音楽中心日記blog

Andy@音楽観察者が綴る音楽日記

Eminence Front

2008年11月15日 | ライヴの感想
 
 11/13(木)、大阪城ホールでザ・フー来日公演初日を観た。

 以前にも書いたことがあるけれど、ザ・フーは、自分にとって最も大切なバンドだ。中学1年の時に初めて彼らの音楽を聴いてから30年間、それはまったく変わらない。

 1970年代終わりの日本の地方都市において、「ザ・フーが一番好きなバンドだ」と言うことは、「自分は変わりものである」と宣言することに等しかった。
 中学や高校の同級生たちの八割は、音楽といえば歌謡曲やニューミュージックしか聴いてなくて、洋楽なんてものを夢中になって聴いているのは少数派に過ぎなかった。そして、ザ・フーが好きなんていう奴は、その少数派の中のさらに少数派だった。悲しいくらいに。

 たしかに音楽雑誌で「ロック名盤100選」なんて特集があると、「トミー」「ライヴ・アット・リーズ」「フーズ・ネクスト」のどれかは必ず入っていたけれど、実際にそのレコードを所有し愛聴していた人たちは、いったいどれくらいいたのだろう?

 不世出のドラマー、キース・ムーンを失った後も、ザ・フーは活動を継続した。しかし最後には「IT'S HARD」(しんどいよ)というタイトルのアルバムをリリースして'82年に解散した。もちろん残念だったし悲しかったけれど、ザ・フーらしい(というかピート・タウンゼントらしい)終わり方だと思った。すべてのものはいつか必ず終わる。

 ところが彼らは再結成した。やれ20周年だ、25周年だとかなんとか理由をつけて。なんとも居心地が悪かった。あんたら「イッツ・ハード」って言ってたんじゃなかったのかよ。

 それでもオリジナルアルバムをリリースするならまだ再結成の意義はあると思った。
 しかし、彼らはアルバムも出さずにツアーばかりをするバンドになってしまった。ただのナツメロバンドになってしまったんだろう、と悲しかった。ヴェンチャーズとかと同じだ。メンバーの中に、どうしても金を稼がねばならない人がいるとの噂も聞いた。

 そんな中、90年代に入ると、ザ・フーは日本でも再評価されだした。たしか「ライヴ・アット・リーズ」のリマスター拡大版や、30周年ボックスがリリースされたことがきっかけになったのだと思う。とつぜん若い世代が「ザ・フーがかっこいい」「すごいバンドだ」と言い出した。これもとても居心地が悪かった。これまでずっと無視されてきたのにそんなはずはない、きっと誰かが俺を騙そうとしているんだ。そんな妄想すら抱いた。 

 その後、フーはコンスタントにツアーを行うようになった。ところがそんなとき、ジョン・エントウィッスルが急死する。キース・ムーン亡きあと、ピート、ロジャー、ジョンで保ってきた三角形がついに崩れた。多角形でなくなったザ・フー。それはもうフーと呼べないのではないか、と思った。
 
 そんな状況で2004年、彼らは初めて日本でライヴを行った。観にいかなかった。太ってハゲてしまったピート・タウンゼント。声の出ないロジャー・ダルトリー。もうジョン・エントウィッスルはいない。そんなバンドに、自分が大切にしてきたものを壊されてしまうのが怖かったからだ。

 しかし、来日公演を観た人はだれもがザ・フーは素晴らしかったと言う。混乱と後悔と嘆息。やっぱり観にいくべきだったのだろうか。 
 
 2006年に24年ぶりのアルバム「エンドレス・ワイヤー」が出た。往年の輝きはずいぶん翳ってしまったけれど、ザ・フーであろうとする強い意志をその作品から感じた。

 そして今年になって、初の単独来日公演が行われるとのアナウンスがなされた。迷った末に、今度は観にいくことに決めた。もうこれ以上後悔したくない。どうせ後悔するなら、観てからした方がいい。

 初めて生で見るフーの演奏は素晴らしかった。想像していたものに近かったといえば近かったが、想像を超えていたところもたくさんあった。2時間弱があっという間に過ぎた。自分の席がステージから遠いなんてことはほとんど気にならなかった。ピートは「Too old to jump」と言ってジャンプはしなかったけれど、腕はぶんぶん振りまわしていた。攻撃的なギタープレイだった。ついでに機嫌も悪そうだった。ロジャーの声は万全ではなかったかもしれないが、要所要所、しめるところはきちんとしめていた。ザック・スターキーのドラムスは凄まじかった。ピノとサイモンとラビットはひたすら地味だった。
 ライヴが終わって数十時間経った今も、気分は静かに高揚したままでいる。

 「エンドレス・ワイヤー」収録曲「フラグメンツ」のイントロが鳴りだしたときに、「ババ・オライリー」が始まったと勘違いした客がずいぶんいた。勘違いの歓声と手拍子は知らぬ間に消えていった。ピートが「エミネンス・フロント」を熱演していたときの、オーディエンスの反応の鈍さといったらなかった。ああやっぱりそうだったんだね。あんたらザ・フーが好きだとかいっても、「フーズ・ネクスト」とベスト盤しか聞いてないんだろ。安心したよ。

 最後の最後に、ピートとロジャー二人だけで「ティー・アンド・シアター」が演奏された。「エンドレス・ワイヤー」の最終曲だ。「キッズ・アー・オールライト」とか「マジック・バス」でもやった方が確実に盛り上がるはずなのに、なぜこの(一見)地味な曲が最後に演奏されたのか。その意味をよく考え、かみしめるべきだと思う。

 ライヴから帰ってきてからずっと、「エンドレス・ワイヤー」ばかりを繰り返し聴いている。今まで見えなかったことが見えてきたような気がする。

▼2008.11.13 Osaka Castle Hall, Osaka, Japan
 01. I Can't Explain
 02. The Seeker
 03. Relay
 04. Fragments
 05. Who Are You
 06. Behind Blue Eyes
 07. Real Good Looking Boy
 08. Sister Disco
 09. Baba O'Riley
 10. Eminence Front
 11. 5:15
 12. Love, Reign O'er Me
 13. Won't Get Fooled Again
 14. My Generation
  (encore)
 15. Pinball Wizard
 16. Amazing Journey
 17. Sparks
 18. See Me, Feel Me  
 19. Tea & Theatre