坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

固有の造形詩をもつ8人の新作展

2010年08月09日 | 展覧会
立秋が過ぎて、昼間の蒸し暑さは相変わらずですが、夜風が少し気持ちよくなりました。蝉しぐれも精一杯でいとおしい感じがします。
銀座をはじめ各ギャラリーは夏季休暇を迎えます。9月からの企画展の案内が届いています。長年現代アートを推進してきた西村画廊(東京・日本橋)では、恒例となった画廊プロデュースの主なアーティストの新作展が開かれます。
・掲載画像の小林孝亘さんは、新たな具象派のリーダーとして国際的に活躍されていて、バンコクにもアトリエをもち、画面に大きくとらえた人物像も人気です。
「でんきのでばん11」は、道の向こうにぽつんと建つ民家をとらえた作品。小林さんの作品は日常の一場面をシンメトリックな構成で余分なものを排除し、静謐な時の流れを封じ込めます。この作品は今年9月に刊行される「でんきの でばん」の絵本の原画の1点です。
ゴーヤの葉を題材にした絵画を発表する押江千衣子さん、〈色が奏でる音の反響〉をテーマに波紋のような色面の組み合わせで色彩のシュプールを描く曽谷朝絵さん、余白に独特の間を表現する樋口佳絵さん、金沢21世紀美術館でヤン・ファーブルとの2人展を開催中の舟越桂さん、ニューヨークでも注目の町田久美さん、現在鹿児島県霧島アートの森で個展を開催中の三沢厚彦さん。今回新たに加わった指田菜穂子さんは、東大大学院の総合文化研究科卒業という経歴の持ち主。歴史、映画や童話などの要素を題材に描かれる細密画には独特の感性が宿っています。見ごたえのある8人の競作です。

●「September 2010」西村画廊/9月7日~10月16日
  Tel03-5203-2800

日常への視線ー豊泉綾乃

2010年08月08日 | 展覧会
豊泉綾乃(とよいずみ・あやの)さんの絵画は一見抽象的作風に見えます。モチーフは日常の一断面、身体の一部をイメージしたシリーズを展開しています。「日常(白いシャツ)」や「日常)青いスカート」などは、水彩で描かれた豊かな筆触で、われわれが日ごろ目にしている光景の不確かさ、曖昧さの中にイメージの広がりをつくりだしています。
新作ではモノクロのトーンで自家用車内のイメージも。水彩のもつにじみなどもイメージの膨らみに効果的に作用しています。ドイツのリヒターは写真を使って逆にピントがあいまいな絵画をイメージ化しました。今後の展開が楽しみな作家の一人です。

●「新世代への視点」からギャラリーなつかの個展

現代作家の小品展の楽しさ

2010年08月08日 | 展覧会
銀座と京橋の11画廊が連携して開催された「新世代の視点2010」のもう一つの楽しみ方は、それぞれの画廊が推薦するアーティストのスモールサイズの作品の展示販売です。
参加画廊のギャラリーなつかの一つの空間を画像のようにいろんなスタイルの絵画や立体が並びました。1万円以下から買える作品もありこちらも盛況だったようです。
小品と言っても大作とは別種のフレッシュさもあり、定期的に小品展が行われていますので、画廊に問い合わせてみるのもいいでしょう。
・ギャラリーなつか(Tel03-3571-0130)




新世代への視点ー山本聖子「空白な場所」

2010年08月07日 | 展覧会
東京・銀座、京橋を中心とした11画廊が同時期に共同開催する「新世代への視点2010」(7日で終了)の数件の画廊を巡りました。40歳以下の新鋭作家の個展による多様な表現は、現代社会の一断面を浮き彫りにします。
コバヤシ画廊(銀座3丁目)では、山本聖子さん(1981年~)の「空白な場所」シリーズのインスタレーションの作品。一見するとプラモデルのパーツを網目状につなぎ合わせたような、柵状に壁面に沿って展開されています。このシリーズは、物件広告とラミネート、アクリルで壁面に展開された作品のバージョンで、新聞のチラシなどに入ってくる物件広告の間取りがコンセプトをつくっています。それらを組み合わせていくことで、もう一つの都市の景観をつくりだしているのかも知れません。揺らぎのある空虚な様相は現代の空気、雰囲気を感じ取れるものでした。

ジョージア・オキーフ 創造の源泉

2010年08月04日 | アーティスト
ジョージア・オキーフ(1887~1986)。70年にも及ぶ画業の中で、風景、花、動物の骨などを主題にして描き、巨大な花の絵は200点ほど制作しました。毎日の真夏の日差しの中、ヒマワリもうなだれるような日差しの強さに、一つの生命体としてしなやかに浮遊するオキーフの花を思い浮かべたのです。
掲載画像はだいぶ小さくなりましたが、けしやペチュニア、アネモネなど特別な花を描いたのではないのですが、画面に大きく映された花は純粋な色彩と独特の視点により、それまで誰もが描かなかったは花のイメージを紡ぎました。夫で有名な写真家、スティーグリッツの作品に触発されることも多かったでしょう。
ニューヨークで活躍していた画家ですが、40代にニューメキシコ州に旅して以来、砂漠や牛の頭蓋骨と花を組み合わせたモチーフが多く登場しました。そしてその地が、インスピレーションの源となり続けたのです。

