自由広場

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3月のライオン

2009-09-03 15:16:20 | なんとなくマンガ。
単行本として発売されている3巻までを読破。ひょっとしたら羽海野さん作品の中ではハチクロよりも好みかもしれません。


将棋の世界が舞台というだけでそそられるものがあります。今密かにブームとなりつつある(?)棋界を、羽生世代の一角を担う先崎学さん監修の下、丁寧に忠実に描かれていく様は将棋好きでなくとも十分楽しむことができます。将棋という冷酷な世界にありながら、月下の棋士やハチワンダイバーよりも「人らしさ」を描いていくあたり、作者様のこだわりを感じずにいられません。


主人公は、中学生で史上5人目のプロ棋士桐山零。彼は17歳で独立しマンションを借り、高校にも通いながら棋士としての力を磨いていく。しかし過酷な生活環境が祟り、道で倒れこんでいるところを川本あかりに拾われる。彼女は両親のいない3姉妹の長女で、捨てられている生き物を見つけては拾って帰って幸せにすることを生きがいとしてきた。3姉妹の優しさや強さに引かれた零は彼女たちと生活の一部分を共有しあうようになり、将棋だけに打ち込んできた自分の内面を少しずつ方向転換させていく。



掴みとしては以上のような感じです。他の登場人物として、仲間でありライバルでもある棋士たちも個性豊かです。特に幼い頃からの棋士仲間二階堂晴信は、実際の棋士であり若くして世を去った村山聖九段をモデルとし、棋界の真っ向勝負体当たりな側面を浮き彫りにさせています。彼の生き様は多くのファンを魅了し奮い立たせました。


個人的に好きな、というか印象に残って頭から離れないシーンは、桐山がかつて弟子入りし居候していた幸田家でのクリスマス。零にとって父親的存在である幸田は実の二人の子供と零にそれぞれプレゼントをあげます。彼ら3人は全員棋士を目指すため特訓の日々でしたが、実子二人は零ほど実力がつきませんでした。
そのクリスマスでのプレゼント、長女の香子にはクマのぬいぐるみ(彼女は完全なツンツンで喜びを隠してぬいぐるむを思い切り殴っている)、長男の歩にはゲームボム(=ゲームボーイ、彼は後に棋士の道を絶ち引き篭もりになってしまいます)、そして零には将棋の駒がプレゼントされます。
ここに父であり師匠でもある幸田の、子供たちに対する期待の度合いを大きくうかがい知ることができます。直面した子供たちにとっても読んでいる者としても、これほどつらい場面はありません。「人の温もり」が売り(個人的見解)の羽海野さん作品ですが、その対照である冷酷さをちゃんと描くのは妥協なしで隙がありませんなあ。



それにしても羽海野さんとは好きな風景の趣味が合います。前作ハチクロもそうでしたが、今回の舞台も自分に縁のある町並みがゴロゴロ登場します。自分は月島が実家で、作品も佃島近辺の情景が多くて、懐かしさと共に建ち並ぶ高層マンションによる景色の移ろいで複雑な思いを抱きました。

聖路加ガーデンやもんじゃ焼き屋さんなど、地元ネタが溢れていて心が和みます。




ところで羽海野さんは、本当に「おにぎり+魚肉ソーセージ」のメニューがお好きですね。僕としてはこれに汁物が付いたら最高です。ここら辺、女性作家さんらしさ満載です。他にも牛乳パックの値段がやけにリアルだったり生活の知恵袋的な考察が多々見られたりと、物語を楽しむだけでなく幅広く感覚中枢を刺激してくれます。おせち料理の由来など大変勉強になりました。


物語はまだ各登場人物の深層を探るまでには至ってません。これからどのような発掘作業が行われるのか期待です。新巻が出るたび手に取ってみようと思います。



最後に。スミスはめちゃくちゃいい奴っすね。羽海野さんマンガには欠かせないキャラです。島田八段も、ハチクロでいう花本先生的なポジションで大変いい味出してます。

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