『花染ぬ手布』-遊女(ジュリ)の表象
第一部:鼎談 「沖縄芝居と遊女(ジュリ)」
吉田 妙子 【役者・沖縄県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者・沖縄タイムス芸術選賞(演劇・映像)大賞受賞】
玉木 伸 【役者・沖縄県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者・沖縄タイムス芸術選賞(演劇・映像)大賞受賞】
与那覇晶子 (演劇評論家・沖縄タイムス芸術選賞選考委員)
第二部:舞台『花染ぬ手布』-遊女(ジュリ)の表象
-荒神ぬ前のマカテー、渡地のチル小、吉屋チル―、そして嘉間良の娼婦キヨ―
主演 :吉田妙子
:玉木 伸
歌三線 :具志幸太
バン(拍子木):山川宗春
舞台美術 :新城栄徳
構成/演出 :平識晶子
【沖縄の文化表象の中でジュリとは何だろうか?】
文献の中でジュリは、傾城、侏螭、女郎、尾類、遊女、娼妓、妓女などと漢字で表象されるが、またジュク/ズク(一般社会)の女性に対しズリとも呼ばれてきた。(一部漢字の表記ミスがあります)
昨今では琉球王府末期の近世を描いた池上永一の『テンペスト』の中でも辻遊郭が登場し、聞得大君がジュリに身を落とすような筋書きになっている。また作家の大城立裕は2010年、『幻影の行方』の小説を発表したが、戦時中の辻遊郭のあんまーと辻に売られた少女を登場させた。沖縄の近代小説の中でもジュリは盛んに登場し、民謡や舞踊は言うまでもない。舞踊家はなぜ好んで雑踊「花風」や打ち組踊「金細工」を踊るのだろうか。また数多ある沖縄芝居の中でもジュリは多く登場する。特に伊良波尹吉はジュリを舞台化した歌劇「音楽家の恋」や「思案矼」などを創作し、高江洲紅矢は今回取り上げる「染屋の恋唄」や「渡地物語」を生み出した。まさに近代の沖縄芸能は遊郭とジュリの女性たちが重要な役割を果たしている。
さらに21世紀現在に創作された大城立裕の新作組踊の中でも、例えば「山原船」「花の幻」「遁(ひん)ぎれ結婚(にぃびち)」にはジュリ、辻遊郭のアンマー、コザ吉原遊郭のアンマー、そして娼婦が登場する。
遊女(ジュリ)と云えば私たちの脳裏にすぐ浮かぶのは、かの金武哲夫が映像化した「吉屋チルー物語」である。19歳で自害したとされる琉歌の名手吉屋チルーの名前は嘉手納の比謝川のほとりに歌碑「恨む 比謝橋や 情きねん人ぬ、我身渡さと思てぃ 架きてぃうちぇら」が建立されているように、歌人吉屋は恩納ナビーと共に沖縄の著名人である。彼女たちの歴史的位置づけに対して研究者からは実在しなかったフィクショナルな共同体の幻想という評価もなされる。しかし歌に読まれ三線にのせられ芝居や映像になる吉屋チル―のヒロイッックな表象が嘘ではなかったのは、平敷屋朝敏の擬古文小説「苔の下」からも伺える。フィクションはもはや一つの民族が共有する無意識の集合的美そのものである。
現在に連なるジュリの表象とはいったい何だろうか。鼎談や舞台を通してその「問」に向き合ってみたい。
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吉田妙子さんのプロファイル
1950年劇団【あさひ座】で初舞台をふみ、【ときわ座】を経た後、親泊興照、鉢嶺喜次率いる【珊瑚座】へ入団。親泊興照氏に師事し、舞踊や沖縄名作歌劇「泊阿嘉」「伊江島ハンドー小」「中城情話」「奥山の牡丹」「報い川」「渡地物語」など、数多くの歌劇で師の相手役をつとめた。1958年ごろから舞台の他、テレビ・ラジオに出演。【沖縄芝居実験劇場】「トートーメー万歳」(大城立裕作・幸喜良秀演出)など五作に出演。代表的な演劇作品は「道」「嘉間良心中」「ランタナの花の咲く頃」「レイラニのハイビスカス」「かじまやーカメおばぁの生涯」(下島三重子作・栗山民也演出)など。現在「ウチナー芝居【演】」代表
吉田妙子と映画・テレビ
