倭迹々日百襲姫命(ヤマトトトヒモモソヒメ)、またの名を「卑弥呼」?
最古の前方後円墳である「箸墓古墳」は、三輪山を背景に静かに佇んでいた。
古墳の前に小さな石造りの鳥居があり、「倭迹迹日百襲姫命 大市墓」とある。
倭迹々日百襲姫命(ヤマトトトヒモモソヒメ)・・・舌を百回くらい噛みそうな名である。
何度か舌を噛みながら、その名ヤマトトトヒモモソヒメと繰り返していると・・・。
「 「日巫女」(ひみこ)でいいんですよ。」と、どこからか、声がした。
「 あかん。寝不足な上に、この暑さ。熱中症かもしれない!」
「 私はシャーマンだったから、日巫女でいいんですよ。」と何処からか再び、声がした。
「 とうとう、俺にも、きたか!まあ、ええわ。あんた、ここの主?」
「 そうよ。なんべんも、私の名を呼んだじゃあない!」
「 古代のそんな高貴なお方が、現代の俗人みたいな話し方をするかい!」
「 あなたの脳波レベルに合わせただけよ!」
「 なんちゅうことを!!
ところで、あんた、帝のそばに仕える巫女のような存在だったときくけど。」
「 そうよ。 ただ、当時の巫女は、帝より権威があってね。
私は霊力を駆使して、乱れた国を平らに治めたわ。
私は王になりたかったんだよ。
だから、あちゃらの大国に使節を遣わしたんだ。
王として、認めてほしくってね。」
「 あちゃらの大国って、魏のことだね。」
「 金印や三角縁神獣鏡をたくさん、賜ったわ。
方向音痴の使節だったんで、デタラメの記録を残して、後の世に物議を醸したけどね。
三角縁神獣鏡は今でも、天理市の黒塚古墳館に展示されてるわ。」
「 そういえば、纒向遺跡(まき むくいせき)で、大量の桃の種が見つかったと 報道されていたな。
古代シャーマンに使ったと思われるとしていた。」
「 そうよ。当時の桃は食用じゃなくて、祭儀用だったから。」
「 しかも、その種を放射性炭素(C14)で年代測定してみると、“西暦135~230 年の間に実った可能性が高い”との分析結果が出たらしい。」
「 そりゃあ、私がシャーマンしてたころの桃だもの。
今のJR巻向駅近に私が祈祷していた宮殿があってね。」
「 ”ヒミコ”と言えば、”ぶさいくなヒミコの邪馬台国!”を思い出す。」
「 誰がぶさいくよ!」
「 学生のころ、“ぶさいく(239年)な、ヒミコ”と語呂合わせで年代を憶えてたんだよ。」
「 もっと、いい語呂合わせ、考えてよ。」
「 倭迹迹日百襲姫命は三輪山の神、大物主と結婚したという伝説がある。」
「 それがね、夜しか、来ないのよ。彼。 蛇みたいにいろいろと、シツコイ人、実は本当に蛇だったの。
それで、嘆き悲しんだあげく、箸であそこを突いて自害した。・・・だから、箸墓。
ということになっているけど、実はこの話、帝の作り話よ。」
「 作り話?帝の?」
「 本当は、纒向の宮で、帝の兵たちの焼き討ちにあったの。祭儀用の桃もろともね。
たくさんの人が嘆き悲しんで、全長160mある、大市の墓に「親魏倭王の金印・銀印」や「三角縁神獣鏡」と一緒に葬られたわ。
帝は第10代ではなく、初代だってこと。
西麓の王朝の歴史を闇に葬ったこと。
私が一時期でも、倭の王のように思われていたこと。
そして、私を殺めたのは帝だってこと。
これは、2000年間の秘密!
帝はその秘密を封印するために、2000年間、私の墓はけっして、あばかせないようにした。」
「 あんたは、やっぱり、卑弥呼 ?」
もう、それっきり、声は聞こえなくなった。 同時に頭痛が・・・。
「 今のは白昼夢か? 伝承の年代とも合わんしなあ。
やっぱり、熱中症かも。早く帰って、寝よ!」
纒向石塚遺跡の丘の上を心地よい悠久の風が吹き渡っていた。
(内容はフィックションです。)