食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

地産地消の可能性と限界

2005年06月14日 | 食と農
東北の小柳さんコメントありがとうございました。

小柳さんに触発されて,今回は地産地消の可能性と限界について考えてみましょう。

前回まで,地産地消のさまざまな現象形態のなかで農産物直売所と学校給食への食材供給についてみてきました。しかし,この2つの形態は地産地消の一部分であり,農産加工業,食品製造業,外食企業,旅館・ホテル業などにおける地場産農産物の利用なども多様な場面で行われています。

また,農産物直売所を中継して学校給食への生鮮農産物を供給する事例のように組織間の提携関係も散見されるようになりました。 このように地産地消が広がりと深まりを持ってきたのは,地方自治体行政の支援もさることながら,生産者や消費者にとって魅力ある取り組みだったからでしょう。

消費者や実需者にとっては,長い流通距離と流通時間をかけた農産物取引では不可能な「顔の見える関係」によって,安心し納得できる農産物が購入できること。

生産者にとっては,流通コストや出荷調製作業が節減できることにより農家手取額の増大が図れるというメリットもあります。そして何より買手から当該農産物の評価が直接聞けるという長所があります。

また,環境視点からは,農産物の輸送距離が短くなることで化石エネルギーに使用量が少なくなり,排出される二酸化炭素や化学物質の量が低減できます。また,鮮度が衰えないうちに消費できるなどの社会的空費が節減できるという利点もあるのです。

さらに地産地消の食育に関する役割も期待されています。消費者は食の源流に関心を持ち始めたようです。他人まかせの食への不安が市民農園や農産物直売所への関心を深めていますが,消費者が如何にして食の現場につながる主体になるかが課題となりましょう。

さて,地産地消の課題も山積しています。①市場圏が狭いため生産量と消費量が限られており,需給調整が困難であること。②取り引き可能な品目数が限られるため品揃えが困難であること。③周年的な取引が難しいこと。④気象変動によって出荷量が大きく変動し,価格も乱高下しやすいことなどの流通上の問題点でがあります。

また,農業生産者側から提唱する地産地消,つまり地元産,県産,国産にこだわる理念が消費者や実需者と共有できるかという課題もあります。地元産がとくに輸入品や他県産と比較して,まずい,高い,品質が悪いなど評価が思わしくなければ,長続きしないでしょう。生産者の努力も必要なのです。

そして,地産地消を推進する前提として,基本食糧の国境措置と国家管理は不可欠です。国産・県産小麦を利用した取り組みの多くは,小麦の価格が外国産とほぼ同じ価格水準に設定されているという食糧政策抜きではとうてい実現しなかったのですから。

いま,ネットワーク型の食料・農業政策,地域の自主と自律を促す食と農の地方分権が求められていると考えます。自分たちの身の回りの食と農を守り,より良いものに転換していくことからはじめるしかないだろうと思います。

地産地消の意義とはなんでしょう? その2

2005年06月10日 | 食と農
地産地消の論文執筆も一息つきました。といっても,粗稿ができた段階です。
いやはや今回は難産でしたね。これからは安請け合いをしないようにしなければ....。

さて,前回の続きで,きょうは学校給食における地産地消の効果について綴りましょう。

調べてみますと,学校給食における国内産小麦の利用は,2004年度では29の道府県で取り組まれています。その取り組みの中心になっているのは各道府県学校給食会です。さらに,市町村レベルでも52の市町村が地元産や国内産麦を利用したうどんやパンを学校給食に供給していて,そのうち18市町村(35%)が北海道で取り組まれています。

このほかに,学校や給食センター単位で地場産野菜を食材として扱っているところは多いことでしょう。

学校給食における地産地消の効果として,第1は,給食は児童・生徒とその家庭の食生活に及ぼす影響が広範で強いことが指摘されていますが,食習慣が児童・生徒の身に付く大事な時期に教育の場で食教育が行われることの意義は大きいと思います。
そして,給食を通じて,地域の農漁業が生み出す食べ物の味や香りを児童・生徒に経験させて,味覚を働かせるための方策として地産地消の効果はとても大きいと思います。


第2は地域経済への効果です。2003年5月現在の完全給食を受けている小学生は706万人,中学生は257万人です。年間の平均給食回数は小学校188回,中学校184回ですので,それら児童・生徒への年間延べ給食数は18億食,原材料費で4,300億円(推計)にもなります。

もし,食品製造企業が学校給食に食材を提供できれば,自社の味付けや商品を刷り込める魅力的な商機となるはずです。未来の消費者でもある児童・生徒への長期的なマーケティング戦略として学校給食を位置づけることも可能でしょう。農協や漁協そして地元の食品企業にとっても,同様に地産地消の食材供給システムを構築する必要があるのではないでしょうか。


ただ,学校給食に関わる人達は,給食を受けている児童・生徒とその保護者,そして給食運営に携わっている栄養士,調理員,教師,農業者,食品加工業者,流通業者,県及び市町村学校給食会の職員など多くの人が関わっています。このことは逆に地元産の食材を給食に使用するには多くの人の協力や理解がないと困難なことを示しています。

本日はこれまで。



地産地消の意義とはなんでしょう? その1

2005年06月08日 | 食と農
いま,地産地消に関する論文を書いています。
そのため,このブログの更新も滞っております。ご勘弁下さい。

さて,論文の中心部分をなすものは,地産地消の意義について明らかにすることです。
でも,これが結構たいへんなんです。

地産地消の現象形態として,農産物直売所,学校給食への地元食材の提供,食品産業との連携などがあります。それぞれの対象によって意義も少しずつ異なるのです。

農産物直売所の場合は,第1に遊休農地や耕作放棄地などの活用,山林管理への貢献,傾斜地の土壌流亡の防止などにおける役割を指摘できます。農産物直売所に出荷する農林産物や加工品の原料を調達するために,農業者が見放していたり管理がおざなりになっていた地域農林業資源に手を入れることでそれらは息を吹き返します。つまり,農産物直売所は農林家と地域農林業資源とを結びつけることに大きな役割を果たしているのです。

第2に,地域社会関係に果たす役割として,生産者(出荷者)間の交流,農家と利用客との交流,高齢農家の自立や生き甲斐,女性能力の発現などがあげられます。ただし,生産者が店先にあまり顔を出さない大規模農産物直売所では,利用客との交流は限定的なものとなります。また,地域の仲間づくりを目的の一つとしている中山間地域の小規模農産物直売所では,地域住民の紐帯を強める大きな役割を果たしている。そして,多くの農産物直売所は女性の力によって運営されていることも大きな特長です。

第3に,地域経済に果たす役割として,農業所得の増加,中でも女性や高齢者の個人所得の獲得,雇用の場づくりなどによって,地域内の財貨の循環が活発になることが指摘できます。地域経済活動の活発化への貢献としては,大規模農産物直売所の方が小規模農産物直売所よりもインパクトは大きく,消費者にとっては安価で良質な生鮮食品が持続的に提供される場となっている。農産物直売所は既存の卸売市場流通システムと異なるもう一つ別の流通を形成していると言えます。

本日はこのくらいで失礼します。