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CA-MRSAの治療と予防

2010-06-03 | 感染症内科 各論
MRSAは世界中の院内で流行していて、重症化や死亡の原因となる。MRSAの院内感染は医療機器の使用や外科手術によって感染の危険性が増加する。一方で市中MRSA感染はそのような危険因子のない健康な人においても感染が増加し、いくつかの国では感染が蔓延している。これらのことから市中MRSAは古典的な院内MRSAよりも感染力が強いと考えられる。市中MRSAに対する中途半端な治療は感染力を強めて感染を拡大させる。市中MRSAの出現、毒性、治療に対する理解は進歩したものの、知識は完全なものではない。

治療と予防
経口抗菌薬:皮膚や軟部組織感染に対するβラクタマーゼ薬は合理的であるが、MRSAでは広く耐性を示すため、市中MRSA感染が増加すると好ましくないものとなってしまう。市中MRSAに対する治療効果の評価はまだ不十分である。
CLDM, DOXY, MINO, ST, REF, フシジン酸等の安価な経口抗菌薬が一般には市中MRSAに対する治療に推奨される。試験管内ではCLDMは約80%で感受性があり、皮膚や軟部組織感染症で使用される。これは同様の感染でよくみられるA群溶連菌にも活性があるため、膿瘍を認めない症例では合理的だ。
DOXYやMINOもよく使用され、ブドウ球菌に対する活性はテトラサイクリンよりも強いものの、A群溶連菌に対する活性は限定的である。そのため、原因菌がMRSAである皮膚や軟部組織感染症では効果的であるが、テトラサイクリンに関しては妊婦や8歳以下の子供には推奨されない。
STの市中MRSAに対する活性は90-100%であり、MRSAに対する併用療法の効果を示したデータは充分ではないものの、市中MRSA感染が疑われる皮膚や軟部組織感染に対する適切な経口治療薬である。A群溶連菌に対する活性は知られておらず、同菌の感染が疑われる場合にはCLDMかβラクタマーゼ抗菌薬を併用すべきである。また妊娠第3期の妊婦に対するSTによる治療も推奨されない。
REFやフシジン酸は耐性がすぐに惹起されてしまうため、単独では使用されないが、併用の補助的な薬剤である。LZD、オキサゾリジノンは複雑性の皮膚軟部組織感染症やMRSA肺炎に米国では認可されている。臨床的にはVCMと同様の効果があり、耐性は稀である。LZDは高価であり、骨髄抑制や末梢神経障害、視神経炎、乳酸アシドーシス等の毒性があることから、他の経口剤が使用できない重症感染症のために残しておくべきである。

非経口抗菌薬:重症MRSA(CA or HA)に対してはVCMが第一選択薬であり、FDAはダプトマイシン、チゲサイクリン、LZDの使用を認めているものの、臨床的にVCMに勝るという報告はない。しかしながらVCM治療により、菌血症が続いたり、再発したり、治療が失敗したり、薬物血中濃度を15-20μg/mlに保つ必要から腎機能障害が出たり、低感受性の株が出現したりすることも度々あり、理想的な治療薬とはいえない。VCMに併用薬を追加することにエビデンスはないが、重症例や効果が乏しい場合には他の薬剤を追加すべきであることはよく知られている。

新たなMRSA治療薬としてグリコペプチド系のtelavancin, dalbavancin, oritavancin、さらにはベータラクタム系のceftaroline, ceftobiprole等が開発されている。どの薬剤も迅速な薬剤血中濃度に依存した活性を試験管内で、良好な殺菌効果を動物モデルで示している。皮膚、軟部組織感染に対する無作為化試験では同様の成績を示し、Telavancinは複雑性の皮膚軟部組織感染症にFDAの認可を取得したが、標準治療とするにはしないほうがい良い。βラクタム系抗MRSA薬はPBP2aに対する高い整合親和性によって殺菌効果を持つ。セファロスポリンであるceftobiproleとceftarolineはウサギモデルの心内膜炎で高い効果をあげており、VCM同様にMRSAの皮膚軟部組織感染症に有効である。Ceftobiproleはカナダとスイスで臨床的な使用適応を取得しているが、その役割を規定するにはさらなる研究が必要である。グリコペプチド系、βラクタム系どちらも非経口薬のみであり、MRSAに活性がある経口薬剤が必要とされている。Oxazolidinonesは経口でも生体利用効率が高く、高い抗MRSA効果を示すが開発早期の段階にある。
[Frank Deleo, Lancet 2010 Num9725]

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