安東伸昭ブログ

安東伸昭の行動日記

特集・妊婦加算凍結の背景

2019年01月15日 | 福祉
平成31年1月15日 i-JAMP

特集・妊婦加算凍結の背景
 焦りの公明、霞が関揺さぶる―異例の決着振り返る

 昨年4月に診療報酬改定で新設された「妊婦加算」だが、政治の力で凍結が決まった。
2019年度税制改正では大綱決定がずれ込んだが、その要因となったのは自動車課税見直しという大玉ではなく、未婚のひとり親への支援策だった。
いずれも異例の展開となったが、それぞれに共通したのが公明党の「存在感」だった。

 連立与党の一角を15年以上担ってきた公明党だが、いつになく焦りを深めている。4月に統一地方選、夏は参院選を控える中、改憲への動きを本格化させる自民党と、「平和の党」に強い思い入れを持つ支持層とのはざまで対応を計りかねているためだ。妊婦加算問題などをめぐり霞が関官庁を大きく揺さぶったのは、安倍政権下での党の姿勢に対する厳しい視線を意識し、存在感のアピールを狙ったからに他ならない。昨年師走の一連の動きについて背景を探った。

◇憲法審開催「阻止を」
 「このまま憲法審が開かれたら、どうするつもりだ。本当に打てる手は尽くしているのか」。臨時国会が最終盤に差し掛かった昨年12月初め、公明党ベテランの一人は同党国対幹部に電話をかけ、いつになく厳しい口調で問いただした。

 普段は温厚なこのベテランを焦らせたのは、連立パートナーの動き。同10日の国会閉幕を前に、6日に自民党が衆院憲法審査会を開催し、憲法9条への自衛隊明記を含むいわゆる「改憲4項目」を提示する構えをちらつかせたためだ。

 安倍晋三首相は自民党総裁選後の昨秋以降、臨時国会での党改憲案提示に意欲を示し、11月29日には与党が衆院憲法審の開催を強行。自民党の積極姿勢に、公明党も追随した格好となった。これに対し、立憲民主党など野党は「おきて破り」と猛反発、12月6日の衆院憲法審開催にも当然反対した。

 再び野党を押し切って6日に憲法審が開かれれば、出席するのは自民党のほか、日本維新の会といった改憲積極派のみになるのは確実。「そんな中で、わが党がのこのこと出ていって、『4項目』をご拝聴すれば、改憲勢力の一翼と世間に宣伝しているようなものだ。野党が出席しないなら、憲法審を開かせない以外に方法はなかった」。ベテランは振り返る。

 ベテランの一言に端を発し、4、5両日にかけて公明党内ではにわかに緊迫感が高まった。

 国対間を通じて自民党に6日の開催見送りを要請。さらに「裏ルート」として、自民党の二階俊博幹事長と個人的なパイプを持つ国会議員OBの漆原良夫前中央幹事会会長や、首相と同期当選の富田茂之衆院議員らもそれぞれ見送りを働き掛け、結果的に自民改憲案は提示されないまま臨時国会は閉会した。


 ◇既定方針に波乱
 折しも、こうした憲法審をめぐる水面下のせめぎ合いが一段落ついた後、12月中旬に控えていたのが「寡婦控除」の見直しをめぐる税制改正議論だった。

 公明党はここ数年の税制改正作業で、寡婦控除の適用外とされている未婚のひとり親世帯を対象に加えるよう求めてきたが、その都度自民党の反対に遭い、見送られてきた経緯があった。

 今回の税制改正に当たっても、財務省主税局幹部は議論が本格化する前の10月に「公明党の主張は恒例行事のようなものだ。税の理屈からは認められないし、自民党も反対だろう」と話すなど、実現は困難だとの見方が大勢を占めていた。

 一方、臨時国会での自民改憲案提出はひとまず回避したとはいえ、身内からも「相変わらず憲法論議で立ち位置の分かりにくさが際立った」(党関係者)との声が上がった公明党。
 その反動が働き、寡婦控除見直しに向けては打って変わったように「絶対にやる」(税調幹部)と独自色の発揮にかじを切った。

 幹部の言葉通り、最終盤まで公明党は粘りを見せ、13日に予定されていた与党税制改正大綱の取りまとめは寡婦控除の取り扱いで一致できず、異例となる1日延期の末にようやく決着。
公明党の主張を踏まえ、一定以下の年収の未婚ひとり親に対する住民税を非課税とする措置が新たに導入されることが決まった。

