時空トラベラー THE TIME TRAVELER'S PHOTO ESSAY

歴史の現場を巡る旅 旅のお供はいつも電脳写真機

大和路桜紀行(3)甘樫丘に桜華やぐ飛鳥を睥睨する

2016年04月11日 | 奈良大和路散策

甘樫丘は桜満開!

 今回の大和路桜紀行の最後は飛鳥路。昨日の雨も上がったし、なんといっても甘樫丘の桜を観賞せずばなるまい。季節ごとに心休まる風景を眼前に展開してくれる飛鳥。ここまでくるとさすがに外国人観光客もいない。この桜満開の素晴らしい風景を楽しんでいるのは家族連れや地域の仲間といった地元のグループだけだ。のどかな伝統的な日本の花見行事がここには残っている。低経済成長時期の日本はインバウンド観光資源の開発にもっと力を入れるべきだという。経済評論家や政府は、地域に金を回すには、積極的にインバウンドを東京、京都から地方に回す手立てをとる必要あり、と力説している。要するに「爆買い」効果を地方に回せ、と言っている訳だ。こののどかな明日香の里を「爆買い」ツアーの団体バスの列で何をしようというのだろう。日本の歴史や文化に関心を寄せず、バスで免税店に直行し電気釜や化粧品を「爆買い」して空港や港に直帰する「観光客」はここには来ないし、来てもらうこともないでしょう。静かにしていてほしいなあ。金はいらんから...

 

 それにしても、桜は満開の時を迎え、この飛鳥の風景を華やいだものにしてくれている。もともと飛鳥時代には桜はそれほど愛でられなかっただろう。彼の時代に「花」といえば、万葉集などに歌われるように梅。中国の文化の影響が強かったこの時代は桜より梅であった。馬酔木や厳樫(いつかし)や両槻も古代文献に出てくる。桜はいつ頃この飛鳥の里を彩るようになったのだろう。桜は古来より稲作農耕を生業とする弥生的世界にあっては、田植えなどの農事生産活動を開始する時期を知らせる樹木であった。しかし和歌に詠まれるなど、桜が梅に変わって人々に愛でられるようになるのは国風文化が盛んになる平安時代に入ってからと言われている。いまやすっかり飛鳥の春の風景の主役になっている桜だが、意外にその歴史は新しい。しかし、樹齢何百年といった枝垂桜の巨木や、これでもか!という桜並木などの密集度はない。要するに伸びやかな飛鳥の風景の中に適度に、しかし要所要所に咲き誇っているのが飛鳥の桜だ。この歴史の舞台では、桜はこの季節の主役ではあるが、うまく脇役と共演してくれている。

 

 甘樫丘に登るたびに思うのは、360度の視界に収まるこの奈良盆地という囲まれた世界が古代倭国、ヤマト王権の揺籃の地であったのだということ。こののどかで平和な里がかつて凄まじい権力闘争の舞台であったとは。大和三山、三輪山、生駒山、藤原京跡、飛鳥古京、飛鳥寺、川原寺、石舞台古墳、多武峰、歴史の舞台が全てが一望できる。そういった悠久の時の流れを経て、熟成し、さらに枯れた大人になった里に桜はよく似合う。

 

 ここから西を展望すると畝傍山や二上山、葛城・金剛の山々が見える。弥生のヤマト人が河内、瀬戸内海、筑紫を経て海の向こうの大陸の文化に憧れ、仏教伝来以降の飛鳥人が夕陽の沈む西方浄土の世界に憧れた方角だ。しかし、ふと目を落とすと足元まで住宅開発の波が押し寄せ、ようやくのところでプレハブ住宅群の明日香村への侵入を食い止めている様を見ることができる。日本の高度成長期、バブル真っ盛りの時期、この辺りは大阪のベッドタウンとして怒涛のような住宅開発の波に襲われた。なんとか飛鳥の歴史的景観地域までの侵入は食い止められた。その後空白の10年、20年、日本経済にとっては低迷の時代が続いたが、それが幸いして、こうした古代飛鳥の歴史的景観と里の生活は守られた。これからの日本はどういう道を選んで生きてゆくべきなのか。甘樫丘に立つとそれを考えさせられる。「バブル」にせよ「爆買い」にせよ、GDPはどこかに線を引いて、こっちには来ないようにしてもらいたいと考えてしまう。成熟した「大人の国」になるためには金が全てではないのだから。

 

 参考:2013年に甘樫丘を訪ねた時のブログ。甘樫丘の歴史を知りたい方はどうぞ。

 甘樫丘 神聖な山の変遷 

 

明日香の里は春爛漫

 

なんという長閑な風景

 

 

明日香めぐりはバスと徒歩で

 

飛鳥坐神社参道

 

甘樫丘から飛鳥寺を展望する

 

里の春

 

耳成山と藤原宮跡

 

畝傍山、二上山、葛城・金剛山系を望む

 

 

 

 

島の庄、石舞台方面

 

飛鳥寺

 

真神原から橘寺を望む

 

河原廃寺あたり

 

 

三葉躑躅

 

飛鳥寺から甘樫丘を見上げる

 

大和路桜紀行(1)(2)(3)後記:

 撮影機材はLeica SL + Vario Elmarit SL24-90mm + Vario Elmar R80-200mm

何しろカメラ本体とレンズだけで総重量3キロを超える。とにかく重い!の一言。標準ズームSL24-90mmの手持ち撮影はライカ初のレンズ内手振れ補正機能でよくブレが止まってくれたが、重くて腕がプルプル震えた。特に縦位置撮影は体力勝負。腕力つけなきゃ無理だ。望遠ズームR80-200mmの方はもちろん手振れ補正なしなので、手持ち撮影では手ぶれ、ピンボケの山を築いてしまった。連日1万歩超の徒歩撮影旅行で、久しぶりに筋肉痛と腰痛に。足腰それに腕を鍛えねばなるまい。しかし、新しいライカシステムの写りには大満足。あとはウデを機材に見合うまでにどう高めるかが課題。

 

 

 

 


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