稲植えを終えたころから、足元が少し揺れるようになった。歩く時つまずくことが多くなったのだ。朝目を覚ました時も、しばらくしびれたように体が動かなくなる時がある。
いつまでも若いと思っていたが、そうはいかないらしい。
しかし族長たるもの、そんな衰えをみなに見せるわけにはいかない。アシメックは人前では極力変調を見せないようにしていた。だから一緒に住んでいるソミナさえ、アシメックが時々じっと天井を見ながら立ち尽くしていることのわけに、気付かなかった。
そうやって目眩をやりすごしていたのだ。
ソミナは相変わらず、コルの世話に忙しかった。ここに来たばかりのころはおとなしかったコルも、最近はかなりやんちゃになり、時々ソミナを困らすようになった。子供はそういうものだ。コルがソミナに心を開いてきた証拠だった。いい感じだ。おれが死んでも、コルがいれば、ソミナはなんとかなる。
夜に床につくたびに、また夢でアルカラを思い出しそうになるのではないかと、不安になった。まだ死にたくはないのだ。皆が稲を刈り、どれだけ収穫が増えるか見たい。みなの喜ぶ顔が見たい。
季節は過ぎていく。ネオはもうすでにモラの家の一員となっていた。モラのお腹には、テコラの次の子が宿っていた。もちろんネオの子だ。ネオは一生、モラと暮らしていきたいという。そういうネオの心を、モラは断らなかった。まだ深いことはわからないが、男がそういうのならそうしたほうがいいと思っているのだ。毎年歌垣に参加するのも面倒だと思う方だった。