世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

予兆④

2018-07-25 04:11:07 | 風紋


季節は夏を越え、秋になった。サリクはまた、コクリが咲いたことを、アシメックに知らせに来た。一度言われてから、必ずそれを守るようになったのだ。アシメックは、コクリの花を持って、嬉しそうに自分の家を訪れてきたサリクを、今年ばかりは抱きしめたいほどだった。稲刈りだ。新しい稲刈りが始まる。

オロソ沼には稲舟を出し、いつもと同じやり方で稲を刈らせた。それがあらかた終わったあと、アシメックはみんなをタモロの方に導いた。

タモロはオロソよりずっと浅い。舟は使えない。みんなは沼の中に足をつけ、稲を刈っていった。腰に茅袋をつけ、刈った稲の穂先をそれに入れていくのだ。それを考えたのはセムドだった。

舟の上に稲を置くことができないからには、新しい工夫が必要だ。そしてそういうことを考え付くものは必ずいる。

やってみれば、必ず何かが見つかるのだ。

楽師たちの労働歌に合わせながら、みんなはリズムよく稲を刈っていった。その様子を、アシメックは岸に立ちながら満足そうに見ていた。涙がにじんでくるのは、年をとったからなのか。

これでいい。これでいいんだ。おれがいなくても、かならずみんなはなんとかなる。

その年とれた米の収穫量は、去年の倍だった。壺の数が間に合わないほどだ。エルヅは数えながら、半狂乱になるほど喜んでいた。

「これだけあれば、ヤルスベもなんとかなるよ!」

その様子を見ながら、シュコックは稲蔵を増築しなければならない、と嬉しそうに言った。隣にいたアシメックもそれに同意した。




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