観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

スルメに食らいつく赤いやつ

2013-07-27 12:06:51 | 13.7
4年 千葉 琴美

 7月中旬、私は大和市にある「泉の森」という自然公園を訪れた。そこには大池と小池と呼ばれる2つの池からなる大和水源地があり、水は池の底から湧き出ている。水源から湧き出た水は全長21.3kmの引地川となって相模湾まで流れていくらしい。池には水車や架け橋などが設置され、コイやフナ、ウシガエルやハナショウブなどが見られた。市街地の傍らにこんな自然があることに驚いた。
 のんびり足を進め、浅く緩やかな小川にたどり着いた。水は透明で、底が見える。すでに多くの大人、子どもでにぎやかであった。リュックを下ろして準備に取りかかる。長さ40cmほどの枝を見つけ、その端に持ってきたたこ糸をくくりつけ、さらにそのたこ糸の先端に小さくちぎったスルメをはずれないようにくくりつけて準備完了だ。今度は場所決めだ。岩場のくぼみを狙い、しばらく待機していたが、なにも手ごたえはなかった。あらたな岩陰を探し、再度スルメを浸し待機する。しばらくすると、スルメが引っ張られた!いる!「やつはここにいるぞ!」一気に興奮が高まった。だが、何度かスルメが引かれる感触があるものの、なかなか姿を見せない。その状況に異様にどきどきしている自分がいた。
 きた!と感じた瞬間一気に引き上げると、今までにない嬉しい重みを感じた。ぷらぷらと揺れるたこ糸の先にあったのは、ふやけたスルメと「ザリガニ」である。
 ここで釣れるザリガニは、赤みがなくグレーで、5cmほどの小さな個体であり、釣れる数も少なかった。すでに子どもたちが持ち帰ってしまうからであろうか。
 このザリガニが釣れる喜びを胸に、次に訪問したのは相模原市の鹿沼公園である。ここの水生植物池という池にきた。浅い25mプールのような形状であり、夏にスイレンが花を咲かせる。この時は、そのつぼみでいっぱいであった。ここにはザリガニがたくさんいるようだ。閉鎖的で狭い場所なので、たくさん繁殖してしまうのかもしれない。
 さっそく例の竿を作り、念入りにスルメをくくりつけ、いざ池の中へ入れた。浅いが濁っていて水の中の様子はなにも見えない。間もないうちに手ごたえを感じた。ぐっと引き上げると赤いはさみが見えたが、すぐさま水の中へ消えていった。どきどきした。
 何度か繰り返していると、ひときわ引きの強い手ごたえがあった。今までにない重量感、そして水面に上がった真っ赤で大きなはさみを見て気持ちが最高潮に高まった。しかし、食らいつきはするのだが、なかなかうまく引き上げることができない。なぜ引き上げられないのか、どうすればいいのか考える。もどかしいが、このザリガニと自分との駆け引きがなんともおもしろかった。自分も引き上げるのに必死だが、ザリガニも水面から出ないようにスルメを手に入れるのに必死であるようだ。
何度も繰り返し、竿を引き上げたときに目の前にぶらさがっていものは、原形を留めていないスルメ。そして赤い大きなザリガニであった。



 待ちに待った御対面で本気で喜んだ。「お~すごい」と老夫婦の方、子どもたちに祝福されてさらに顔がにやけつつハイタッチをした。
 ザリガニ釣りをしたのは小学2年生以来であった。今回訪れた場所でもザリガニ釣りをしていたのはほとんどが幼稚園児から小学生の子であった。また、子どもたちと同じくらいお父さんが一生懸命であったというのも印象的だった。    
 ゲーム機などが増えてきたので、今どきザリガニ釣りで遊ぶ子どもなんてもういないのではないかと思っていたのだが、親子ともにザリガニ釣りを楽しみ、自然と遊んでいる光景を目の当たりにすることができた。幼少期にザリガニ釣りの魅力を知った親から子へ、ザリガニ釣りという遊びはまだ伝わっているものなのだと改めて感じた。
改めて思ったのは、こうして幼い時に身近な自然とふれあい、あれこれ感じたり考えることは、おもしろさや好奇心、思考力や探究心などを生みだし、感性をより豊かに育て、学ぶ、大切な機会だということだ。