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観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

ヤマネのことを調べたい

2013-05-23 21:26:47 | 13.5
3年 鈴木詩織

 私は幼い頃にハムスターを飼育したことがあり、そのことから小動物が好きになった。この研究室に入る前に、今までの先輩方の研究内容を教えていただき、その中にヤマネがあったので、研究したいと思った。でも、研究上の意味は考えておらず、ヤマネが調べられるならなんでもよいという気持ちが強かった。その後先生の奨めで八ヶ岳でヤマネの巣箱利用と食性を調べることになったのだが、実際に調査に行って作業を始めながらその意味を考え始めたという段階である。
 ヤマネについて情報を集めてみたところ、次のようなことがわかった。ヤマネの仲間は世界に8属26種いて、ヨーロッパ、中央アジア、アフリカに生息しており、ニホンヤマネは極東に生息する唯一の種だということだ。ニホンヤマネはDNAの系統解析から約2000万年前に大陸産のヤマネと分岐したことがわかっている。どうやら存在価値としては貴重なものらしい。夜間のわずかな光を拾うことができる大きな目と、樹上でバランスをとるために適したふさふさとした尾をもち、背中に縦の黒い筋模様が一本走っているのが特徴だとも書いてあった。ヤマネ科の種の多くは冬眠をし、冬期に代謝を落とし、体温を下げて何か月も休眠状態になって過ごす。冬眠についての生理学的研究はある程度あるが、野外での生態は未知のベールに覆われている。これはニホンヤマネが森林にすみ、夜行性で、樹上をおもな生活の場にしているために、野外での観察がむずかしいというためらしい。
 ヤマネ科全体を通して見ても、その生活史についての研究が進んでいるのは、ヨーロッパヤマネやオオヤマネなどごく一部の種に限られているらしく、これから勉強していきたい。ニホンヤマネでは交通事故にあわないように道路をまたぐトンネルのようなものを作るなど保護活動がおこなわれているようだ。
 研究室ではシカやタヌキ、テン、さらにはカエルなどいろいろな動物の食性を調べている。これは動物の食性が生活の基本にあるとても重要なのにわかっていない動物が多いこと、そういう個別な情報を蓄積することがたいせつだということでおこなっているということだ。私もその一翼を担えたらよいと思う。ヤマネは体重が20グラムもないので、代謝率が高いはずである。そうであれば、植物の葉などに依存することはたぶんできないはずである。先輩の奥津さんは東京西部でヤマネよりもさらに小さいカヤネズミの食性を調べて、昆虫と花を食べることを明らかにしたそうだ。ヤマネのような小さな動物の糞の解析は大変そうだと思っていたが、さらに小さいカヤネズミでできたのならヤマネでもできるだろうと思う。そのために通常の光学顕微鏡による分析だけでなく、DNA分析にも挑戦してみたい。
 また、巣箱の利用率の違いについて調べることで、ニホンヤマネの選択する要因を明らかにしたい。私は五月半ばに八ヶ岳に連れて行ってもらった。ここではこれまでにも二度調査がおこなわれているが、巣箱利用率がとても高いということだった。八ヶ岳の森林は、地点によってササも量が違い、地表が岩の場所にはコメツガが多く、尾根にはカラマツ林が多いなど、ヤマネの生息地という点でさまざまに違いがあり、要因分析に適していると思った。木の幹の地上30センチほどと1.3メートルくらいに巣箱を設置した。おそらく低いところは捕食者の危険があるので、避ける傾向があるのではないかと予測している。
 調査ではいろいろなことを体験したが、巣箱かけでは先輩や3年生がてきぱきと動いてくれてありがたかったし、先生が植物のことをよく知っているので驚いた。また調査は事前の準備や後片付けなどもたいへんなのだということもわかった。
 今後、調査は夏と秋に予定しており、難しいとは思うがヤマネに会えたらいいなと思う。直接見ることができなくても、私たちがかけた100個ほどの巣箱を利用してくれていれば、「ここにヤマネがいたのだ」と感じられるはずで、そのことも楽しみである。



初日の巣箱かけを終えて。左より鏡内(信州大、大学院)、須藤、服部、筆者、高槻


すべての巣箱かけを終えて。筆者と高槻(高槻撮影)