映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観ました。
昨年公開の新作アニメ映画。
最近アマプラに追加されたということなので、視聴してみました。
正直、最近よくあるいじりすぎリメイクみたいなやつかと思ってあまり期待はしておらず、それで劇場にもいかなかったんですが……その予想はいい意味で裏切られました。
これは、ものすごい作品です。
6期鬼太郎の美麗ビジュアルをベースにしつつ、戦後間もない日本を舞台として、切なくも美しい物語が展開します。そこで描かれるテーマは、戦後日本史を俯瞰するようなものにもなっています。
奇しくも昨年はゴジラの新作があったわけですが、そこに通ずるものがあるでしょう。ゴジラ同様、戦後日本とともに歩んできた鬼太郎だからこそといえます。
冒頭部分の映像がYoutubeで公開されているので、載せておきましょう。
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』本編映像(冒頭シーン)
この動画でわかるとおり、映画は現代から始まります。
物語そのものは戦後間もない頃を中心として展開しますが、冒頭部分とエンディングは、現代パート。
この構造が、先に述べた「戦後日本史を俯瞰する」ということにつながってきます。戦後、焼け跡から復興しつつある日本で語られる、未来の夢……そして、それから70年後の現代復興の頃の希望とは程遠い現実。そういう、戦後史を総括するような視点があるのです。クライマックスで主人公が口にする「ツケは払わなきゃな」というセリフは、まさに近代日本にむけられたもののようにも感じられます。
といっても、単に、戦後日本の歩みをニヒリスティックに突き放してみているわけではありません。
希望に満ちた幸福な歴史でなかったとしても、その道を歩んできた人々の足音がたしかにある。それを踏まえて、ここから先の未来を見据える、そんな力強さを感じさせるエンディングとなっているのです。
一応簡単にあらすじを説明しておきましょう。
「帝国血液銀行」に勤める主人公の水木は、龍賀製薬の本拠地である「哭倉村」を訪れます。そこでは、龍賀一族の当主であった時貞翁が死去し、その後継者をどうするかという問題が持ち上がっていました。ところが、弁護士が公開した遺言状によって選ばれた新当主は何者かに殺され……と、序盤は横溝正史の小説のようなかたちで展開しますが、そこに「ゲゲ郎」なる人物が現れ、中盤からは魑魅魍魎の世界へと話が展開していきます。
ネタバレを避けるために詳細は伏せますが……決してハッピーエンドとはいえないものの、深い印象を残す結末でした。PG12指定となっていることからも推察されるとおり、グロテスクな描写も結構ありますが、それでいて、美しく切ない物語となっているのです。
そして、映画に付された音楽も素晴らしい。
懐かしさを誘う山村の風景に流れるピアノ。
そして、往年の鬼太郎ファンとしては、かつての主題歌をアレンジした曲が要所要所で流れてくるのもポイントです。
前にも書いたように、本作は、水木しげる生誕100周年記念プロジェクトの一環ですが、実にそれにふさわしい作品となったのではないでしょうか。