世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

予兆③

2018-07-24 04:10:54 | 風紋


ネオもだんだんとたくましくなっていた。年の割には体が大きい。大人になりたいと強く思う子供は、早く成長するのだ。十七になったら狩人組に入りたいと言っていたが、最近は違うことを考えていた。

「タモロ沼で、稲の仕事をしたいな」
「ふうん、タモロで?」
「うん。ヤテクはオロソ沼でいっぱいだろう。おれ、タモロの稲を見ていたら、あそこで稲の世話をしたくなった。魚釣るのもおもしろいけど」
「うん、ネオがそうしたいんなら、そうしたらいいわ」
モラはいつも、静かな声で、ネオに賛成してくれた。それがいいのだ。そこが好きなのだ。モラのほかの女は、こんな声で、こんなことを言ってくれない。

ひとりの女にこだわることを、今もサリクにからかわれることがある。ほかにもいい女はたくさんいるのに、もったいないぞと。だけどネオは、本当に、モラのほかの女と交渉するのは嫌だった。

「ネオがそうしたいのなら、そうすればいいわ」

ずっと一緒にいたいというと、モラはそう言ってくれる。そういうモラがいい。ほかの女なんて嫌だ。

ネオは、もう自分はこれでいいと思っていた。少しくらいほかと変わっていても、かまわないんだ。オラブみたいにみんなに迷惑かけるわけじゃない。みんながそうしてるからって、おれはやっぱり、モラのほかの女のところにいくことなんて、できない。

こんな自分を、みんなは時々変な目で見るけど、アシメックだけは暖かな目で見てくれる。
「変わった奴だな。だがいいやつだ。おもしろい」
ネオは、アシメックのその声が、心底好きだった。あんな男になりたい。すっごくいいことをして、あんないい男になりたい。




この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 予兆② | トップ | 予兆④ »
最新の画像もっと見る

風紋」カテゴリの最新記事