さて今回は,バイオマスエネルギーに関してエネルギーと食料のトレードオフについて考えたいと思います。
最近の新聞ではバイオマスエネルギーと穀物価格の高騰を関連させて紹介する記事が増えています。アメリカがトウモロコシを原料としたバイオエタノールを増産することになった時点でこのような現象は予想されていたことでした。
一般に穀物価格高騰の要因は次のように整理されています。
第1は,世界の穀物の在庫率は1970年代初めの水準である15%に低下する一方で,小麦の世界輸出量第2位のオーストラリアが干魃により小麦の収穫量が減少する見込みがあることです。
これを契機として,アメリカではトウモロコシから小麦作付にシフトし,トウモロコシの作付面積減少という思惑からトウモロコシの先物価格は上昇しました。ドミノ倒しのように,トウモロコシの増産→大豆の減産→大豆価格の上昇と価格上昇の波は穀物全般に及んだのです。
第2は,世界的な人口増と途上国の経済発展による穀物の需要増大があります。中国やインドなどでは食肉や植物油の消費量が増大していますが,家畜用飼料や油糧用原料としての穀物需要は急増しています。
第3は,穀物需要における食料とエネルギーとの競合です。ブラジルはサトウキビ生産の半分をバイオエタノールに回していて,エタノールの生産量は1740万KL(2006年推計値)です。また,アメリカは急速にバイオエタノールの生産量を増大していて,2006年にはブラジルを追い越し生産量は1890万KLで世界一になっています。
ところで,バイオエタノールの製造は,発酵原料により次の3つに分類できます。一つめは糖質です。糖蜜やサトウキビやビートのジュースです。二つめはでんぷん質です。トウモロコシ,サツマイモ,キャッサバを粉砕後,アミラーゼにより液化,糖化したのち発酵させます。三つめはセルロース系です。草本や木質を粉砕後,硫酸により分解し,セルラーゼにより糖化したのち発酵させます。商業ベースで稼働しているプラントは糖質とでんぷん質を原料にしたもので,セルロース系は実験段階だそうです。
人間や家畜が直接利用できないセルロース系のバイオエタノールの開発と利用は積極的に進める必要があります。しかし,食料との利用競合が発生する糖質やでんぷん質のエタノール化は慎重に行う必要があります。
人類がこの地球上で利用できる土地(耕地)面積は限りがあります。経済的勝者が自分の都合で貴重な食料をバイオマスエネルギーに転化することは許されないでしょう。
翻って,日本の食料自給率(2005年)はカロリーベース40%,穀物自給率28%と生存に必要な食料を輸入に依存しています。また,2010年代に世界的な穀物需給が逼迫することが予測されています。今のうちからエネルギーと共に食料の自給率を高める努力が必要だと思います。
本日は前期日程の入学試験です。受験者の皆さん,実力を出し切ってください。