食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

都市農業と有機農業

2005年12月22日 | 食と農
あとさきになりましたが,12/10-11,恵泉女学園大学で行われた日本有機農業学会大会の報告をします。プログラムの詳細は,学会のホームページをご覧下さい。 http://homepage.mac.com/yuki_gakkai/

私は,2日目の特別セッションの座長を担当しました。でも,報告者のアレンジは大会実行委員長のSさんがすべてされたので,自分で「チーママ」と自己紹介しました。

報告者は,藤沢市で有機農業を実践される若手のAさん,練馬区で風の学校を主宰するSさん,八王子市で酪農と乳加工を行っているIさんの3名です。一度に有名な3名からお話しを伺えるのはとても幸せなことでした。
ここでは,3名の報告を聴いたとと合わせて,私が感じたことを綴りましょう。

最初のAさんは有機農業2世代目の青年農業者です。畑のすぐ隣が住宅地という都市農業のハンディキャップを補いながら,消費者との提携活動を進めています。

しかし,初期の提携とは様変わりしています。大きな要因は,どこでも誰でも有機農産物が買えるようになったことです。提携している消費者も高齢化し,「お気楽モード」に入り,生産者にとって有機農業が重荷になることもあるそうです。

そんな彼はいま,「農・未来塾」を主宰し,若手農業者や学生との学習・交流会を定期的に自宅で行っています。今後提携活動を拡げていくには,「市民が農家に来てもらう」ことが大事だと認識しています。私流に言えば,「閉じた提携から,半開放的な提携へ」の模索でしょうか。
生産者と消費者双方の農業や農地に対する思いを出来るだけ同じかたちになるようにすることが大事だとAさんは考えています。

次は練馬で300年以上農業を続けている農家のSさんです。Sさんは減農薬農業を行っていますが,「有機農業学会で報告するなど,畏れ多い」と冒頭に話されましたが,その農業の実践は有機農業そのものだと感じました。
Sさんは「畑を都市に開き,都市に見合った農業を行う」という方針で,1993年から体験農園を仲間と一緒に始めたのです。それは,「農家が経営し,市民が学ぶ農園」です。生産資材と農具は農家が提供し,市民は受講料を払い,出来た野菜をもらういう仕組みです。受講者は最長5年間の受講更新が出来ます。いわば,農業のカルチャー・スクールです。

農家は市民からの入園料(受講料)として年間3万1千円プラス区役所から1万2千の補助金が入ります。50アールの畑を125区画にしていますので,合計537万5千円の粗収益になります。所得率75%で,農業所得は約400万円となり,まずまずの金額です。

Sさんの畑面積は140アールありますので,体験農園以外は自らが栽培して,庭先販売や農産物直売所に出荷しています。また,地域の小学校の学校給食へも野菜を提供しています。卸売市場への出荷は全体の1%しかないそうです。

彼は「21世紀は農業の時代,都市農業の時代だ」という意欲でがんばっています。パワフルで軽妙洒脱なお話に魅了されました。

最後はIさんです。ホルスタイン種,ジャージー種,ブラウンスイス種などの乳牛を約70頭を飼育しています。これだけの牛がいますと,ふん尿の処理とともに臭いが問題になります。Iさんは周辺住民からの苦情をきっかけにさまざまな臭い対策を行い,現在はカカオ豆の殻とコーヒー豆の微粉を敷料として使い,コーヒーの匂いがする牧場として住民に親しまれています。

また,20リットルの生乳殺菌装置を導入して,牛の名前が入ったヨーグルトを500mlを1300円で販売しています(ちょっと高いような...)。私は食べたことがないので,一度食べてみたいなと思いました。

Iさんは,悪臭問題を契機にして住民や消費者との関係性を大事にしたいと思っています。これはプレミアム・ヨーグルトを広域で販売するためにも重要な戦略だと思います。

以上,3名の先進農家の話を聴いて共通していることは,有機農業も農業も開かれていることが大事だと言うことでした。それも単に開いているだけでなくて,生産者と消費者が関係性を持ちながら,つながっていることが大事です。
とても充実した時間でした。アレンジしてくれたSさんありがとうございました。

(写真は,恵泉女学園大学の有機農業農園です。学生は畳半畳の面積を2人で栽培管理するそうです。)

U.S.ビーフ食べますか?

