キキリ・キキリ・キキリ

-北海道の昆蟲と自然-

北海道の昆虫の写真を中心に、身近な生き物や自然を紹介しています。

アイヌハンミョウ

2008年05月25日 | ハンミョウ科
アイヌハンミョウ[Cicindela gemmata aino]
北海道、本州、四国、九州に分布し、中流域の河原に生息。
草本がまばらに生える砂地又は礫環境を好む。
成虫は主に早春に発生し、他の小さな動物を捕食する。
河原の石の下での観察例があり、石下に潜む小昆虫を捕食していた可能性が推察されている。

上記の文は、文献やWeb上で得られた情報を簡単にまとめたものです。
全国的に河川改修や護岸工事、ダム建設などによって生息環境が悪化し、絶滅が危惧される希少な種です。


一昨年、何となく採ってみたいと思い、地図上で選んだ範囲を踏査しましたが、準備不足で大失敗。昨年は出張先への移動中、仕事が終わった夕方など、立ち寄った河原で探索するも、手掛かりすら掴めず敗退。今年は全般的に発生は早いだろうと2週間前から短時間であるが河原を歩いていたのですが、結果は付いて来ませんでした。しかし最近になって、お世話になっている方からの好意により、生息地を教えて頂くことができました。

昨日のオサムシ採集で同行したKARATAKA君も、以前から本種に興味を持っていたようで、そんなこんなでアイヌハンミョウを一緒に探してみることにしました。


ご教示頂いたハンミョウポイントはオサムシ採集地からはかなりの道のり。そこまでの移動にはどこにも寄らず1時間半は掛かりそうです。
でも、いきなりのピンポイントに入るのではなく、頭の中でイメージしたアイヌハンミョウ生息環境に近い場所があったら寄り、結果ダメなら最後に入ろうと考えました。


アイヌハンミョウが記録されている町に入り、助手席で地図と周りの風景を見ながらアレコレ考えていると、道路から離れたところに河原が見えました。河原に降りれそうな道もあり、早速、ぬかるみと起伏の激しい悪路を車で進みました。河岸に出たと思ったらそこは川面から10m位の崖の上。足場は良くないが気をつければ降りられないこともないので、とりあえず様子見で何も持たずに降りてみました。





河川は先週の大雨の影響でまだ濁っています。
多少湿気が残り、大き目の礫が転がる河原を探索するのは少し大変。
これまでのアイヌハンミョウ狙いで歩いてきた河原とは全く違う風景。
対岸の山は大きく崩れ、河原には荒々しい礫が広がる。
果してこんな感じの場所でアイヌハンミョウは見つかるのだろうか?


自分は川に近い礫の上を歩いてみました。KARATAKA君は山寄りの砂地を歩く。
風はやや強く、足元から飛んだとしても風下に流され気付いていないもかも知れない・・・。そんな中、KARATAKA君は砂地の上で複数のハンミョウを見つけました。そっと近づき素手で捕らえた個体は残念ながらコニワハンミョウ。
「やっぱりコニワかぁ・・・」厳しい現実を目の当たりにする。


再び歩き出すと、今度は少し暗色がかった個体が飛び出し、数m前の礫の上に止まりました。2人でジッと観察してみると、コニワを少し大きくした感じで、斑紋の形はニワハンミョウとは違うようです。「これか!?」と思いKARATAKA君に見張ってもらって、自分はカメラと捕虫網を取りに崖を登り車に戻りました。焦る気持ちを抑え、2人分のカメラと1本の網を持って慎重に崖を降りる。


怪しい個体を見張っていたKARATAKA君のそばに戻ってみると、その姿はもうありません。別のハンミョウが絡んできて2個体で飛んでいってしまったそうです。「チト遅かった・・・。」再び河原を探索。今度は2人は各々の場所を歩く。


暫くして自分の目の前に、コニワではないハンミョウが飛んできました。距離にして4~5m。そーっと近づきながら1枚1枚撮影しその距離を縮めていく。







途中、撮影した画像をプレビューで拡大してみると、「間違いない!」と直感しました。カメラを置いて、素早く網を被せる。網の中で逃げようとする個体の腹部の輝きは眩しかった。
逃がさないよう指でつまんで撮影してみる。




本当に間違いない!あご先が鋭利でないのはアイヌハンミョウの雄の特徴です。
「採ったぁ~!」と叫ぶが、KARATAKA君はかなり遠くの方まで歩いていて全く聞こていない様子。


約10分後に、2人は合流。KARATAKA君は1頭も確認できず、自分も追加できなかった。でも、この様な環境にいる事はわかったので別の河原にアプローチできる道を探すことにしました。





新たな場所に到着。そこには河原ではなく広大な中州があった。
しかし、増水気味で濁りもあるので、例えウェイダーがあっても中州までは渡れそうにない。


「この中州はアイヌハンミョウの楽園かも知れないけど、しょうがないなぁ・・・」
諦めて車に乗り込み少し走りだした時、KARATAKA君は運転席側の砂地の上にいた、
1頭のハンミョウを見逃さなかった。ゆっくりと車から降り、素早く網を被せる。それは紛れもなくアイヌハンミョウ!最初に採れた個体よりも一回り大きい雌でした。


急遽、この場所で撮影&採集をすることにしました。砂地を歩くと、アイヌハンミョウらしき個体が複数舞い上がる。





個体数は少なくないようですが、撮影は困難を極めました。2m以内に近づくと、彼らは大きなハエのように飛び立ち、かなりの距離を飛翔する。しかも、砂地に降りるのではなく、草地に降りてその後は歩いて移動している。全く持って撮影者泣かせの手強い相手。


カメラを置いて採集に切り替えると程なく3♂を採集しました。採集数はこの程度で満足。それよりも「これがアイヌハンミョウだ!」という特徴を捉えた写真が撮りたい!
一方、KARATAKA君は全く網は持たず、撮影に専念している。しかも、ジワジワと接近し前方からの撮影にも成功したようだ。

「昆虫が好き!北海道!」


自分が悪戦苦闘していると、少し離れた所から呼びかける声が聞こえた。
「ここに動かない個体がいますよ~!」
動かない個体とはどういうことだ?足早に駆け寄った。ハンミョウが居たのは雑草の根元の小さな窪みだった。





この個体、全く動かない訳ではない。レンズを近づけると頭を反対に向ける。逆からレンズを近づけると、また頭を反対に向ける。この繰り返しなのだが、その場を離れる気配が全く見られないのだ。元々ここに居たものなのかKARATAKA君に尋ねると、フワァ~と飛んできてこの場所に落ち着いたのだという。





この個体を相手にして暫く撮影を楽しんだが、思い描いたアイヌハンミョウの風景とは違うので、また砂地に戻ってみた。


するとどうだろう。先程まで歩けば複数飛び立つアイヌハンミョウが見られたのに、1頭も飛び立たない。時刻は陽が西に傾いてきた15:30。やはり、先程の場所はねぐらだったのだろうか?
それにしても隠れる時刻、早くないですかね?


この日はコレでタイムアップ。結局、ご教示頂いたポイントに安直に頼ることなく、結果として自分達で発生地を見つけることができたのが、この日最大の収穫でした。


今後、狙ってみたいハンミョウがもう一種います。盛夏の頃、砂浜に現われるというカワラハンミョウ。

カミキリが一段落したら挑戦してみたいですね。