修士2年 海老原 寛
今日も眠いなぁ。あぁ、いつもと変わらず、ユリカモメがめっちゃ並んでるな。今日はツグミもいる。こいつらが来たときはまだ寒かったのに、もういつもの光景になっちゃった。あっ、もうコブシが咲いてる。もう春か。ってことは、ユリカモメもツグミももうすぐいなくなっちゃうな。ツグミは昔、焼き鳥にして食ってたとかいうけど、美味いのかな?食いたいなぁ。人の近くによくいるイメージだけど、下北半島の雪山にもいたな。そういえば、そこで初めてテンを見たんだった。真っ白な雪の中で真っ黄色な体が目立ってて、アホかと思ったな。何であんなに真っ黄色なんだろう・・・。あっ、今年はサルナシ食えなかった。季節を読み違えたんだよなぁ。サルナシ美味いから、テンとかサルとかのフンにもいっぱい出てくるのもわかるよなぁ。そういえば、フンに集まる糞虫を食べるために、キツネがそのフンごと食べちゃうことがあるってどっかで聞いたな。フンを食べちゃうって、もはや目的を見失ってるな。アホか、あいつらは。そういえば、最近は糞虫が種子散布の二次散布に関わってるって話をよく聞く・・・あっ、サクラの蕾が開きそうだ。そういえば、・・・
3月の通学中の頭の中を書いてみた。自分の成長を表すとしたら、きっとピッタリな例だと思う。自然の中には不思議なことがいっぱいあるっていうけど、それに気付く能力を持ってなきゃ気付けない。前よりは、不思議に気付けるようになってきた気がする。
自然が好きで大学に入って、そんな研究室に入って、たくさん学んで。でも、それじゃ足りなくて、大学院にまで進んでしまった。大学院生は研究者の卵だと言われるが、自分はそんなふうになれたかどうかわからない。でも研究することは楽しいと思う。生き物のことを明らかにすることや、生き物のことを知ることはやっぱり楽しくて、何にも変えられない魅力を持っていると思う。
それはまちがいないことだが、よかったのはそれだけではない。生き物の「今」をゆっくりと観察できる時間が作れたことが一番大きい。冒頭にたくさんの生き物のことを書いたが、前の自分ではこんなに具体的に名前をあげることはできなかったし、こんなに次々に連想して生き物のことを考えることもできなかった。人でもそうだが、自分が実際に出会い、興味を持たないと名前を覚えることは難しい。こんな風に考えられるようになれたのも、実際に生き物に出会い、興味を持って観察できたからこそだと思う。それが大学院生でいて一番楽しかったことだ。
楽しいことだけでもない。アカガエルがU字溝を登れない。シカが植生を荒らす。タモ網ですくうとウシガエルとアメリカザリガニばっかり・・・。このような自然界で起きているさまざまな問題を自分の目で見てきた。ほかにも、何かを観察したいために足元の植物や虫を踏み潰してきたかもしれないし、生き物の体内構造を観察したいからといって命を奪うこともしてきたかもしれない。
「生き物を観察している」とたくさんの人が胸を張って言うが、それは同時に生き物たちに「観察されている」ということでもあると思う。私たちが気付かなくても、きっと思っている以上に生き物たちは私たちのことを見ている。こんな私たちのことを、生き物はどう観察しているのだろうか。そして、私たちに対して何を思っているのだろうか。
そうだからこそ、私たちは自然に対する思いやりを持たないといけないはずだ。研究は楽しいが、知的好奇心がその思いやりを超えてはいけない。大学院での経験の中で、このような現実を考えられたことは、自然と人間の付き合いを考える上でとても大事なことだった。
自分が成長できたのは、いいことも悪いことも含めて、たくさんの出会いがあったからだ。それは、生き物や人間を問わずである。興味を持てたのは、生き物そのものの魅力ももちろんだけど、それを純粋に受けとめる人たちに出会えたから。自然があって、自然が大好きな人たちがいる。こんな風景をいつまでも見ていたい。そんな風景の中で、自分もいつまでも自然を観察していたい。そして、生き物たちに観察されたときに、許される人間でいたい。自然と人間がお互いにいい関係を築いていけるようにしたい。
そのために自分に何ができるかはわからないけど、自然への思いやりを忘れないように、例えば割り箸をなるべく使わないようにしたいし、冷房だって28℃に設定したい。硬いと言われるかもしれないけど、そうじゃなきゃ「自然が好きだ」という説得力がないと思う。
これから私は、自然と人間の付き合いを間近で考えなければならない仕事に就く。研究者としての目線と、自然好きとしての目線。このどちらも忘れずにいたい。それが自分の成長だと思うから。6年間通ったキャンパスとの別れはツラいが、大学生活での経験を活かせるように、今後も頑張っていきたいと思う。
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宮城県、金華山にて