福岡アジア美術館 インド人作家のパフォーマンス

2010年08月03日 | 展覧会
福岡アジア美術館の美術作家招へい事業の第10回アーティスト・イン・レジデンスの成果展が開かれます。韓国、中国、東南アジアなどの活況のあるアートシーンを伝えるあじび(福岡アジア美術館)が今回招へいしたのは、インド人女性アーティストのアナンディタ・ダッタさん(1973年~)。6月から福岡に滞在し、九州産業大の学生たちと泥を用いたパフォーマンスなど現地制作を行い、写真やビデオ作品に収めました。現地の小中学生とインドの凧や王様の冠などをいっしょに制作するなどワークショップで交流を行いました。
著しい経済成長とともに現代アートの面でも活発な様相を見せるインドですが、その一端を垣間見るようなパワフルな制作の様子が伝わってきます。

●福岡アジア美術館
 8月10日~8月24日/あじびホール8F

大谷有花 無意識の対話

2010年08月03日 | アーティスト
大谷有花さん(1977年~)の「ウサギねずみ」シリーズの一作「ファイバリット」(2009年)です。「キミドリの部屋」シリーズなどで、7年前にVOCA賞奨励賞他を受賞するなど注目され、ファンシーな具象絵画の扉を開いています。
2010年「第2回絹谷幸二賞」を受賞した作品でも、シンメトリックな構成で本の上に載った2匹のウサギねずみが向かい合っています。アニメチックな雰囲気がありますが、油彩で繊細なトーンが生きています。
今美術表現は多様にメディアを広げています。その中にあって具象表現をツールとして、個々の内面との対話を可視化する、見えないものをイメージすることへのこだわりが伝わってきます。ケータイ小説やブログなどと共通する現代性を感じます。

フランダースの光展に因んだヴァイオリンコンサート

2010年08月02日 | 展覧会
9月から開催される「フランダースの光」展は、19世紀末から20世紀初頭にかけてベルギー北部のフランダース地方に芸術家が移り住み、のどかな田園風景の中に開いた印象派の明るい華やかな様式から多様な発展期へと追う展覧会です。
展覧会と併せてイベントが開催される中で、〈川畠成道 ヴァイオリンコンサート〉をお知らせします。展覧会場で開催されるミニコンサートは、ベルギーを代表するウジェーヌ・オーギュスト・イザイの楽曲を中心に、無伴奏演奏とトークを、作品の前で約1時間にわたって行われます。
 ・9月14日、10月6日 各日19:30開演
  料金3千円(フランダースの光展の入場券付き)
  問い合わせ先 Bunkamura ザ・ミュージアムTel03-3477-9413

●「フランダースの光」展/9月4日~10月24日
  Bunkamura ザ・ミュージアム

ザ・コレクション・ヴィンタートゥール展

2010年08月02日 | 展覧会
資産家たちが数多くの優れた作品を蒐集した文化都市として知られるスイスの小都市、ヴィンタートゥール。ヨーロッパ近代美術のコレクションで知られる同地の美術館から、ゴッホやルノワール、ピカソらの作品に加えてホードラーやジャコメッティなどスイスの作家などの優品が本展の見どころとなっています。
・掲載作品 「ジュネーヴ湖畔の柳」フェルナンド・ホードラー 1882年
ホードラーはスイス史上最大の画家で、最初は印象主義に影響を受けましたが、やがてパリでモローらの影響を受けてからは象徴的な、装飾的な画風へと独自のスタイルを築きました。スイス、ドイツの作品を加えて近代美術をダイナミックに展観する本展の出品作90点すべてが日本初公開となっています。

●ザ・コレクション・ヴィンタートゥール
 8月7日~10月11日/世田谷美術館(砧)

光の色、変幻を楽しむ  瀬戸内国際芸術祭

2010年08月01日 | 展覧会
現在開催中の瀬戸内国際芸術祭、瀬戸内海の7つの島と高松を結ぶアートの祭典は、7月18日の前夜祭でも大いに盛り上がったようです。
取材記ではないので心苦しいですが、出品作家で高松港に2本の巨大な柱「Liminal Air core」を設置した大巻伸嗣さんに話を伺いましたのでお伝えします。
前夜祭では、掲載画像のように海と空を背景に高松港近くで50基ほどのしゃぼんだま製造機を噴射「Memorial Rebirth」は、国際展でも大変好評を得ている大巻さんの作品シリーズです。これもスタッフ数人がかりの大がかりなセッティングになります。テトラポットのような白いオブジェからシャボン玉がわきあがり、風に吹かれ、光に作用し色の変化が映し出されます。前夜祭のこのパフォーマンスでは3千人の方が集まり歓声があがりました。
その集まっていただいた観客の方々のエネルギーを感じることができたと大巻さんは話します。それがまさにアートを介在したコミュニティの輪だと思います。
現地の方々も作品を通じてあらたに瀬戸内の風景を見直す祭典かもしれません。

●「瀬戸内国際芸術祭2010」
  開催中~10月31日 http://setouchi-artfest.jp