黒猫のいるホテル ~ロシア・ウラジオストク紀行 ⑭
「あたしの名前はブスチャ。
シビルスコエ・ポドヴォリエ・ホテルの看板猫よ。
まあ、この街では、一番、有名な猫って、とこね。
嘘じゃないわ。
なんなら、“ウラジオストク ブスチャ” て、ググってみなさいよ。
“ブスチャ”の意味?
人間の言葉はよくわからないけど、これだけの美貌だもの。
“ブス”ではない筈よ。
あたしは、正真正銘の“看板猫”!
ほら、ご覧なさい。」
「 あたしは看板猫だけど、やってくる旅人には、けっして、媚びないわ。
ただ、彼等をじっと、観察するのが趣味ってとこね。
近頃はロシア人だけじゃなく、外国からも、たくさん、やってくる。
いつも、騒がしいあの人たちばかりじゃなく、日本からもやってくる人が増えたようね。
先日も変な日本人が来た。
いきなり、やってきて、挨拶もそこそこに、あたしを撮りだすのよ。
あたしのモデル料は高いんだから。
宿泊料に上乗せするわよ。」
「安眠妨害もいいとこよ。
あんまり、迷惑だから、ちょっと、威嚇してみたの。」
「 ところが、あいつときたら、ひるむばかりか、“おうおう、一丁前に” とか言って、ますます、ずうずうしく、撮りだす始末よ。
それも、毎晩のように、やってきてはよ!」
「 ついには、あたしをダシにフロント嬢にまで、ちょっかいだすのよ。
ほんとにスミにおけないわ。あいつ。」
「 あたしは、あいつを無視することに決めたわ。
寝たふりよ。
ほんとに熟睡してることもあるけど。」
「 "オラオラって”、尻尾で、挑発されたって、無視よ。無視。」
「 でもね。無視を決め込んでいた、あたしなのに、本能には逆らえなかった。
カメラの下げ紐がブラブラしてるのが、無視できなかったの。
そう、″猫じゃらし” に見えてしまったのよ。
思わず、飛びついてしまったわ。」
「まあ、仕方ない。
悔しいけど、本能だから。
そうこうしているうちに、あいつ、お別れの挨拶にきた。」
「 旅人だから、いつか、帰ってしまうのは当たり前。
ホテルの看板猫だから、そんなことは日常茶飯事のこと。
そう思うんだけど、今回だけは淋しい。
やなヤツだと思っていたのに、どうしてなのかしら?」
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