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むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

危惧されるレバノン・イスラエル戦争の拡大

2006-07-15 16:51:56 | 中東
悲しい事態が発生した。
パレスチナのスンナ派急進ゲリラ組織ハマースと、レバノンのシーア派抵抗組織ヒズボッラー(神の党)が、それぞれイスラエル兵士を拉致してすべてのパレスチナ人捕虜などの釈放を求めたことに端を発して、イスラエルがそれらへの報復としてガザ地域やレバノンに対する空爆を行った。ハマースとヒズボッラーが徹底抗戦を呼びかけたことから、さらにイスラエルによる攻撃はエスカレートし、ほぼ全面戦争の状態に突入している。
私自身1ヶ月前にレバノン訪問から帰ってきたばかりである。空港や主要幹線やシーア派居住地域など至るところがイスラエルによる攻撃を受け、一般市民の犠牲者がどんどん増えている。ヒズボッラーの反撃でもイスラエル市民にも死傷者が出ている。
小泉首相がたまたま中東歴訪の途上でヨルダンにおいて日本も含めた4者協議で停戦を促すことを提案しているという。日本はイスラエル、アラブ双方から信頼されているし、妙な利害関係もない。ほかにもレバノンとイスラエル双方に強いパイプを持つフランスなどとも協議して、一日も早く戦争状態を停止させるべきである。

私が5月23日から6月7日に訪問したばかりだ。かつて内戦で破壊された中心部で復興が進み、しゃれた店が並び、かつての「中東のパリ」さながらの繁栄が復活するかに見えた。また、昨年には民主化運動で懸案だったシリアの駐留軍を追い出し、ようやくレバノンなりの民主主義によって、さまざまな宗派と党派と階層が話しあいをしながら、「自分たちのレバノン」づくりを始めていた矢先だった。

それがぶち壊されてしまった。特に、私は今回の件で、ヒズボッラーには失望させられた。
ヒズボッラーは80年代の起源をさかのぼればテロリスト組織であったが、最近のレバノンを知っていればわかるとおり、ヒズボッラーはイランやシリアとの暗い関係があるとはいえ、南レバノンを占領していたイスラエルを追い出し、さらに国内で貧困層を救援する福祉事業を展開したり、国内政争でも冷静に対応するなどしたりして、レバノン国内では宗派を超えて高い評価を受けていたからである。私もヒズボッラーの支援者も何人か知っているが、その慈善精神、弱者の立場に立つ姿勢に、きわめて好感を抱いてきた。
復興の過程で貧富格差も広がっているので、その点ではヒズボッラーなどの福祉事業はレバノンを良いものとするうえで貢献があったと思う。
ヒズボッラーが現在行うべきことは、戦争や挑発ではなくて、レバノンの復興と民主主義を確実なものとするべく、国内の異なる党派と団結協力することであろう。ナチスによるホロコーストを受けた哀れなユダヤ人の正当性は、イスラエルというシオニスト国家の侵略性と無法によってもはや完全に消滅している。レバノンが豊かで強くなってこそ、イスラエルのおかしさを浮き彫りにして、パレスチナ国家の建設を促進する近道となるはずだからだ。現時点で実力もないのに挑発するのは筋違いもいいところである。
まだまだレバノンの復興と民主主義が脆弱な今この段階で、あわててイスラエルを挑発しても、イスラエルを有利にして、レバノンが荒廃させられるだけである。

ところが、今回のヒズボッラーの行動は、そうしたまともな計算もできずに、彼らが拠って立つ基盤であるはずの貧困層を苦しめるものであり、まったく理解できない。
イスラエル兵士を拉致すれば、狂ったシオニストは絶対に過剰反応でレバノンを爆撃してくるに決まっている。それに対して、アラブが本当に団結してイスラエルを追い詰めることができる確証があるなら、イスラエルを挑発する意味はあっただろう。
ところが、今回ヒズボッラー関係者は「イスラエルがこれほど過剰反応することは予想していなかった」などと驚いているようである。
ということは、甘い見通しのもとに、イスラエルを挑発して、市民を巻き添えにしたことになる。しかも、ここでイスラエル側と駆け引きをするならまだしも、戦争を受けてたつとさらに戦争を煽ろうとしているのは、どうしょうもない。それに、ハイファなどイスラエル北部都市に向けてロケット弾で反撃しているようだが、これは「シオニストを殲滅する。ユダヤ教徒全体が悪いのではない」というヒズボッラーの従来の主張と反する暴挙である。イスラエルといっても、すべてが狂ったシオニストではない。狂ったシオニストが政権を握っているのは事実だし、それに追従する民衆も多いとはいえ、平和主義者もいれば、シオニズム国家を認めない超正統派もいる。そうした無辜のユダヤ人をも犠牲にして、さらに自らのシーア派の貧困層を苦しめる戦争を煽り立てるのは、明らかに間違っている。

