憂鬱なお引越し?!国際カカオ機関(ICCO)がアビジャンお引越しの話、第2話。
まだの方、ぜひ第1話からご覧ください!
第1話 消費国から生産国へ
1973年の設立から、44年にわたりロンドンに本拠を構えてきた国際カカオ機関(Organisation internationale du cacao: ICCO)が、コートジボワールのアビジャンへ戻って来ることになった。
そのお祭りムードの中、ヒタヒタと影が迫りつつある現実がある。底堅いと思われていたカカオ市場が、昨年第4四半期ころからいよいよ急落。コートジボワールにもこの「カカオショック」の影響がやってきている。
(コートジボワールのカカオ農園で)
先週、ロンドンのカカオ市場では1tあたり1,533スターリン・ポンドを記録。これは過去3年半で最低の水準。翌日のニューヨークでは、1,869ドル。8年半ぶりの低水準を記録した。
ICCOによれば、2016-2017年期で26.4万tにのぼる供給過剰が生じる見込みだという。コートジボワールでは今季35万tまで増産。まるまる在庫を抱えることになりかねない量だ。
カカオ生産世界一のコートジボワール。これを支えているのは、実はたくさんの小さなカカオ農家である。
この小さな生産者への影響が、社会の大きな「黒ひげ危機一発」になる恐れがあると言われている。いや、メディアではさすがに「黒ヒゲ」とはいっていないが、「(時限)爆弾」と表現されている。
というのもこの問題、カカオ政策に依拠しているからだ。コートジボワールでは、政府は次の作期入る前、業者による最低買い取り価格を公示することとなっている。今季でいえば1キロで1,200フラン(約240円)だ。
このシステム、市場が右肩上がりの場合はよい。しかし、市況が下降トレンドとなり、ひとたび国際市況価格が、買取予定価格を割り込めば、業者は赤字覚悟では商売はしない。買い付けを手控えることとなる。
現在、コートジボワールはまさにこの状況に陥っている。何トンにものぼるカカオが、輸出も買取もなされないまま国内に、あるいは主要港のアビジャンやサンペドロに滞留する。
農民から見れば、カカオを出荷したのに、待てど暮らせどお金が入ってこない。なにがあったのか。なにも知らされない農民は「なぜお金が払われないのか。ダマされたのか?」生産者の怒りは収まらない。
「アムステルダムで大企業たちが集まって話し合ってたじゃないか。持続可能なカカオ生産が必要だ、とか。だったら、ちゃんと生産者に然るべき代金を払うべきではないか。」
このカカオ政策の中で設立されたコートジボワール国家補償基金は、市場価格と、最低補償生産額の差額を補償する役割を担う。基金には生産者への差額の穴埋めを払うことが求められている。しかし基金側は「市場価値を度外視した生産振興は危険。今回の逆ざやを払うだけの体力はない。この制度は社会的緊張を生んでいるし、事実上瀕死だ。」と述べている。
確かに全額を国が補償するとしたら、国家財政の負担はあまりに大きい。財政規律にも大きく響くリスクがある。
他方、生産者側は「(市況は)生産価格に見合わない水準まで低下」しており、「困窮に陥っている。そして報酬がみあわなければ、耕作意欲は喪失する。」と切実に訴える。
フェアトレードとエコを推進するフランスのエティガーブルグループは、コートジボワールのみならず、エクアドル、ペルー、マダガスカル、ハイチ、ニカラグアなどの小規模生産者から、1tあたり4,000ドル〜4,300ドルで買い付けを継続している。
そう、この問題、カカオ買い付けにおける生産者と需要者の間の非対称性こそが問題なのだ。
国際カカオ機関のアビジャン移転は、お題目として「消費者から生産者の視点へ」とも評されている。渦中のコートジボワールへの移転はどのようなインパクトを生むのだろうか。
時折しも、アグロビジネス企業のドロン事件でざわつくアビジャン。カカオなだけにビターな後味が残ってしまうのか。いや、生産者にも甘いスィーツが届くことを期待したい。
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秘蔵文書?!「苦いチョコレート」
