食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

放射能汚染と予防原則

2011年06月08日 | 食と農

梅雨らしいお天気です。キャンパスの紫陽花(野生種)も花を咲かせ始めました。

さて,前回の記事に対して,一番の読者である家内からクレームが付きました。指摘箇所は次のところです。

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リスク評価は国の食品安全委員会の仕事で,私たち一般の研究者や国民はそれを信用するしかないという人は多くいます。でも,私は「過大に信用」するよりも,「風評」と批判されようと用心深い食品選択を目指すべきではないかと思います。

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この部分については,マスコミの「福島を食べて応援しよう」とか,「風評被害に負けるな」というステレオタイプの最近の報道に違和感を持っていて書いたものです。その科学的ベースとなるのは予防原則です。

予防原則とは予防措置原則とも言い,科学的根拠が明確になっていないという理由で環境悪化や健康被害を防ぐ対策や規制措置を可能にする制度や考え方のことです。1990年代からヨーロッパで使用されてきました。EUでは遺伝子組み換え食品を禁止しているのはこの概念が下敷きになっています。今回の原発事故でフランスやドイツや中国の大使館が自国の国民に対して,日本からの退去・避難を命じたのは予防原則とも言えるかもしれません。

そんな中,朝日新聞(2011年6月7日)の「私の視点」で綾部広則さんが書いた,「風評被害 予防原則に基づく対応を」という記事を見つけました。著作権の関係でここに転載は出来ませんので,ぜひ朝日新聞・本紙,または「聞蔵 デジタルニュースアーカイブ・フォーライブラリー」でお読みください。

以下,記事をかいつまんで紹介すると以下のとおりです。

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 東京電力福島原発事故の被害がまだ「確定」してない段階で,風評被害の問題ばかりを強調する姿勢はバランスを欠いている。今回の事故では予防原則の言葉はほとんど見かけない。
 風評被害の防止が問題となるのは,それがグレーゾーンにあるものをシロと解釈させる効果をもつからである。被害を実際よりも小さく見せかけることになる。これに対して,予防原則の立場に立てば、クロと解釈する傾向が強くなる。その結果,逆に被害を大きく見せかけることになる。シロかクロかはあくまで事後的にしか「確定」できないし,簡単に白黒をつけられるわけではない。いまの状況下で,科学的に「確定的」なことをいうのは容易ではない。
 人体や環境に対して取り返しのつかない可能性が生ずる場合には,軽率にシロと判断せず、たとえその時点では科学的にクロであることが明確ではなくても,対策を打っておくという姿勢が求められる。これは過去の公害事件から我々が得た教訓だったはずである。

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この記事を読んだ家内は,「あなたが言いたかったことが分かった」そうです。綾部さんエライ。

ちなみに,先に紹介した「朝日新聞・聞蔵」で3月11日以降,「予防原則」の語句が入った記事を検索すると,以下の4件がヒットしました。

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1  2011年06月07日 朝刊  (私の視点)風評被害 予防原則に基づく対応を 綾部広則 
2  2011年06月01日 夕刊  <解説>根拠、まだ限定的 携帯電話発がん性、予防へ早めの指摘 IARC 
3  2011年05月21日 朝刊  (政治時評2011)原発への不安、政治はどう向き合うべきか 飯田哲也さん 
4  2011年03月24日 朝刊  (朝日アジアフェローから)東日本大震災 予防原則の議論重ねよう 明日香壽川 

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過去1年間では10件でしたので,約3ヶ月で4件というのは多いのかもしれません。

最後に付け加えることがあります。

グレーゾーンのものをクロと判定することで産地には大きな損害が発生します。その損害は,第1に東京電力が賠償すること。それが不可能な場合は国が責任を持って賠償する必要があります。その結果,電気料金が上がったり,国民の税金,場合によっては増税も甘受しなければなりません。しかし,風評被害の防止という名目で,国民の健康被害という犠牲により解決するのは筋違いというものでしょう。

放射能汚染の問題については,科学的なエビデンスに基づいて議論しなければならないと思います。それとともに,予防原則に則った対応をとるべきだろうと思います。

あじさい2