もうすぐまた稲植えだ。ネオはこの沼ができてから、ヤテクに習って稲についての知識をたくさん蓄えた。稲植えの経験を積み、様々なコツを身につけた。大人の男になっても、サリクほどには体が大きくならなかった。だが、いいことのできるいい男になれたと思っている。少なくとも、モトは、こういうネオを誰よりも慕ってくれるのだ。
サリクは、アシメックが死んでから三日後に死んだ。
カシワナ族には殉死の風習はない。だがそれに近かった。アシメックが死んだことを知った時、サリクは世界が終わったかのような真っ青な顔をし、突然口を利かなくなった。そのまま家にとじこもって、何も食べずにぼんやりしていたと思うと、三日後に寝床の中で死んでいるのが見つかったのだ。
アルカラを思い出したのだろう、とミコルは言った。だがネオはわかるような気がした。サリクはアシメックについていったのだ。そうしかねないくらい、サリクはアシメックばかり追いかけていた。
りっぱな男は、いいことをみんなのためにするものだ。
そんなことを、サリクが言っていたことを、覚えている。あれはアシメックの真似だった。アシメックはいつも男たちにそんなことを言っていたのだ。ネオもそう思う。そうとも、それが正しい男の生き方なのだ。
おれはサリクみたいにでかくならなかったし、狩人組にも入れなかったけど、稲を勉強して、みんなのためにいいことをしている。
そして、モトに、立派な男のやり方を教えてやる。おれが生きてやったこと、すべて教えていく。
そうすれば、きっとこのカシワナの村は、ずっと美しく生きていくにちがいない。
風が起こった。それを受けて、また沼の水面に文様が揺れた。