(おわり)
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第1話 消費国から生産国へ
1973年の設立から、44年にわたりロンドンに本拠を構えてきた国際カカオ機関(Organisation internationale du cacao: ICCO)が、コートジボワールのアビジャンへ戻って来ることになった。
そのお祭りムードの中、ヒタヒタと影が迫りつつある現実がある。底堅いと思われていたカカオ市場が、昨年第4四半期ころからいよいよ急落。コートジボワールにもこの「カカオショック」の影響がやってきている。
(コートジボワールのカカオ農園で)
先週、ロンドンのカカオ市場では1tあたり1,533スターリン・ポンドを記録。これは過去3年半で最低の水準。翌日のニューヨークでは、1,869ドル。8年半ぶりの低水準を記録した。
ICCOによれば、2016-2017年期で26.4万tにのぼる供給過剰が生じる見込みだという。コートジボワールでは今季35万tまで増産。まるまる在庫を抱えることになりかねない量だ。
カカオ生産世界一のコートジボワール。これを支えているのは、実はたくさんの小さなカカオ農家である。
この小さな生産者への影響が、社会の大きな「黒ひげ危機一発」になる恐れがあると言われている。いや、メディアではさすがに「黒ヒゲ」とはいっていないが、「(時限)爆弾」と表現されている。
というのもこの問題、カカオ政策に依拠しているからだ。コートジボワールでは、政府は次の作期入る前、業者による最低買い取り価格を公示することとなっている。今季でいえば1キロで1,200フラン(約240円)だ。
このシステム、市場が右肩上がりの場合はよい。しかし、市況が下降トレンドとなり、ひとたび国際市況価格が、買取予定価格を割り込めば、業者は赤字覚悟では商売はしない。買い付けを手控えることとなる。
現在、コートジボワールはまさにこの状況に陥っている。何トンにものぼるカカオが、輸出も買取もなされないまま国内に、あるいは主要港のアビジャンやサンペドロに滞留する。
農民から見れば、カカオを出荷したのに、待てど暮らせどお金が入ってこない。なにがあったのか。なにも知らされない農民は「なぜお金が払われないのか。ダマされたのか?」生産者の怒りは収まらない。
「アムステルダムで大企業たちが集まって話し合ってたじゃないか。持続可能なカカオ生産が必要だ、とか。だったら、ちゃんと生産者に然るべき代金を払うべきではないか。」
このカカオ政策の中で設立されたコートジボワール国家補償基金は、市場価格と、最低補償生産額の差額を補償する役割を担う。基金には生産者への差額の穴埋めを払うことが求められている。しかし基金側は「市場価値を度外視した生産振興は危険。今回の逆ざやを払うだけの体力はない。この制度は社会的緊張を生んでいるし、事実上瀕死だ。」と述べている。
確かに全額を国が補償するとしたら、国家財政の負担はあまりに大きい。財政規律にも大きく響くリスクがある。
他方、生産者側は「(市況は)生産価格に見合わない水準まで低下」しており、「困窮に陥っている。そして報酬がみあわなければ、耕作意欲は喪失する。」と切実に訴える。
フェアトレードとエコを推進するフランスのエティガーブルグループは、コートジボワールのみならず、エクアドル、ペルー、マダガスカル、ハイチ、ニカラグアなどの小規模生産者から、1tあたり4,000ドル〜4,300ドルで買い付けを継続している。
そう、この問題、カカオ買い付けにおける生産者と需要者の間の非対称性こそが問題なのだ。
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時折しも、アグロビジネス企業のドロン事件でざわつくアビジャン。カカオなだけにビターな後味が残ってしまうのか。いや、生産者にも甘いスィーツが届くことを期待したい。
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