「妊婦加算」の凍結に至る経緯でも、公明党は臨時国会の閉会後に態度を一変させた。

 妊婦加算は、妊娠した女性が病院の外来診療を受診した場合に自己負担が上乗せされる制度で、昨年4月の診療報酬改定で導入された。
 しかし、昨年秋ごろからネット上で「妊婦税」などとの批判が相次ぎ注目が集まったため、厚生労働省は11月末、妊婦と知らずに診察した場合は加算の対象外とするなど、適用を厳格化することで沈静化を図る方針を示した。

 厚労省の当初方針にいち早く理解を示していたのは、実は公明党厚生労働部会だった。
12月上旬には部会長を務める高木美智代前厚労副大臣の元を樽見英樹保険局長が訪れたが、高木氏は「よく分かっていますから」と二つ返事。
厚労部会幹部は「診療報酬自体の扱いは中央社会保険医療協議会の所掌になる。
運用の厳格化が今できる精いっぱいだ」とうなずいた。

 ところが、自民党の小泉進次郎厚生労働部会長はそうした説明に納得せず、「正さねばならない」と厚労省に再検討を要請。
温度差が生まれたことで、臨時国会閉幕後から公明党でも「はっきりした態度を示すべきではないか」(党国会議員)との声が上がり始めた。

 13日に自公両党はそれぞれ厚労部会を開催。
自民党では厚労族議員の冷ややかな視線を受けつつ、小泉氏が「妊婦の自己負担は認められない」と主導して一任を取り付けたのに対し、公明党は競うように部会に先立って山口那津男代表が記者会見で、「自己負担の凍結を政府に要請する」と明言。
自民党よりもさらに踏み込んでみせた。

翌14日、根本匠厚労相は妊婦加算の凍結を表明。
厚労省幹部は「最後は公明党に引導を渡されてしまった」と漏らした。

◇沖縄で不信表面化
 昨年末の公明党の反応については、党国会議員秘書ですら、「やり過ぎではないかと思った」と苦笑いを浮かべたほど。それを突き動かす要因となった改憲をめぐる論議は、党の根幹部分にも関わる問題だ。
 ある党国会議員は、首相が改憲意欲を前面に出した昨年秋以降、支持母体・創価学会の会員から「安倍さんに引っ張られ過ぎじゃないか」「いつから9条改正を認めたんだ」との声が寄せられる機会が目に見えて増えたという。

 支持者からの不信感が表面化する事態も生じている。昨年9月の沖縄県知事選では、党本部が全面支援した候補が辺野古移設反対を掲げる玉城デニー知事に大差で敗北。党関係者によると、公明党支持層の「3割超は確実に玉城氏に流れた」という。

 選挙期間中、公明党は多くの運動員を沖縄に派遣。創価学会幹部によると、学会の原田稔会長も沖縄に入り、支持者の引き締めを図ったが、「玉城陣営集会に学会の三色旗がはためくのを何度も見た」(運動員)。

 沖縄は、池田大作創価学会名誉会長が「戦争ほど、残酷なものはない」から始まる著書「人間革命」の執筆を始めた場所で、現在も学会にとって特別な意味を持つといわれる。

 原田会長も応援入りした末の沖縄県知事選敗北は、「明らかな戦略のミス」(学会幹部)。
慌てた公明党は、10月に控えていた那覇市長選にも引き続き投入する予定だった運動員を知事選直後、一斉に引き揚げさせた。

 本来ならば、知事選敗北は「党執行部だけでなく、創価学会内の責任問題となっても不思議ではない」(学会幹部)という。
その後も表向き不問に付されているのは、突き付けられた意思の鮮明さを受け止め切れないためとも言える。

 前出の党ベテランは「反安倍側にはためく三色旗を単に『反逆』だと軽んじてはいけない。
『今の公明党はもはや平和の党ではない』とする彼らの行動は、大なり小なり支持者の心中を代弁しているとみるべきだ」と指摘する。

 「あの三色旗がやがて『われらこそが本流だ』となるのが一番怖い。組織そのものに関わる」とも付け加えたベテラン。初めて見た深刻な表情からは、長く連立与党の座を占める中で抱えたジレンマの深さが読み取れた。
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