食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

広がるか,地産地消

2005年05月31日 | 食と農
本日は大学の創立記念日でお休みですが,仕事が片付かない私は出てきています。
大学法人になって唯一の利点とも言える休日増の恩恵を受けていません。

さて先日,農林水産省が主催する地産地消の検討会に参加しました。思ったより大がかりな会議でした。基本計画には,地産地消によって食料自給率を上げるという目標が掲げられているのです。
結構,わが国も本気かも。

ところで,地産地消とは,地域(地場)生産,地域(地場)消費の略称として使われています。地産地消という用語のはじまりは,Sさん(元農林水産政策研究所長)が1987年頃に適地適産や地場生産・地場消費と言う用語から造語したと言われています。

しかし,それ以前に地域主義の思想や有機農業などの分野で,同様な用語は使用されていたのです。特に身土不二とは深い関連があります。これは仏典に出てくる言葉で,身(からだ)と土(つち)は一体であるという意味で,食養道運動をやっている人たちは,自分の住む四里四方でとれた旬のものを正しく食べることを理想としていました。

一方,全国の地方自治体では,地産地消をキーワードとして地域農政の主要な事業と位置づけて,地場農産物の生産拡大と地域内流通を推進しています。また,小中学校の学校給食において,できるだけ地場産または県内産の農畜産物を利用する運動も行われています。

地産地消が行政の特段の関与もなくこれほど広がった要因は次のようなことがあります。
高度経済成長以降,増大する都市人口に食料を供給するために産地は大規模化し,都市周辺部から遠隔地に移動しました。その結果,都市と農村の距離は離れ,大規模広域流通が進展した。しかし,大規模広域流通は,見かけ上の品質にこだわるため選別基準が厳しく,その結果流通コストが高くなり,鮮度も劣るという短所がありました。そのオルタナティブとして地場流通の推進が1970年代から唱えられてきたのです。

しかし,地場流通には次のような長所とともに短所もあるため,それほど広がらなかったのです。地場流通の長所としては,①流通時間が節約され,鮮度が良く,適熟品の取引が可能なこと,②余分な輸送や包装資材を省くことが出来,流通コストが低減できること,③零細農家や高齢農家など農協共販になじまない生産者の出荷先が確保できること,④生産者と消費者の相互信頼が生まれやすいことなどです。

一方,短所は,①生産量と消費量が限られるため,需給調整が困難なこと,②取り引き可能な品目数が限られるため,品揃えが困難なこと,③周年的な取引が難しいこと,④気象変動による出荷量が大きく変動し,価格も乱高下しやすいことなどです。

このような長短所がありながら,地産地消への関心が深まる背景には,他人まかせの食への不安があると思います。それが,農産物直売所や学校給食への消費者や生産者の関心を集めているのではないでしょうか。これは,消費者から食の現場につながる主体への転換であって,地産地消は国に任せていた食と農の仕組みを地方に分権させる運動とも言えると思うのです。

今日も堅くて長いお話になりました。すみません。

食品の安全と安心とはなんだろう

2005年05月24日 | 食と農
先日,食品の安全性問題に取り組んでおられるK弁護士の話を聞く機会がありました。Kさんは,規制緩和と食品の安全性問題というテーマで熱弁を振るわれました。

お話しには初めて聞く話題もありました。そのひとつは,「食品は抗生物質を含有してはならない」という大原則を覆し,食品安全委員会が食品添加物としてナタマイシンという抗生物質を許可する答申をしたことです。

厚生労働省の資料によれば,「ナタマイシンは抗生物質の一種類であり,チーズやソーセージの表面処理用保存料として,米国,欧州連合のほか諸外国において広く使用が認められている。」とあります。「食品は抗生物質を含有してはならない」という原則があったのは,耐性菌が出現することを危惧したからですが,ナタマイシンに関する耐性菌出現やADI設定のバックデータは1960-70年代の論文しかなくて相当に古いのです。

これは,ナタマイシンに限ったことではなくて,2002年7月に「国際的な整合性」に照らして選定された46品目の食品添加物があり,それらの食品健康影響評価については,粛々と認定作業が進められようとしているのです。

食品安全委員会は,国民にわかりやすくこれらデータを示し理解を得ながら進めるべきですが,ナタマイシンの食品健康影響評価の結果を連休の谷間の5月6日に厚生労働大臣に通知しました。そして,新聞等にはBSE問題のみがクローズアップされて,抗生物質が食品添加物として認可されたわが国最初の事例は覆い隠されたわけです。

ところで,食の安全・安心と並べて言われてきたフレーズが変わろうとしていることを皆さんはご存じですか? 安全は科学的根拠や基準に則った用語だが,安心は人の心の持ちようであり基準とならないという「理由」から,行政用語から安心は削除されつつあります。これに関して,Kさんは政策の判断根拠は国民が納得するか否かであり,裁判の結果も原告,被告が納得するか否かである。つまり,根本は納得であり納得なきところに安心もないと喝破されたのです。

食品安全委員会は科学的根拠によってリスク評価すると言っていますが,自然科学だけが科学ではないと思います。科学的認識を行うには,自然科学に加えて人文科学や社会科学も動員する必要があるように思います。皆さんはどう思われますか?

今回は少し堅い話になってしまいました。

パンの大きさの違いはどのくらいまでなら許されるか?

