『中国スパイ秘録:米中情報戦の真実』原書房を読了しました。
内容は概略以下のようです。
1.米国の国内防諜組織はFBIが担当している。FBIは司法省の管轄にあり、極めて合法的にしか活動できない(CIAなどの超法規的〔準軍事的〕な活動に比べて大きな制約がある)。一応FBIの活動範囲は国内になっているが、国外でも国務省の職員に化けたりして大使館などで活動しているとのこと。
2.中国の諜報のやり方は米国や欧州、ロシアのものとは異なっている。中国では専門のスパイなどを駆使して情報を取得するのではなく、中国出身や2世などの様々な一般の市民を情報提供者に仕立てるとのこと。国の発展のため、少しでも情報を提供してほしいなどと丸め込んだり、中国にいる親族を人質に取り、多くの一般市民らからパズルの断片のような情報を集めて、それらを後に結び付けて有用な情報にしていくとのこと。この中国のやり方は、「千粒の砂」作戦と言われているとのこと。
米国内の中国の留学生、中国出身の帰化した人たち、また中国系の企業の従業員、米国研究所の中国系職員など実に様々な属性の人を情報提供者にしているとのこと。そのため、FBIがスパイ罪で起訴するのは相当困難であり、また仮に起訴しても、被疑者に有能な弁護士が付けば無罪になるケースも多いようです(情報提供者はスパイでなく、一般市民の素人であり、諸々言い訳ができて弁護がし易いとのこと)。つまり情報提供者は無数にいるので、スパイと特定できる者は本当の一握りのとのこと。
参考:『中国政府は旅行者にスパイ活動をさせる(2)』
「私は米軍の情報士官として35年間、中国人民解放軍と中国情報機関の活動を追ってきたが、米国の安全保障にとって中国以上に広範囲かつ積極的な諜報活動の脅威はないだろう。
中国は一党独裁の共産主義国家だ。あらゆる職場、コミュニティーに国民を監視する共産党の要員が配置されている。経済的自由は随分拡大したが、政治的自由はない。だから、中国人がパスポートを取得するときは、政府から徹底的な調査を受ける。海外を訪問する者は、行き先の国で情報収集をするよう指示される。
中国政府は旅行者にスパイ活動をさせるために、家族に圧力を掛ける。「情報を集めてこなければ、おまえの家族を逮捕する」と脅すのだ。米国や日本のような民主主義社会ではあり得ないことだが、中国ではこのようなことが行われている。
――中国は旅行者や学生、学者、ビジネスマンなど、あらゆる立場の人間を活用して情報収集活動を行っている。「人海戦術」と言っていいだろうか。
「人海戦術」と言うのはいい表現だ。大量の海外訪問者に情報を断片的にかき集めさせ、帰国後にすべての情報を集約する。中国はこのやり方を「バケツの砂」と呼んでいる。全員が砂を一粒ずつ集めれば、いつかはバケツがいっぱいになるという意味だ。」
「米連邦捜査局(FBI)の幹部によると、約3,000の偽装会社が米国内で活動している。これらの会社は人民解放軍や軍需企業の系列で、大半が中国政府に直接管理されている。すべての会社に中国共産党員が配置され、彼らが会社の幹部であれば、党の指示で動いている。 」
3.スパイ罪の構成要件である「明らかな軍事機密情報」と「軍事技術に繋がる先端科学情報」との間には立証上大きな隔たりがあり、それを軍事情報と特定するのは非常に困難であり(本人の明確な自白などがない場合)、またそれを精緻に立証しようとすると、かえって軍事機密情報が漏れてしまうことになる。そのため、司法取引により軽い罪しか科せない場合も多いとのことです。
4.あるFBI捜査官(幹部)が中国系の女性(中国幹部とも親しい)を長年に亘りエージェントして管理し情報を収集していたところ、その女性は実は2重スパイであり、その幹部の情報や、その他のFBIの情報などが中国に筒抜けになっていた。さらにその幹部ともう一人のFBI捜査官がその女性と長年性的な関係にあり、情事も絡み、防諜組織としてのFBIの面子が丸潰れになった事件もあったとのこと。本当に滑稽な話のようにも思われますが、米国の国内防諜がこの程度なら、中国の米国での情報収集はいとも簡単に行われているのかもしれません。
私の感じたことは以下のようです。
1.前回の記事「米中戦争はもう始まっている」のように「物理的な軍事的緊張」が米中間では高まっていますが、現段階では中国は絶対に米国との「物理的な軍事戦争」を回避すると思います。なぜなら未だに米国との軍事科学技術の差は隔たっており、また米国からまだまだ重要な情報を吸い上げられるからで、このまま中国経済が順調に成長(高度化)していけば、自然に軍事科学技術も高まり、政治経済的にも大きな影響力を得ることができるからです。そして果物が熟すように、やがて世界は中国の手に握られ、コントロールされていくようになるからです。
2.米ソ冷戦と米中戦争との違いは、米国と中国が経済的に繋がりながら、軍事的緊張が高まっていることだと思います。なにせ中国の市場は巨大です。企業が売上の規模を増大しようとしたら、この中国市場を見放したら致命的なことになりかねません。安全保障上の問題があるといっても、企業の競争は激烈であり、相手を潰そうとしたら悪魔とも手を握るかもしれません。カネに善悪などの印は付いていません。中国も世界の大企業を引き込み、下半身を繋げて、もはや懇ろの関係になり、中国なしではやっていけないように仕向けると思います。TPPなどはその防波堤になるかもしれませんが、中国はそれに対抗して規制をどんどん撤廃し、公平な商取引(法システム)を導入して(共産党独裁のみは死守して)、骨抜きにするような気がします。
下半身が繋がっていては、内輪喧嘩くらいのことしかできないかもしれません。
そのうちに、世界の大企業の売上げの大部分が中国市場でのものとなり、本社機能も中国に移さざるを得なくなるかもしれません?
