日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

豊穣の福井を行く 2020 - 猩猩

2020-09-21 22:17:16 | 居酒屋
最低限必要な荷物をまとめ、残りは車内に置いたまま繁華街の方へ向かって歩きました。片町と木倉町の繁華街を通り抜け、せせらぎ通りを歩いて向かったのは「あぐり」です。しかし、お姉さんから返ってきたのはもう看板という無情の宣告でした。本来なら入れるはずの時間帯ではありますが、非常時に鑑み、よほど顔の利く常連でもない限り断っているということでしょうか。残念ではあるものの、一応納得できる結果ではあります。
問題は代わりの店を探すかどうかです。一軒目で腹はあらかた満ちています。祝日の深夜という条件からしても、行くとすれば「源左エ門」がせいぜいでしょう。しかも、時間的には中途半端にならざるを得ません。どのみち中途半端なら、長らく食わず嫌いをしていた店へ行くのも一興です。せせらぎ通りを引き返し、「猩猩」の暖簾をくぐりました。

金沢の呑み屋を訪ねた初期の頃、教祖の導きを頼りに訪ねたのがここでした。しかし、今に至るまで通い続けた「浜長」と違い、当店とはすっかり縁遠くなっていました。最後に訪ねたのは11年前、それも「浜長」に早仕舞いで振られた上でのことでした。
食わず嫌いを続けてきた理由として、ズバリこれだと思う決め手に欠けたことが挙げられます。都らしい華やぎという点では何といっても「浜長」です。正統派の居酒屋なら「源左エ門」、おでんなら「大関」「赤玉」「高砂」といったところが揃います。こちらの真骨頂は何だろうかと考えたとき、まず思い浮かぶのがせせらぎ通りの趣ある店構えです。しかし、「あぐり」を自ら開拓したことにより、そちらが取って代わりました。その結果、この店には足が向かなくなって現在に至ります。しかし、若かりし頃は気付かなかった味わいに、歳を重ねることによって気付いてくるということがよくあります。金沢でいうなら「菊一」がそうです。当店においても同じ結果となりました。

十年以上無沙汰すると、記憶もあやふやになります。カウンター七席に半個室の座敷だけという店内は、記憶以上にささやかです。純和風とはやや違う、近年教祖が激推ししている小洒落た店とも違う店内の雰囲気は、語弊を恐れずいうならば仙台の「かん」に通ずるものがあります。
巻き紙を使うあちらに対し、当店の品書きは三枚の黒板に綴られます。ただし、できるものは限られる、ほぼ酒だけだと最初に告げられていました。いしるきゅうりなる品を所望するも難色を示され、代わりに選んだのは水茄子でした。この水茄子が秀逸です。粗塩で揉み、レモンを絞っただけのようでありながら、浅漬けとは一味も二味も違う爽やかさがあります。突き出しの煮こごりにも十分な量があり、はしご酒の二軒目として不足はありません。
品書きをよくよく見ると、10時が看板、注文はその15分前までとありました。つまり、断られてもおかしくはなく、温情措置が講じられたということです。しかし恩を着せることはなく、だからといって迎合することもなく、できることはここまでだと、さりげなく示す老練さが教祖の推奨店ならではです。遠い昔に訪ねたとき、店主と言葉を交わした記憶はないものの、話好きな一面もあると知りました。人が変わったかのようなのは、当時お見かけしなかった女将の存在によるところもあるのでしょうか。やはり、一度や二度訪ねただけで店の真価が分かるものではありません。その経験則を改めて実証する結果でした。

猩猩
金沢市香林坊2-12-15 割烹むら井ビル1F
076-222-2246
1745PM-2145PM(LO)
日曜定休

千枚田
遊穂
勝駒
突き出し
水茄子
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豊穣の福井を行く 2020 - わり勘