【ウンタマギルー】(1991年高嶺剛監督)/【パイナップルツアーズ】(1992年中江祐司監督)/【ナビィの恋】(2000年中江祐司監督)/【遥かなる甲子園】(1995年大澤豊監督)/【月桃の花】(1996年大澤豊監督)/【豚の報い】(1998年崔洋一監督)/【風音】(2003年東陽一監督)/【深呼吸の必要】(2003年篠原哲雄監督)/【南の島のフリムン】(2009年ゴリ監督)/【やぎの冒険】(2010年仲村颯悟監督)/TV【琉神マブヤー】のおばぁ役/【ウエルカメ】(2009年NHK 朝の連ドラ)/【沖縄ドライバーズノート】(2011年1月14日NHKハイビジョン放映)/【天国からのエール】(2011年10月全国公開)【HNKテレビドラマ『テンペスト』のユタ役】(2011年7月放映)と映画・テレビに引っ張りだこの人気である。
玉木 伸さんのプロファイル
名古屋市出身 1946年沖縄に引き揚げる。
昭和23年 奄美大島劇団(熱風座)入団 (池島典夫座長)
昭和24年 沖縄青年連合会演劇研究団体(春秋座)入座
昭和25年 劇団「ときわ座」(座長真喜志康忠)入座
昭和33年 琉球新報社演劇コンクールで個人演劇賞受賞「落城」
昭和63年 沖縄タイムス主催芸術祭で奨励賞受賞
2005年 第40回沖縄タイムス芸術選賞(演劇・映像)大賞受賞
沖映演劇 に10年間出演
国立劇場おきなわ出演:「伊江島ハンドー小」「泊阿嘉」「地頭代」「奥山の牡丹」
現在:沖縄県無形文化財『琉球歌劇保存会』技能保持者
沖縄芝居芸能塾
渋みのある演技は定評がある。真喜志康忠の相手役として「ときわ座」の看板役者だった。「武士松茂良」「大新城忠勇伝」「野盗の群れ」「落城」「くちなしの花」「首里っ子ゆんた」「按司と美女」「悪を弄ぶ者」など真喜志作品の舞台で人気を博した。沖縄芝居実験劇場の「世替りや世替りや」では探報人としてセンスル節に合わせて村人をかき回していた姿が印象に残る。芸達者である!沖映の舞台でも数々の歌劇や台詞劇で主要な役柄を演じきった沖縄芝居役者である。とにかく若いころは女性フアンにモテタ方である。(今でも?)
第一部:鼎談 「沖縄芝居と遊女(ジュリ)」
吉田 妙子 【役者・沖縄県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者・沖縄タイムス芸術選賞(演劇・映像)大賞受賞】
玉木 伸 【役者・沖縄県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者・沖縄タイムス芸術選賞(演劇・映像)大賞受賞】
与那覇晶子 (演劇評論家・沖縄タイムス芸術選賞選考委員)
第二部:舞台『花染ぬ手布』-遊女(ジュリ)の表象
-荒神ぬ前のマカテー、渡地のチル小、吉屋チル―、そして嘉間良の娼婦キヨ―
主演 :吉田妙子
:玉木 伸
歌三線 :具志幸太
バン(拍子木):山川宗春
舞台美術 :新城栄徳
構成/演出 :平識晶子
【沖縄の文化表象の中でジュリとは何だろうか?】
文献の中でジュリは、傾城、侏螭、女郎、尾類、遊女、娼妓、妓女などと漢字で表象されるが、またジュク/ズク(一般社会)の女性に対しズリとも呼ばれてきた。(一部漢字の表記ミスがあります)
昨今では琉球王府末期の近世を描いた池上永一の『テンペスト』の中でも辻遊郭が登場し、聞得大君がジュリに身を落とすような筋書きになっている。また作家の大城立裕は2010年、『幻影の行方』の小説を発表したが、戦時中の辻遊郭のあんまーと辻に売られた少女を登場させた。沖縄の近代小説の中でもジュリは盛んに登場し、民謡や舞踊は言うまでもない。舞踊家はなぜ好んで雑踊「花風」や打ち組踊「金細工」を踊るのだろうか。また数多ある沖縄芝居の中でもジュリは多く登場する。特に伊良波尹吉はジュリを舞台化した歌劇「音楽家の恋」や「思案矼」などを創作し、高江洲紅矢は今回取り上げる「染屋の恋唄」や「渡地物語」を生み出した。まさに近代の沖縄芸能は遊郭とジュリの女性たちが重要な役割を果たしている。