2005年05月16日 | 食と農
先日,S県のパン工場に行ってきました。
この工場では学校給食会と協力して県産小麦を利用したパンを作っているのです。
開発の苦労やパンの加工適性に合った小麦の品種が登録されないことなど興味深い話を伺いました。


インタビューが終わり,工場の中を見学させてもらうことにしました。
異物が混入しないように白衣に着替えて,帽子とマスクも付けました。

工場の中は,大型機械がパン生地をこねる大きな音が響き,焼成窯の温度も感じて,とてもにぎやかでした。小学校の社会科見学以来のパン工場です。

そこで見た珍しい作業風景を写真に収めました。

職員の人達は,できあがったパンの大きさを検査しています。
ちょうどラインに乗っていたパンは,ホットドッグ用のパンでP社のOEM商品です。
規定の長さと1センチ以上違うとはねるそうです。もったいないあーと思いました。
はねられたパンのゆくえが気になりますが,工場内の直売所にて原材料費相当で販売されているそうです。当日も店の前には長い行列が出来ていました。

だけど,ここで疑問です。
大きさが少しぐらい違ってもいいじゃなーい,と思いませんか?
幸いゴミにはなりませんが,工場としてのロス率は1%程度だそうです。

工場としては,加工依頼者のP社の指示は絶対なのでしょうね。
工業製品を作るようにパンを作る必要があるのか大いに疑問が残りました。

5/10の講義に関連して---穀物自給率の特別の意義とは

2005年05月10日 | 農業市場学
 穀物自給率の特別の意義とは何ですか?

 先進資本主義国では,穀物自給率が27%(2003年)と低位にあるのは日本だけです。
1億人以上の人口の国の穀物自給率をみると,中国95%,インド107%,EU108%,アメリカ127%,インドネシア87%となっています。

穀物は直接人間の食料として役立つだけなく,家畜の飼料としても不可欠のものです。
また,畜産物の自給率は一見すると高いように見えますが,日本人が摂取している畜産物の大部分が輸入穀物飼料が転化したものです。

 地球的規模の異常気象や国際紛争による貿易の停止,石油エネルギーの不足や海運ストによる輸送の混乱などによって,穀物の輸入が停止すれば,日本は食料不足となります。輸入穀物飼料の存在なくしてわが国の畜産は存在しえないのです。

 以上のことから,食料自給率の本当の水準を示すものとしては,穀物自給率が重視されるのです。

江戸散歩と甘味屋

2005年05月07日 | 食と農
連休はどこか出かけましたか?

我が家は特に行くところもなく,先日の房総(暴走?)旅行で散財したこともあって,家でじーとしていました。
でも,あまりにお天気がよいので江戸の町を散歩することにしました。

都営新宿線の森下駅で下車して,芭蕉記念館→隅田川沿い→清澄公園→深川江戸資料館→富岡八幡宮→あげまんじゅう(1個200円高い!)と歩き,門前仲町駅から春日----巣鴨へと地下鉄で移動しました。
はじめて来ましたおばあちゃんの原宿。

ちょうど四の付く縁日でもあり,ラッシュアワー並の人出です。
露店もたくさん並でいて,大にぎわいでした。
でも,買いたいものはあまりありませんでした。もう少し年をとる必要があるかも....。

地蔵通り商店街の端には,なぜか甘味屋さんが並んでいました。きっと,歩き疲れて休む人達のオアシスなんですね。私たち三人も入りました。
田舎ぜんざいとクリームあんみつを注文しました。とても美味しかったです。

店を見渡すと,結構おばあちゃん一人で食べているんです。友達や家族で巣鴨に来る人も多いのでしょうが,ひとり暮らしのお年寄りが,賑わいを求めて集まるのかなと思った次第です。
これも,都市の姿の一断面を写しているようでした。

その後,都営荒川線と都営バスを使って帰途につきました。一日乗車券(700円)を使い倒した江戸の散歩でした。歩数計は1万2千歩を示していました。

市民農園は楽しいよ#2

2005年05月06日 | 食と農
市民農園についてまた書きます。

F市の市民農園は永続的に利用できません。
多くの人に利用してもらうために,利用期間が2年に制限されています。
そのための問題点もあります。

一つは,地力収奪的な利用になりがちだと言うことです。つまり,堆肥等を入れて畑の土を肥やそうとしても,2年間で別の区画に移動になりますので,短期間でたくさんの野菜を収穫しようとするのが人の常でしょう。
その結果,化学肥料や農薬に頼る栽培になりがちです。

二つめは,耕作者は以前の栽培履歴が分からずに,同じ作物を栽培することがあることです。
農薬を多投している畑に当たったら最悪です。

地域によっては長期間の貸与が出来たり,滞在用の小屋を併設したりしているところもありますが,日本ではまだ少数です。

土をさわりたい,野菜や花を栽培したいという都市住民の願いは高まっているように思います。
市民の畑へのアクセスが容易になれば良いなと思います。


写真は今年5月3日の畑です。手前1列目の畝には,右からホウレンソウ,ルッコラ,サラダ菜,小松菜,2列目右から,春菊,水菜,3列目右からキュウリ,ピーマン,トマト,シシトウを植えています。毎日,毎日,すごい生長です。