ヒズボッラー自身、国内で「民兵組織武装解除と国軍への編入」の声が強まっているから、それに抵抗して、ヒズボッラー民兵組織の必要性を見せ付けるために行ったのかもしれない。それにイランなどから潤沢な資金と武器を供与されているから、自分自身は慈善事業も含めて困らないと思っているのだろう。しかし、それこそが自己中心的であり、傲慢である。いかにヒズボッラーが慈善事業を提供する能力があるからといって、やはりレバノンを戦火に巻きこみ、それを助長する真似は、貧困層を苦しめるだけである。
現に、今回のヒズボッラーの挑発行為に対して、レバノンの反シリア勢力はいっせいにヒズボッラーを批判しているし、アラブ穏健派諸国も名指しを避けながら批判している。
それに、いかにヒズボッラーの資金が潤沢であっても、米国がバックにいて資金援助を続けているイスラエルに現段階でかなうかというとかなわない。このまま持久戦で、レバノンが疲弊すれば、ヒズボッラー自身も疲弊する。ひょっとしたら、南レバノンは再びイスラエルに占領されかねない。

あるいは、ヒズボッラーには独自に決定する権限はもともとないから、おそらくシリアかイランあるいは双方の指示があったのだろう。すでにレバノンでは対イスラエル意識ではかつてのようにキリスト教徒がイスラエル寄りではなく、キリスト教徒も含めてほぼアンチイスラエルがコンセンサスになっているから、ハマースの攻勢と含めて、これを機にイスラエルを挑発して、イスラエルの報復を誘うことで、「イスラエルよりは、シリアやイランのほうがマシ」という世論を作って、シリアが影響力を回復することを狙ったのかもしれない。
イランもハータミー前大統領の時だったら、こんな馬鹿な挑発は指示しなかっただろうが、いまはネジャード大統領(アラブの新聞では普通こう書く)だから、単なる希望的観測と思い込みで作戦を立てたのかもしれない。
しかし、客観的に見れば現在のアラブ・イランにイスラエルを殲滅する力はない。今の時点で挑発すれば、シリアやイランの痛手のほうが大きいことは明らかだ。

いずれにしても、イスラエルもヒズボッラーもシリアもイランも、イスラエルを一方的に擁護する米国も、いずれもレバノン市民がいくら犠牲になっても構わず、自分たちの利益と勢力拡張だけを考えているようだ。
ヨルダン国王は小泉首相に対して、これが第三次大戦の導火線になることを憂慮していると報じられている(読売新聞15日付け社説 [レバノン情勢]「歯止めがかからない中東危機」 参照)。イランかイスラエルがさらに狂って核兵器を使う可能性が憂慮されるからだ。そうなると、歯止めがかからない。

この戦争が始まってから、台湾で普通に見られるメディアとしては、ネットのほか、テレビではCNNが一番詳しいのでつけっぱなしにしているが、米国メディアだからイスラエルに寄っている。まあCNNは務めて公正にしようとしてはいて、その努力は買うが。
それにしても、昨日のCNN報道で、イスラエル政府のスポークスマンだかが「中東から偏った過激な思想を持つものを追放して、健全な民主主義が実現されるべきだ」などと主張したが、自らのシオニズムの偏向ぶりを棚に上げてよく言うよと思った。とにかく、イスラエルのやっていることはひどい。ナチスと同じ。だが、ヒズボッラーとハマースとシリアとイランもおかしい。

「哀れむべきかな、信念に溢れているが、宗教が存在しないクニ」
ハリール・ジブラーン 預言者の庭 1934年 より

レバノンの英字紙デイリー・スター(反シリア)からヒズボッラー批判の関連見出し:
The Daily Star - Politics - Politicians, religious leaders rally behind call for comprehensive cease-fire
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=2&article_id=73959

The Daily Star - Politics - Normal life screeches to abrupt halt
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=2&article_id=73952

The Daily Star - Opinion Articles - Nasrallah has dismissed international law
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=10&categ_id=5&article_id=73940

The Daily Star - Politics - Nasrallah: Only exchange will win back troops
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=2&article_id=73929

アルジャジーラ英語 レバノン・イスラエル関係クロノロジー
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/013B1ECF-6E04-401E-A62F-2E70D849E39B.htm
Aljazeera.Net - Timeline: Israel and Lebano


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