★手品師さん、お仕事中
手品師さんのお仕事はもちろん、マジック。舞台の上で華麗にマジックをしてみせます。彼は高校を卒業してすぐ上京して、師匠について学び、若いとこから頭角を現して、今は結構売れっ子のマジシャン。テレビに出たこともあります。
カードやハンカチを使った小さな手品から、大きなボックスを使った大掛かりな手品まで、見事にこなす。ルックスの良さもあって、かなり売れてます。けれど、彼はそんなものに溺れない。好きなのはマジックの練習。柔らかに指を動かすこと。マジックのアイデアのために、頭を柔らかくすること。
今日も手品師さんは舞台でお仕事。
銀のスーツを着て、ハンカチを手にまずは簡単なマジックから。観客が彼の手元を真剣に見ています。手品師さんが指を動かし、呪文を唱えると、ハンカチが一瞬炎に変わって、そこから3羽の白い鳩が。
これくらいは軽いね。
★画家さん、お仕事中
画家さんのお仕事はもちろん、絵を描くこと。それだけでは食べていけないので、バイトもしてますけどね。今は自宅のアトリエで、花瓶に挿した黄色い薔薇の絵を描いています。
どうやら、誰かに、花の絵を描いてくれと頼まれたらしいです。こういう仕事は、かなりあるらしく、画家さんにとって、よい収入源ともなっております。時には、ペットの絵や子供の絵を描いてくれという注文もあるらしいです。
画家さんはかなりうまく、写実的にも、印象派っぽい絵も、時にはルネサンス期の宗教画っぽい絵も描けます。そこは、お客さんの注文にそって、器用にできるそうです。こういうことには、器用なんだな。油絵だけでなく、テンペラ画も描けるそうだ。
でも本人が好きなのは、アンリ・ルソーと、ゴッホだそうです。自分らしい絵を描こうとすると、なんとなく、ルソーやゴッホに似て来るらしい。今描いてる黄色い薔薇の絵も、どことなくゴッホのひまわりに似ている。
あ、でも彼は、棟方志功だけは絶対認めないそうだ。大嫌いなんだそうです。なんでだか知らないけど。
描くのは主に風景や静物画。人物画も好きなんだが、モデル代が高いので、なかなか描けないらしい。なので、ときどき、詩人さんを、行きつけのカフェのコーヒー券30枚で、三時間ほどモデルとして雇うらしい。そのとき詩人さんは、「上着以外脱がないからね」と言って引き受けるらしいです。
ともだちとはよいものだな。
★詩人さん、お仕事中
詩人さん、PCを見ながら真剣な顔してます。
彼は今無職で、病気療養中。まあ家事を手伝いながら、詩を書くという毎日を送ってます。詩集を一冊出版しており、数は少ないですが、ファンはいます。で、彼は今、ある詩の全国誌から、原稿依頼を受けて、そのために詩を書いてるとこなんです。詩人さんにとっては、わずかながらも原稿料が入る、大切な仕事。詩集を出してから、ときどき、こういう仕事も入るようになった。
けれども、詩人さんには悩みがありまして。彼が、詩を全国的な詩の専門誌に発表するたびに、ある遠くの詩人から、詩人さんの詩に対する批評を書いた長い手紙やはがきが届くのだ。それも、なんというか、読むととても胸が苦しくなるような内容。一見ほめられているようで、全部を否定されるような。そんな批評なんです。
この仕事をすると、またあの人から手紙が来るなあ、なんて思うと、心も重くなる詩人さんなのです。
詩人の世界にも、いろいろなことがあるらしい。人間とはつらいな。
こういうことを、画家さんに相談すると、一言で、「そんなものは破ってすてろ。気にするな」という。
手品師さんは、ただ笑って、何も言わない。多分、それくらいのことは、当たり前だと言う感じなんだと思う。
でも詩人さんは、そういうこまかいとこ、気にするたちで。また手紙が来るなと思うと、心が暗くなる。
でもとにかく、原稿は書かなくては。
で、詩人さんは、批評家によく言われるような、甘い夢のような詩を書くわけだ。だって、そういうのしか、書けないから。結局は、批評家に何を言われたって、詩人さんは詩人さんの詩しか書けない。
で、詩人さんは、今日もワードで詩を書くわけです。
(つづく)