坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

フェルメールが愛される理由

2011年02月17日 | 展覧会
「フェルメールからのラブレター展」の続編。本展は、17世紀のオランダ社会のさまざまなコミュニケーションの在り方を絵画を通して紹介することがキーワードとなっています。家族や恋人、仕事における知人の間で直接的なコミュニケーション、もしくは手紙や伝言のような間接的なコミュニケーションが存在していました。当時の画家たちはこうしたコミュニケーションによって引き起こされたあらゆる感情を自らの作品に描き出していきました。
風俗画といわれる日常の出来事を描いた作品では、人々の身振り、表情の描写など直接的な表現に加え、離れた友人や恋人との手紙のやり取りにおいて、男性たち、女性たちがどのように反応していたのかという描写も盛んに行われたようです。
画家たちは、絵画のなかにそのような物語を潜ませ、それを解き明かす鍵を描き残しています。
掲載画像は、美術史家でプリンセンホフ博物館(オランダ・デルフト)館長であるダニエル・ローキン女史が、出品作の代表的作品のひとつであるヤン・ステーンの教育をテーマとした作品について短く解説している場面です。教室の一隅、宿題を忘れた子どもが紙をくしゃくしゃにして床に落としているのを、教師が木のスプーンを使っていさめている場面ですが、そのやり取りを見守る他の子供たちの表情も(余裕のある顔と次は我が身?)見逃せない作品となっています。
記者会見の最後の質疑応答で、「フェルメールの作品は他の画家とどの点が一番違っているのですか」という質問に、本展監修者で美術史家で成城大学教授の千足伸行氏は「名作と思えばそのように見えるんですよ」と会場で笑いを誘いながら、「これは本当に微妙な難しい質問ですが、やはりじっくり他の作品と比べてみることです。そうするとその違いは徐々に解ってきます」と応答。「フェルメールがなぜこのように日本人に愛されると思いますか」という問いに、ローキン女史は「日本の方は伝統的な絵画や工芸品を見てもディテールが完璧でその美意識の高さが伺えます。デザインの部門でも、身近で言えばラッピングの一つ一つにもとても丁寧です。そのような日本人の感性がフェルメール作品に共感される理由の一つになっていると思います」と応答。
オランダの同時代のレンブラントが美術史上、早くから画聖と尊敬されたのに対して、フェルメールは美術史上近年になってますますその深い詩情が広く受け入れられた画家です。
・公式サイト http://vermeer-message.com