ネオはその時、何かに打たれたように立ち尽くした。風が頬に触れ、何かをネオにささやいたような気がした。
信じられるか。おまえたちはまだ、風を受けて現れる風紋のようだが、いつか、この世界に不思議な文様を描く風になるのだ。
ネオはふと辺りを見回した。誰かがそばにいるような気がしたのだ。だが周りにはモトの他誰もいない。空耳だったのだろうか。
風か。確かにアシメックは風みたいだったな。岸辺に立ってみんなに向かって何かを言っているだけで、風に吹かれるみたいにみんなが一生懸命動いていた。
あの声が好きだった。聞くだけでうれしくて、なんでもやりたくなった。だが今はもうはっきりと思い出せない。日々の中で記憶は薄れていく。ただ、人々に伝えられていく神話だけは生きていた。
青い鹿と闘い、沼を広げて稲を歩かせた英雄は、いつか神のように立派になり、風のように子孫たちの心に風紋を描いていく。
昔、アシメックという勇猛な神はこう言って、男たちを導き、すばらしい沼を作ったという。
やってみろ。
おまえにはみごとにそれができるだろう。
(おわり)