坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

岩埼勝平の婦人像

2010年08月23日 | アーティスト
今日は処暑で暦の上では暑さも一段落なのですが、この夏は残暑の厳しい日々が続きそうです。川越市立美術館で開催されていた「音のかけら」展の金沢健一さんのパフォーマンスを見に行ってきまして、いろんな形に溶断された鉄板を叩くことにより音の広がりのある世界を楽しみました。
その会場で当美術館の会報の表紙になっている作品に目が留まりました。洋画家の岩崎勝平(いわさき・かつひら)(1905~1964)の「夏」というタイトルの作品で、夕映えの中浴衣を着た二人の少女が楽しそうに草むらを駆けていくシーンで、斜めの構図で大きくとらえた動勢に躍動感に満ちています。当美術館所蔵の作品で川越出身の画家です。人物像を得意とした画家ですが、他にどのような作品があるかと気になりました。
思いがけない作品との出会いも楽しいものです。
掲載画像は、「薬水を汲む」(1941年)。同じ婦人像でもまったく印象が異なりこちらは静かな時間の流れを感じさせます。縦長の画面に6人の女性をS字の構図に配し、自然に視線が水を汲む女性の手元に注がれるように配置されています。白い民族的な衣裳が清楚な美しさを誘います。
岩崎勝平は、初期には文展(旧日展)に出品し、将来を嘱望され活躍しましたが、のちに画壇を離れ、貧困のうちに画業を終えました。その素描力は川端康成も賛辞を贈ったとか。皆様の地域の美術館にも所蔵されているゆかりの画家の逸品を発見できるかも知れません。