世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ケバルライ⑥

2018-08-04 04:11:06 | 風紋


その日、アシメックはソミナが米をつく音を聞きながら、早めに床についた。コルは小さく歌いながら、ソミナのそばに引っ付いている。ソミナが好きなのだ。もう母と同じくらい、愛しているのだ。もういい。おれがいなくても、妹はやっていける。

その様子を見ながら、アシメックは目を閉じた。

夢を見た。

はるかな上空から、アシメックはタモロ沼を見下ろしている。あの時と同じだ。

季節は春だった。みずみずしく水をたたえたタモロ沼に、人々が集まり、稲を植えていた。ああ、またやっているのだ、とアシメックは思った。

「ごらん」
とまたあの声が言った。
「あれはまだ、風が起こす風紋なのだ。まだ何もわかってはいない。だが、確かに、いつか風になる種を持っているのだ」
「ああ、そうだ」
アシメックはその声にこたえた。

「わたしたちの道は、はるかに遠い。長い年月を、やっていかねばならぬ」
声は言った。アシメックは返事をしなかった。だが心のどこかで、わかっているような気がした。

「想像できるか? あの、まだとても小さい魂が、何もわかっていない種が、今にこの世界に大きな風を起こすものになるということが」

声が一段と近づいてきた。アシメックは、その誰かが今、自分の耳元でささやいているのを感じた。




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