食農ステイション

食と農に関するお話しを徒然なるままにいたしましょう。

バイオマスエネルギーの未来 (その2)

2007年02月25日 | 食と農
先日,我が専攻の修論発表会がありました。修士課程2年間の研究成果の発表です。皆それなりに,自らの到達点を確認できたようです。私も肩の荷が少し楽になりました。

さて今回は,バイオマスエネルギーに関してエネルギーと食料のトレードオフについて考えたいと思います。

最近の新聞ではバイオマスエネルギーと穀物価格の高騰を関連させて紹介する記事が増えています。アメリカがトウモロコシを原料としたバイオエタノールを増産することになった時点でこのような現象は予想されていたことでした。

一般に穀物価格高騰の要因は次のように整理されています。
第1は,世界の穀物の在庫率は1970年代初めの水準である15%に低下する一方で,小麦の世界輸出量第2位のオーストラリアが干魃により小麦の収穫量が減少する見込みがあることです。
これを契機として,アメリカではトウモロコシから小麦作付にシフトし,トウモロコシの作付面積減少という思惑からトウモロコシの先物価格は上昇しました。ドミノ倒しのように,トウモロコシの増産→大豆の減産→大豆価格の上昇と価格上昇の波は穀物全般に及んだのです。

第2は,世界的な人口増と途上国の経済発展による穀物の需要増大があります。中国やインドなどでは食肉や植物油の消費量が増大していますが,家畜用飼料や油糧用原料としての穀物需要は急増しています。

第3は,穀物需要における食料とエネルギーとの競合です。ブラジルはサトウキビ生産の半分をバイオエタノールに回していて,エタノールの生産量は1740万KL(2006年推計値)です。また,アメリカは急速にバイオエタノールの生産量を増大していて,2006年にはブラジルを追い越し生産量は1890万KLで世界一になっています。

ところで,バイオエタノールの製造は,発酵原料により次の3つに分類できます。一つめは糖質です。糖蜜やサトウキビやビートのジュースです。二つめはでんぷん質です。トウモロコシ,サツマイモ,キャッサバを粉砕後,アミラーゼにより液化,糖化したのち発酵させます。三つめはセルロース系です。草本や木質を粉砕後,硫酸により分解し,セルラーゼにより糖化したのち発酵させます。商業ベースで稼働しているプラントは糖質とでんぷん質を原料にしたもので,セルロース系は実験段階だそうです。

人間や家畜が直接利用できないセルロース系のバイオエタノールの開発と利用は積極的に進める必要があります。しかし,食料との利用競合が発生する糖質やでんぷん質のエタノール化は慎重に行う必要があります。
人類がこの地球上で利用できる土地(耕地)面積は限りがあります。経済的勝者が自分の都合で貴重な食料をバイオマスエネルギーに転化することは許されないでしょう。

翻って,日本の食料自給率(2005年)はカロリーベース40%,穀物自給率28%と生存に必要な食料を輸入に依存しています。また,2010年代に世界的な穀物需給が逼迫することが予測されています。今のうちからエネルギーと共に食料の自給率を高める努力が必要だと思います。

本日は前期日程の入学試験です。受験者の皆さん,実力を出し切ってください。

バイオマスエネルギーの未来 (その1)

2007年02月16日 | 食と農

先日,バイオマスエネルギーのシンポジウムがありました。いろいろと考えるところ大でした。そこで,シンポの内容を紹介しながら,バイオマスエネルギーについて考えてみます。

シンポの報告者は,NPO法人の代表者,東近江市・菜の花館長,農林水産省・環境政策課長,本学教員でした。簡単に報告を要約します。

バイオマス(Bio-mass)とは,生物資源量という意味の生態学の用語です。1974年の第1次石油危機以後,バイオエタノールのようなエネルギー利用できる生物資源を指すようになったそうです。

バイオマスは大きく廃棄物系バイオマス,未利用バイオマス,資源作物に分類できます。バイオマスの潜在量は,世界のエネルギー総需要量の約7-10倍あるとされ,
また,世界のエネルギー需要の1割以上を占め,石油,石炭,天然ガスに次ぐ消費量です。

国内のバイオマスの年間賦存量は,家畜排泄物が約8900万トン,下水汚泥(濃縮)7500万トン,食品廃棄物2200万トンなどです。

バイオマスを使うメリットは,第1が気候変動の防止です。
京都議定書ではカーボンニュートラル(実質的に大気中のCO2を増加させない)として評価されており,削減目標の達成のためにはバイオマスの利用拡大が不可欠といわれています。

第2は循環型社会の形成。第3は戦略的産業の育成。第4は農山漁村の活性化です。
この点で有名なのは,東近江市の菜の花エコプロジェクトです。住民主導のリサイクルシステムを1986年から開始し,今では,食とエネルギーの地産地消を進めています。興味ある人は,ホームページを参照してください。 

http://www.city.higashiomi.shiga.jp/subpage.php?p=5405&t=1152908808

アメリカやEUではバイオマス利用の取り組みは早く,研究も進んでいます。EUは07年2月15日のエネルギー担当相理事会で,太陽光,風力,バイオマスなどの再生可能なエネルギーの使用割合を2020年までに20%まで高める目標の導入で合意しました。現在は約7%です。

