に生息し、食物条件も異なる、冬季は積雪量も多いはずだ。季節移動はあるのか?個体間関係に違いはあるのか?個体群密度も低いのでは?食べている植物や栄養状態も違うのでは?疑問や興味がたくさん湧いて来た。
 自然の中には、おもしろいこと、知りたいことがいっぱい転がっているなと改めて思った。また、実際に野生動物に出会うことはやっぱり楽しいなと思った。



山の上でみた白いカモシカ

瞳に夢中

2013-07-01 02:16:14 | 13.6
4年 笹尾美友紀

 こどものころ、クモが嫌いだった。絵本でクモが目をたくさん持つことを知ってから、すべての目で私のことを見つめているのではないかと思ったからだ。
 目を丸くする、目を光らす、目を向く、目を喜ばす、のように「目」という言葉が入っている表現は多い。「目は口ほどに物を言う」という言葉があるように、ヒトは「目」で相手の心を測り、なおかつ「目」を気にする生き物であると思う。「きみの瞳に夢中」だとか「きみの瞳に乾杯」などの言葉は、視覚情報に頼りきりのヒトだから生み出せた言葉なのだろう。
 そんな例にも洩れず、私も「目」が気になるほうである。といってもヒトの目ではなく、動物の目である。料理のときにイカの目は取り出すのが少し怖いし、頭骨の解剖は目があるからなんだか少し苦手。なぜだかよく分からないが「目」は全般的に苦手である。そんな中、ひとつだけ気になる「目」がある。それは昆虫の目だ。
 昆虫の目を意識し始めたのは、三年生のときに研究対象のテンナンショウにいた昆虫を顕微鏡で見てみたときだ。クモの顔を拡大してみると、粒々した8つの目がしっかり見えた。きっとクモには私のことなど見えていないのだろうけど、その目は「よくも俺を捕まえたな」と訴えているように見えた。少しぞわっとしながらもよく観察してみると、8つの単眼はそれぞれ別の方向を向いていることが分かった。


顕微鏡で見たクモの目

テンナンンショウのポリネーターとされるキノコバエとクロバネキノコバエの簡単な見分け方も目であった。クロバネキノコバエの複眼は眼橋というもので繋がっているが、キノコバエは繋がっていない。キノコバエの目を顕微鏡で拡大して見てみると、小さな頭にずらっと並ぶ複眼に圧倒された。一つ一つの個眼で見た情報が、どのように1つの像になるのだろうか。


キノコバエ

それ以来、昆虫の目に惹かれるようになって、その昆虫がどのような目をしているのか気になるようになった。単眼は光を感知し、複眼は物体の形を認識する。複眼の数は昆虫の種類によって違い、単眼は持たないものから三つ持つものなど、昆虫の目のあり方はバリエーション豊かである。
どのような目を持つかは昆虫によってさまざまで、それはその昆虫の生き方と密接に関係があるはずだ。それは昆虫だけではなく、哺乳類でも鳥類でも爬虫類でも同じだ。同じ場所に立っても、空を飛ぶムクドリと、民家に逃げ込む野良ネコと、地面を歩くアリと私は、見るものも、見えるものも違うだろう。その生き物がどのような景色を見ているのかは、きっと知ることができない。
今の私の目に映るものは限られているが、見えないものを見たいとは思わない。だけれども気づかないで見過ごしていた「見ていないもの」はまだまだ多く残っているはずである。きっとそこに知らなかったわくわくするような生き物の生き方が隠れているだろう。きょろきょろ周りを見回して、これからも目を奪われるような、生き物たちの世界に目を向けていきたい。


マルハナバチ 2010.5.10 アファンの森


ハナアブ 2013.6.17 アファンの森