さらに21世紀現在に創作された大城立裕の新作組踊の中でも、例えば「山原船」「花の幻」「遁(ひん)ぎれ結婚(にぃびち)」にはジュリ、辻遊郭のアンマー、コザ吉原遊郭のアンマー、そして娼婦が登場する。
遊女(ジュリ)と云えば私たちの脳裏にすぐ浮かぶのは、かの金武哲夫が映像化した「吉屋チルー物語」である。19歳で自害したとされる琉歌の名手吉屋チルーの名前は嘉手納の比謝川のほとりに歌碑「恨む 比謝橋や 情きねん人ぬ、我身渡さと思てぃ 架きてぃうちぇら」が建立されているように、歌人吉屋は恩納ナビーと共に沖縄の著名人である。彼女たちの歴史的位置づけに対して研究者からは実在しなかったフィクショナルな共同体の幻想という評価もなされる。しかし歌に読まれ三線にのせられ芝居や映像になる吉屋チル―のヒロイッックな表象が嘘ではなかったのは、平敷屋朝敏の擬古文小説「苔の下」からも伺える。フィクションはもはや一つの民族が共有する無意識の集合的美そのものである。
現在に連なるジュリの表象とはいったい何だろうか。鼎談や舞台を通してその「問」に向き合ってみたい。
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吉田妙子さんのプロファイル
1950年劇団【あさひ座】で初舞台をふみ、【ときわ座】を経た後、親泊興照、鉢嶺喜次率いる【珊瑚座】へ入団。親泊興照氏に師事し、舞踊や沖縄名作歌劇「泊阿嘉」「伊江島ハンドー小」「中城情話」「奥山の牡丹」「報い川」「渡地物語」など、数多くの歌劇で師の相手役をつとめた。1958年ごろから舞台の他、テレビ・ラジオに出演。【沖縄芝居実験劇場】「トートーメー万歳」(大城立裕作・幸喜良秀演出)など五作に出演。代表的な演劇作品は「道」「嘉間良心中」「ランタナの花の咲く頃」「レイラニのハイビスカス」「かじまやーカメおばぁの生涯」(下島三重子作・栗山民也演出)など。現在「ウチナー芝居【演】」代表
吉田妙子と映画・テレビ
【ウンタマギルー】(1991年高嶺剛監督)/【パイナップルツアーズ】(1992年中江祐司監督)/【ナビィの恋】(2000年中江祐司監督)/【遥かなる甲子園】(1995年大澤豊監督)/【月桃の花】(1996年大澤豊監督)/【豚の報い】(1998年崔洋一監督)/【風音】(2003年東陽一監督)/【深呼吸の必要】(2003年篠原哲雄監督)/【南の島のフリムン】(2009年ゴリ監督)/【やぎの冒険】(2010年仲村颯悟監督)/TV【琉神マブヤー】のおばぁ役/【ウエルカメ】(2009年NHK 朝の連ドラ)/【沖縄ドライバーズノート】(2011年1月14日NHKハイビジョン放映)/【天国からのエール】(2011年10月全国公開)【HNKテレビドラマ『テンペスト』のユタ役】(2011年7月放映)と映画・テレビに引っ張りだこの人気である。
玉木 伸さんのプロファイル
名古屋市出身 1946年沖縄に引き揚げる。
昭和23年 奄美大島劇団(熱風座)入団 (池島典夫座長)
昭和24年 沖縄青年連合会演劇研究団体(春秋座)入座
昭和25年 劇団「ときわ座」(座長真喜志康忠)入座
昭和33年 琉球新報社演劇コンクールで個人演劇賞受賞「落城」
昭和63年 沖縄タイムス主催芸術祭で奨励賞受賞
2005年 第40回沖縄タイムス芸術選賞(演劇・映像)大賞受賞
沖映演劇 に10年間出演
国立劇場おきなわ出演:「伊江島ハンドー小」「泊阿嘉」「地頭代」「奥山の牡丹」
現在:沖縄県無形文化財『琉球歌劇保存会』技能保持者
沖縄芝居芸能塾
渋みのある演技は定評がある。真喜志康忠の相手役として「ときわ座」の看板役者だった。「武士松茂良」「大新城忠勇伝」「野盗の群れ」「落城」「くちなしの花」「首里っ子ゆんた」「按司と美女」「悪を弄ぶ者」など真喜志作品の舞台で人気を博した。沖縄芝居実験劇場の「世替りや世替りや」では探報人としてセンスル節に合わせて村人をかき回していた姿が印象に残る。芸達者である!沖映の舞台でも数々の歌劇や台詞劇で主要な役柄を演じきった沖縄芝居役者である。とにかく若いころは女性フアンにモテタ方である。(今でも?)