★ある日
詩人さんと画家さんと手品師さんは、高校時代からの友達です。学校を卒業して社会人になっても、定期的に行きつけのカフェで会うことにしています。今日はその日。大人の男が三人、昼間からカフェに集まって何話してるんでしょうね。
詩人さんは、三人の中では、一番生命力の弱い人です。学校出て会社勤めしたものの、正直すぎて、人づきあいが下手で、人間社会についていけなくて、心のバランスを崩して、会社をやめ、今は自宅で病気療養中。髪を女の子みたいに長く伸ばしてるのはそのせいです。画家さんも、絵だけでは食べていけなくて、アルバイトなんかしてますが、詩人さんはそれすらできないんですよ。弱すぎるんだ。
若いころから詩を書いていたので、一応詩人として、詩集を発表しています。きれいな詩を書くそうで、ファンはいるそうですが、あまり売れてはいません。まあ、詩集は一部の有名詩人を除いて、そう売れるものじゃないですが。
画家さんはこの詩人さんのことが一番心配だそうです。いつも、「おまえは早死にしそうだな」というそうです。そうすると詩人さんは「そんなことはない。意外にぼくみたいのが、しぶといんだよ」というそうです。そうすると手品師さんは、何も言わずに笑って、なんか手の中に突然、魔法みたいにカードを出して、テーブルの上に並べて簡単なマジックを始めたりする。ほかのふたりはじっとそれを見てる。
だまっていても、なんだかお互いの気持ちがわかるような気がする。
午後のカフェのひとときは、なんだか幸せだ。日差しも温かい。
(つづく)