米国は安全保障のため、大企業の中国との取引を制限することなどできないと思います。いくら国防関係者や一部の保守政治家などが警鐘を鳴らしても、大金持ち同士は決して喧嘩することなどないと思います。カネで深く繋がれば、もうズブズブの状態ではないでしょうか。
参考
日本企業も中国なしでは成長は見込めない?
「東レの16年3月期の中国事業の営業利益は、前期比24%増の235億円と過去最高になる見通しだ。縫製した衣料品の販売が伸び、紙おむつ用の不織布も好調だ。中国では経済の減速懸念が強いが、衣料品や観光旅行などの個人消費は根強い」
「中国でも高齢化現象で、紙おむつ向けの不織布の販売が好調、ユニ・チャームやP.Gなどの中国市場で売れ行きがTOPのメーカーへ深く食い込んでいる、13億の人口の中間上層が成長期に入っている、10月の社会消費品の小売総額の伸びは11%、中国の産業不況とはホトンド関係ないかに見える程に伸び率が高い、ゼッタイ消費が低いだけに伸び率は高い」
「年間2割の売り上増なんて中国市場以外にはチョット考えられない…」
「エーザイは27日、中国で後発薬の製造販売を手掛ける遼寧天医生物製薬(遼寧省)を買収すると発表した。全株式を5億元(約96億円)で取得する。中国の医薬品市場は世界2位の規模があり、高い成長が続く。主力薬の特許切れで日本や欧米の収益環境が悪化するなか、買収を通じて後発薬市場に参入して中国事業を強化する。」
3.中国は「物理的な軍事戦争」によるよりも、政治経済的な謀略により米国を占領しようと思っているのではないでしょうか。
なにしろ中国の権謀術数は4000年の歴史があります。思えばとんでもない国と諜報・謀略戦争していることになります。
中国が米国に仕掛けると思われる謀略としては、各州の連邦政府からの離脱・独立を進めることなどもあると思います。中国は各州政府と密接になり、経済的恩恵を与え(賄賂もシコタマ配り)、各個撃破していくかもしれません。
このような動きも利用すると思います。
また豊富なマネーを駆使して、米国内での思想洗脳作戦も行っています。
3.サイバー攻撃もやりたい放題、米国に脅かされてもなかなかやめないようです。
参考:『スノーデン暴露はは中国の謀略?』
「『世界サイバー戦争』リチャード・クラーク、ロバート・ネイク著 徳間書店によると、中国のサイバー攻撃による機密情報の窃取は凄まじいものがある。まるで底引き網でさらうようなやり方だ。
とにかくこのサイバー攻撃はリスクがほとんどなく、利益がとてつもなく大きい。
サイバー攻撃では、軍人が攻撃することはない。中国軍の下請けのハッカー達が攻撃する。それも中国国内からではなく、様々な国のパソコンからいくつものサーバーを経由して行われる。そのため犯人を特定するのは非常に難しい。もしかすると米国の大学に留学している学生がカフェから行っているかもしれない。
中国のサイバー攻撃は軍事・民事に拘らず、最先端技術・情報を根こそぎ盗んでいるようだ。F35の機密情報も盗まれたようだ。また電力やインフラ関連の制御機器にも侵入されて論理爆弾を仕掛けられているかもしれないとのことだ。
米国は民主主義社会で個人情報やプライバシーを重視しており、また効率的なシステムを追求してるため情報共有が進んでいて、厳重なインターネットセキュリテー=情報統制ができない。また利益重視の投資社会なので、経費増大になる厳重なせキュリー投資に躊躇する。元々ホビー用に開発されたバグの多いウインドウズが民間だけでなく諜報・軍でも広く使用されており、セキュリーティーに問題がある。ウインドウズはソースコードを公開しておらず、バグをすばやく修正できない。中国はマイクロソフトに圧力をかけ、ソースコードを手に入れ、バグをすべて把握して自国用には修正している。」
南シナ海での占領も既成事実のようで、米国も面子があり公海の通行くらいは行いましたが、当然そこから撤退させる軍事行動は取れません。考えてみれば、米国もずいぶんなめられたものだと思います。中国はこのまま時間が過ぎれば過ぎるほど、自国の方が優位になると思っているのではないでしょうか。
4.残念ながらもはや日本は中国に対抗できないかもしれません。米国も実質的に骨抜きされてしまうようでは、日本など簡単に篭絡するかもしれません。とにかく米国をソフト的にある程度占領した場合や、なんらかのトラブル(各州の離脱など)があれば、その隙を見計らって日本を完全占領すると思います。しかし、放射能まみれになってしまった場合には、占領しても価値がないと判断するかもしれません(放射性廃棄物のゴミ捨て場になるかもしれません)。
5.中国という国は、とんでもない環境汚染や不正の横行、共産党幹部の蓄財、貧富の格差、巨大バブルの破綻などの矛盾やマイナス面もありますが、とにかくバイタリティー(がめつさ、ハングリー精神)があり、4000年の権謀術数にも揉まれ、タダでは死なない民族のように思えます(しぶとい民族)。今後、どのようになるのか、まるで想像することができませんが、いつか米国と中国は融合して、世界政府の核のようになることもあるのでしょうか。それとも全面的な核戦争の勃発が起こることもあるのでしょうか?また中国共産党が潰れた場合には、いったいどのような政治体制になるのでしょうか?