食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

農産物直売所がめざすもの

2008年02月26日 | 食と農
卒論と修論の発表会が終わり,キャンパスはずいぶん静かになりました。

さて先日,福岡県のA地域に出張しました。折からの強い寒気が北部九州にも吹き込み,雪が舞っていました。

今回はA普及センターのIさんのお誘いで農産物直売所を5か所見て回り,2か所でお話をしました。2つの会場で話した内容はテーマは少し違うのですが,共通するのは地産地消と農産物直売所です。

研修会に参加した人達の興味は,これからの農産物直売所をどうしたらよいかという点に集中しているようでした。福岡県には大型の農産物直売所が次々と開設され,年間の売上高が10億円を超えるところも珍しくなくなりました。
その一方で,テント張りやバラック建ての小さな小屋で営業する農産物直売所も数多くあります。

最近,農産物直売所の代表者や出荷者から話を聞いておかしいな思うことは,経営目標が「売上高,至上主義」になっているように感じることです。これって,農協共販の販売金額を増やし,市場シェアを拡大し,販売単価を高めようと,ちょっと昔に辿った途ではないかと思うのです。どこに行っても農産物直売所は同じような店作りと商品展開では,そのうちにお客さんに飽きられてしまうのではと危惧します。

2006年9月にQ大のHさんの科研でアメリカ西海岸のファーマーズマーケット(FM)を調査したときの驚きがまだ新鮮に残っています。
調査したFMの1か所は常設の建物で営業していましたが,それ以外は毎週特定の曜日,半日道路を封鎖して道の両側にテントを張って営業するスタイルでした。

そして,FMは市役所の市民課やNPOが運営し,営業できる農場と場所を決める権限を持っていましたが,そのマネージャーは口を揃えて,FM設置の目的は小規模農家の育成と市民への食教育と話していたことです。

FMの中央部には本部のテントがあり,そこではおみやげのTシャツやトートバッグを販売するとともに料理のレシピを配布していました。

振り返って日本の農産物直売所に設立理念や経営理念を掲げたり,「この直売所では食教育を行っています。」などと店長が話していることを聞いたことはありません。最近でこそ,農産物直売所が介在して小中学校の学校給食に食材を供給するところも出てきましたが,まだ少数です。

これからの農産物直売所は,売上高を増やすことに血道をあげるのではなく,もう少し社会貢献や地域貢献にも取り組む必要があると考えます。10億円の売上の1%は1000万円。0.1%でも100万円になります。地域社会に無くてはならない農産物直売所こそ,持続可能なのでないでしょうか。大きいことが良いことではないと思うのです。

地域通貨はなぜ広がらないのか

2008年02月09日 | 食と農
東京は曇りです。 また,先週に続いて雪が降るそうです。雪国の人が見ると大騒ぎするなと言うでしょうね。

さて,昨日は卒論発表会でした。カメさんチーム(4年生)もラストスパートが効いて,個性豊かなプレゼンができました。M2も同じ日に修論をどうにか提出できました。あとは修論発表会です。頑張ってください。

大学はこれから前期個別入試,後期個別入試,卒業式と大きなイベントが控えています。その間を縫ってあちこち調査に行く予定です。きょうは先月末に現地調査した地域通貨についてお話しをしましょう。

地域通貨とは地域限定または会員限定の通貨です。日本には200から300の地域通貨があると言われています。私は5年前からM大のHさんや農村工学研究所のKさん達と地域通貨を利用した農産物流通方式について細々と研究を続けています。興味がある人はAmazon.comで「地域通貨」を検索してください。関連する書籍が出てきます。

日本における地域通貨の契機は,NHK衛星放送で1999年5月に放映された「エンデの遺言-根源からお金を問う-」だというのが通説です。この番組は,ミハエル・エンデが日本人への遺言として残した一本のビデオテープ(1994年撮影)を元にして制作されました。

その内容は,資本主義体制下の金融システムを痛烈に批判し,日常使用している国家貨幣の問題を問い直すこと。そして,そのオルタナティブな通貨として世界で実践されている地域通貨を紹介するとともにお金の未来を展望をするというものです。

この番組を見て地域通貨を始めたという組織や団体が多いことは,これまでの聞き取り調査や地域通貨の開始年を検証すれば判明します。しかし,問題は地域通貨がなかなか広がらないことです。

マスコミに取り上げられた有名な地域通貨が,現在は活動を停止したという情報をあちこちで聞きます。どうして広がらないのでしょう。国家(国民)貨幣のように自由に流通しないことが地域通貨のメリットなのですが,それが流通の障害になっていることも事実です。

1月末に調査した奈良県明日香村の「飛鳥」にしても,滋賀県大津市の「仰木(おうぎ)」にしても,野菜との引換券でしかありませんでした。つまり,発行者に直ちに地域通貨が戻って,地域内で循環することはないのです。

世界規模で発生する貨幣の暴力や投機などから暮らしを守るために生み出された地域通貨が広がるためにはどんな仕組みが必要なのか,今後も考えていきたいと思います。

これから推薦入学Ⅱの合格者選考の教授会が行われます。気温もだいぶ下がってきました。