★最初のワン
みなさん、こんにちは。鳥音渡です。あ、正確には、生きてる頃はそういう名前だったやつです。今ぼくは死んで、見えないものになっています。
死ぬのはそれほど大変じゃありませんでした。意識を失っているうちに、もう肉体から魂が離れていました。ぼくはしばらく、病院で、中に何もいなくなったのに、まだ生きてるぼくの体を見ていた。それから間もなく僕は本当に死んで、体も骨になって、この世界から消えちゃったわけだけど。
完全にいなくなったわけじゃありません。
肉体がないってのは、けっこういいですよ。自由だ。もう僕は解き放たれて、本当に僕がしたかったことを、そのまんまの形でやることができるんです。
生きてるときは、一生懸命勉強して、詩を書いて、苦労して何かをやらなきゃいけなかった。僕には大事な役目があるような気がして、一生懸命詩を書いてた。それが何なのかは、死んでからわかったのだけど。ぼくは、生きている人たちがいる世界に、本当の愛を置いてこなければいけなかったんだ。それを、詩を書くことでやろうとしていた。もっといろいろやりたかったけど、結局は詩集2冊しか出せなかった。でも、あまり後悔はない。生きてるって、おもしろかったですよ。つらいこともあったけど、友達がいたし。
今はなにやってるかって? ぼくは透明になって、愛だけになって、みんなの胸の中にいる栗鼠に、愛を届けているんです。簡単なこと、みんなの魂の中に、そっと、ろうそくのともしびを移すように、愛してるよって、ささやくだけなんだ。
ぼくが生きてるうちにやりたかったのは、これだったんです。
がらすの たまごは ゼロの かたち
あのころ、僕の本当に言いたかったことが、今の僕にはわかる。もう名前も体ももつ必要はないから、自由に言える。
ゆけ みんな
菫色の空の向こうには 本当の青い小鳥が生きている
この世界でたった一羽の 本当の愛の瞳が
そして
最初のワンを 君は打つ
(つづく)