坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ゴヤ展〈私は見た〉

2011年06月14日 | 展覧会
時代の変革期に生きたスペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746-1828)の40年ぶりとなる展覧会がこの秋開催されます。成熟期に描かれた「着衣のマハ」は本展の目玉であり、衣装や髪の表現にこまやかなタッチなど近代画風の先駆けとなる歴史的な作品です。82歳の生涯で1900点もの作品を残したゴヤ。本展では、プラド美術館のコレクションから油彩、素描など72点を中心に国立西洋美術館などが所蔵する版画約50点を加えた130点余りで構成されます。
記者発表会で、国立西洋美術館学芸課長の村上氏は、「ゴヤの全貌をひもとくのではなく、光と影をテーマに温雅な風俗画から、宮廷画家として優雅な肖像画などを描いていた時代から、ナポレオンの侵略により戦争と混乱に見舞われたスペイン社会の悲惨な現実の時代の証言者としてのゴヤの作品に焦点をあてた内容」と話されました。
掲載写真は、ミゲル・アンヘル ナバーロ駐日大使が、ゴヤのオリジナリティと自由の大切さ、ゴヤの近代性を見ていただきたいと挨拶された様子です。
ゴヤの作品には、一人称のタイトルが印象的です。「私は見た 戦争の惨禍」の素描など、40点ほどの主要な素描が展示されるのも本展の見どころの一つです。そこには本画では表わせないゴヤの直截的なイメージの発露があり、人間の本性を暴く客観描写が徹底されています。伝統的な宗教画、闘牛技シリーズから人間を見据えていく複眼的な多面性へと発展していきます。

◆プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影/10月22日~12年1月29日/国立西洋美術館
 http://www.goya2011.com