それに対して日本は,「2周遅れ」(農水省課長)で進んでいます。
2002年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し,2006年3月には新たな総合戦略を策定しています。安部首相は国産バイオ燃料の大幅な生産拡大を農水大臣に指示しました。その量,全燃料の1割に当たる600万KLです。でも,農水のロードマップでは5年後に5万KLと妥当な水準になっています。

さて,このように世界規模でバイオマスエネルギーの開発と利用が進んでいますが,その一方で,穀物の国際価格が急騰しています。
エネルギーと食糧のトレードオフと言えます。

本論はこれからですが,本日はこれまで。

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参考文献
・(社)日本有機資源協会『バイオマス・ニッポン』,2006年3月
・NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク『バイオマス白書2007ダイジェスト版』,2007年2月
・東京農工大学・地域エネルギー自給率向上のためのグリーンバイオマス研究グループ『バイオマスシンポジウム資料』,2007年2月
・日本経済新聞,朝刊,2007年2月16日

 


市民農園と地力

2007年02月13日 | 食と農
キャンパスの紅梅は満開です。白梅も咲き始め,まるで春のようです。

1月末に2年間借りていた市民農園の畑(12平方メートル)を返しました。小さな畑ですが,3人家族には十分な量の野菜を供給してくれました。感謝!!!

市役所との契約は2年間で,継続して同じ畑を利用できません。そのため,農園を見渡すと地力を高めるために堆肥を入れている畑は少なく,化学肥料に頼った栽培を行っている人を多く見かけます。また,ジャガイモを連作する地力収奪的な栽培も結構あります。

また,畑を見ると人間性がよくわかります。自分の区画をネットで囲い,「人や鳥は寄せ付けないぞ」と主張している人がいます。また,隣の区画との間はあぜ道として互いに耕さないのが普通ですが,境界ギリギリまで耕してる人も多いのです。

来年度から3年契約の市民農園が新しくできたので,私はそれに応募しました。抽選に当たると良いのですが。

ベルリンに行ったとき聞いた話です。通訳の人(日本人)は義父からクラインガルテンを有償で譲渡してもらったそうです。毎週末になると,都心から郊外に向かう車で渋滞するのは,クラインガルテンで週末を過ごす人が多いからだそうです。

日本では農地法の制約のため,市民農園は長期的に利用できません。そのため,果樹も栽培できませんし,地力を増進することも不可能です。
日本で都市農地や都市近郊農地を利用した,永続的な市民農園の利用が出来る日はいつ来るのでしょう。
利用を待ち望んでいる人は多いと思うのですが・・・。

昨日までの3連休,久しぶりに何の仕事も入っていませんでした。
でも,畑をいじれず手持ち無沙汰な休みでした。トホホ。

日本の農業と農学部生

2007年02月02日 | 食と農
昨日と今日は卒論発表会でした。
約1年半にわたる研究期間の成果を報告するものですが,チョット頭を傾げるものから感心するものまで多様です。
また,私が所属するのは生物生産学科ですが,その教育研究内容はミニ農学部と言えるもので,DNAや生化学から作物,畜産,社会科学まで幅広く,学生の報告をきちんと理解できるものは年々少なくなっています。チョット寂しい。

それにしても,パワーポイントを利用したプレゼンテーションは年々技術は向上しています。でも,やり過ぎの発表もあってずっと見ていると目がチカチカします。

さて,昨日後期の講義科目の一つである「農業経営経済学演習Ⅰ」が終わりました。
この演習は,本学科2年生の必須科目で1クラス60数名の学生を2組に分けて演習するものです。テキストは「食料・農業・農村白書」を使っています。
ゼミは数名,多くても10名程度で行うのが望ましいのですが,教員の負担軽減と教育効果を勘案して3名の教員が1クラス(30名)を分担しています。教員1名当たり8コマを担当することになります。

最後の演習では,白書のむすびの部分を素材にして総合討議を行いました。報告者2名はそれぞれおもしろい論点を提示してくれました。ちょっと紹介しましょう。

*WTO農業交渉の部分で「守るところは守り,譲るところは譲る,攻めるところは攻める」とあるが,何を守り,譲り,攻めるのか?

*農業振興のために農学部生の私たちはこれから何をしていくべきか?

とても魅力的な論点を提示してくれましたが,30名という大人数ではなかなか意見も出にくく,毎回発言する学生からしか意見は出ません。
でも,出席カードにはたくさん意見や質問書いてくれるのです。最近の学生はシャイなんですね。

そこで,司会に最後だから全員が発言するように指示したら,おもしろい意見がたくさん出てきました。皆それぞれ真剣に農業問題について考えていることは確かです。

最後に,演習の感想と演習に関連した「川柳」をカードに書くようにお願いしました。その中から私が気に入ったものを載せましょう。

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・日本人 読まなきゃだめよ 農業白書 (A.S)

・数々の 意見飛び交う 三限目 (N.K)

・学ぶこと 聞いているだけでは 身にならない (J.K)

・智恵しぼり 論点出すも 意見なし (H.E)

・演習で マクロな視野が 身についた (K.K)

・まだまだと 思っていたら 明日発表 (N.O)
 
 <短歌を書いてくれた人もいました。>

・農という 枯れ木に花を咲かせしは 演習における 我らが一言 (N.E)
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彼らは,これからさらに2年間農学を学び,卒業または進学する事になります。
2年後には,自分に恥じないような卒論を書きあげて,りっぱな発表をしてくれることを期待します。

明日は節分,明後日は立春ですね。季節は確実に春に向かっています。