世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ガラスのたまご・19

2015-02-20 06:39:27 | 瑠璃の小部屋

★詩人さんの結婚

ある日のことである。画家さんが詩人さんの家を訪ねた。ちょうど昼時だったので、詩人さんは画家さんと一緒に昼食をとっている。

「うめえな。この味噌汁。おまえがつくったの?」
「まあね。結構料理には凝ってるんだ。無職だし、家事くらいはやらないとね」
「だし、なにつかってんの」
「かつおぶしと昆布だよ。そっちの梅干しもぼくがつくったんだ。食べてみる」
「おお。けっこういけるな」
「本に書いてあったとおり作っただけさ。でも手間暇かけると、やっぱり味が違うよ」
「ふつう男が梅干しなんかつけるか?」
「余計な御世話だ。黙って食え」

うーむ。シャケの焼き加減も絶妙。画家さんはうなった。そしてつい、言ってしまった。
「いいなあ。こんなの毎日食いてえ。おまえ俺の嫁になんない?」
「…なんか言ったか?」
「いや? べつに」

詩人さん、平静を装って聞き流したが、腹の中で一瞬、ぶっ殺してやると思った。

食事が終わり、食器を片づけた後、詩人さんは居間でくつろいでいる画家さんに言った。
「で、どうしたのさ。なんかあったの?きみがぼくんとこにくるときは、たいていなんかあったときだ」
「ふん。まあね」
画家さんは天井を見ながら、明日のことを思った。画家さんは明日、あるホテルで、例の女性と会う約束をしている。気が乗らないのは仕方ない。けれど行かなきゃならない。約束を破るわけにはいかない。いろんな思いが画家さんの頭の中をよぎる。詩人さんに相談しても、どうにかなるもんじゃない。自分はいったい何をしに、こいつのとこに来たんだか。

画家さんが深いため息をつく。その横顔を見ながら、詩人さんはなんとなく、腹に砂を抱くような苦しさを感じた。何かを言ってあげなければいけないような気がするが、何を言ったらいいのかわからない。

「あかつきの悲しみは 空をみる か」画家さんがぽつりと言った。詩人さんが続けた。
「ああ、あかつきの喜びは 星をみる」
「あれ、なんて意味なんだ?」
「まいったな。自作の詩の解説なんて、詩人の仕事じゃないよ」
「おしえろ」

画家さんの強引な言葉に、少し眉をひそめる詩人さんである。困ったやつだな。何があったのか知らないけど。こういうときは、言うとおりにしてやった方がいいか。

少し考えたあと、詩人さんは答えた。
「最高の人生が待ってるって意味だよ」

画家さんがふと詩人さんを見た。詩人さんも画家さんの目を見た。画家さんの目の中で、何かが動いた。

「さんきゅー、わたる」
何分か経った後、画家さんはそれだけ言って、詩人さんの家を出ていった。
詩人さんはただ、ぽかんとしていた。

(つづく)




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