2005年12月14日 | 食と農
コメント盛り上がっていますねー。皆さん読んでいただきありがとうございます。お陰様で,12/04~12/10の閲覧数は209 pv,アクセスIP数は81と,最高を記録しました。

さて,12/10-11にあった有機農業学会の報告をしようと思ったのですが,昨日参加した日本グローバルマーケティング学会(会長:梅沢昌太郎)の報告を先に行います。この学会は昨年に立ち上がったばかりの小さな学会ですが,日韓の研究者,学生のほかに流通関係者や関連団体も参加していて学際的です。

昨日は11本の個別報告が行われたのですが,特別報告としてアメリカ大使館のクレイ・M・ハミルトン上席農務官が「牛肉問題をめぐる問題」について報告しました。このアレンジをした人に聴いたところ,「牛肉輸入問題は12日頃には決着する見込みなので,13日の報告は大丈夫だろう」というアポイントを1カ月前にはもらえたそうです。

報告の内容は,USDAやアメリカ大使館が出しているステートメントそのままで,新しく聴く内容はあまりなく,「アメリカの牛肉は安全」という主張を繰り返していました。そして,返す刀で,日本の一部マスコミの「悪意ある報道」について批判していました。

質疑応答では,肉骨粉の交差汚染の問題やBSE罹患牛が2頭しか出ない理由についても,従来からのアメリカの主張通りです。「フ-ド・セイフティにはついては,アメリカは一番厳格な制度を持っている。」「2頭しかBSE罹患牛が出ないのは,15年前からBSE対策を実施している蓄積である。」このようなものでした。

また,日本の全頭検査では消費者に安全を与えることが出来ないこと。そして,「アメリカの牛肉を待ち望んでいる消費者もおり,U.S.ビーフを買う,買わないは,消費者の選択の問題である。」と言い切りました。

私も「あなたは立場上,U.S.ビーフを食べると思いますが,あなたの家族は食べていますか?」という質問を拙い英語で質問しました。すると,ハミルトン氏は,「残念ながら,いま日本ではU.S.ビーフは食べられません。(笑い声)昨日の農務長官のインタビューで,彼はほぼ毎日食べていますし,子どもも食べていると答えていました。自分の子どもに,安全でないものを食べさせる親はいません。」と,答えました。ちょっと,私の追求が弱かったですね。

本日(12/14)の朝日新聞によれば,「米国食肉輸出連合会は,米国産牛肉の日本向け輸出再開の第1便について,17日にコロラド州デンバー出発,18日に成田空港到着という日程を明らかにした。量は100~200キログラムで,21日に同連合会が東京で開く記念昼食会に出す。」とあります。たぶん,盛大なセレモニーが行われ,クリスマスにはU.S.ビーフが市中に出回ることでしょう。

さて,あなたは,U.S.ビーフを食べますか

ふゆ・みず・たんぼを見てきました。

2005年12月06日 | 食と農
12月1日,Q大のHさんの科研(農産物の関係性マーケティング)で,宮城県田尻町に行ってきました。

田尻町の蕪栗沼(かぶくりぬま)と湿地160haと周辺水田合わせて423haが,今年の11月にラムサール条約湿地登録に認定されたのです。そして,その周辺水田で生産される有機米を「ふゆ・みず・たんぼ米」として消費者に販売しているそうです。

ところで,ラムサールという言葉の由来はご存じですか? この条約が採択された「水鳥と湿地に関する国際会議」が開催された,イラン北部,カスピ海湖畔にある町名だそうです。

もう一つの主役は,真雁(マガン)です。真雁はシベリアから冬期越冬のため日本飛来するのですが,蕪栗沼と周辺湿地には真雁のほかにオオヒシクイやオオハクチョウなど5万羽以上が飛来する国内最大の越冬地だそうです。これらの渡り鳥は蕪栗沼をねぐらとして,夜明けと同時に飛び立ち,半径10-15kmの水田をえさ場として,夜にまた沼に帰ってくるそうです。その飛び立ちと帰ってくるときの鳴き声と姿に圧倒されるそうです。是非,次の機会は見てみたいものです。

ことしの「ふゆ・みず・たんぼ米」は21haです。思ったより少ないです。これは,登録地域内の水田で無農薬・無化学肥料栽培された米しか「ふゆ・みず・たんぼ米」として表示できないからです。この仕掛け人が田尻高校の生物教師Iさんと役場係長のTさんです。今回はTさんからのヒアリングでしたが,二人にロマンを語らせると延々と話をしてくれます。Iさんは本業以上に「ふゆ・みず・たんぼ」に入れ込んでおり,近く高校教師を辞職して「NPO法人たんぼ」の理事長になるそうです。すごいですねー。

問題点は,農協との関係がうまくいっていないことです。農協はロット管理以上の「あたま」がなく,また,「ふゆ・みず・たんぼ」は,Iさんと役場主導で行っているので,農協が関与するところがないというのが実態のようです。

もう一つの問題点は,首都圏のP生協とも米の取引を行っていますが,「ふゆ・みず・たんぼ」の名称が使われず,生協のPBブランドでカタログに掲載されていることです。産地としては交流やエコ・ツーリズムだけではなく,「ふゆ・みず・たんぼ」の努力をきちんと評価してもらうことを願っています。

私たちは,12/1の田んぼに水を流す行事に立ち会いました。テレビ局が6社も来ていることにびっくり。寒風荒ぶ中,水が出るまで約1時間も待っていて,本当に凍えました。カメラマンも時間つぶしに,田んぼ見ながらなぜか笑っている私たちを撮影していましたが,夕方のニュースにはたんぼしか映っていませんでした。残念!

これからも注目したい取り組みです。