2020-09-21 20:24:15 | 居酒屋
加賀から金沢西まで北陸道を飛ばすと、ICから野町までは最短に近い経路で行くことができます。出発から約750kmを走破して本日の走行は終了です。駅前に車を止め、そのまま暖簾をくぐりました。
金沢に泊まるという急転直下の展開になったのは、近年とりわけ愛用している「わり勘」が、明日は休むと知ったために他なりません。口コミサイトの弊害もあるのか、かつては気軽に入れていた金沢の有名店が、近年頓に入りづらくなってきたのを感じます。そのような事情もあり、この店に対する信頼はますます絶大なものとなりました。日祝日休みの「浜長」に、今回立ち寄れないのは仕方がないとしても、当店に一日違いで行き損なうかと考えたとき、それだけはどうしても避けたかった次第です。
昨晩「紋や」を訪ねたときも思ったのですが、秋の北陸はいかにも地味に感じられます。黒板の品数こそ変わらないものの、目移りするような冬場のそれとは明らかに違い、目玉になるものが乏しいのです。しいて挙げても季節外れのブリカマが目立つ程度でしょうか。とはいえ、酒だけは一年中で最も充実する季節です。当店の唯一にして最大の難点は酒の単調さですが、今回はひやおろしが二種入っています。お約束の五点盛りには楓の葉が添えられてきました。秋を実感する一幕です。

わり勘
金沢市野町4-3-6
076-244-2280
平日 1600PM-2215PM(LO)
日祝日 1600PM-2115PM(LO)
月曜定休・月一回日曜休業

一番搾り
常きげん
天狗舞
刺身五種盛
牛すじ
あげ
自家製つみれ
太胡瓜
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豊穣の福井を行く 2020 - 唐突

2020-09-21 18:44:10 | 北陸
唐突な展開となりました。今夜は金沢に泊まります。宿を押さえ、移動を開始するところです。
日中までは、福井に連泊するつもりでした。天候さえ崩れなければ、明日も周辺での撮影に費やし、金沢に一泊してから翌日帰ろうという算段でした。急転直下で金沢に変わったのは、偏に呑み屋の問題です。撮影を切り上げ宿を手配する段階に至って、今更ながら金沢の店に一報入れると、「わり勘」も「あぐり」も明日は休むとの返答でした。四連休の最終日だけに、そうなることも織り込み済みだったものの、直接聞いて俄に惜しくなったとでも申しましょうか。福井でも今夜は「紋や」が休んでいます。祝日定休の店も多く、心当たりが乏しい中から探すしかない状況でした。ならば金沢に一泊し、明日早起きして戻ればよいと悪魔が囁いた次第です。
現在地は春江駅です。看板の時刻から逆算すると八時台の後半に入れればよく、計算上は全区間一般道でもたどり着けます。とはいえあくまで計算上の話に過ぎず、結局慌てるという展開は考えられるところです。ひとまず一般道で行くものの、部分的に北陸道を使うのが現実的でしょう。
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豊穣の福井を行く 2020 - 逆転劇

2020-09-21 18:14:42 | 北陸
午後は空振り気味でしたが、土壇場の逆転劇が待っていました。九頭竜川の鉄橋で撮影を終えたところです。
その後の経過についていうと、昨日当たりをつけていた王子保から南条の間に広がる田圃へ向かうも、上空に大きな雲が居座ってしまい、残念ながら無駄足に終わりました。そこで大土呂へ戻ったところ、今度は手前の山の陰が落ち、編成の半分ほどが隠れていました。しかし西日はまだ高く、その場で見切りをつけるには早過ぎます。閃いたのは、朝も訪ねた九頭竜川の鉄橋です。その狙いは的中し、夕日はまさに鉄橋の向こう側へと沈んで行くところでした。選んだのは、河原の遊歩道に下り、十分に引きをとった位置から広角レンズで鉄橋の全長を入れ、茜色の空を背に影絵となった列車を撮る構図です。決め手の一つとなったのは、空いっぱいに漂う大きな雲でした。この雲がなかりせば、横方向に間延びした面白味のない絵になっていたでしょう。北陸特急の終焉がいよいよ迫る中、印象的な光景を切り取れたことに感謝します。
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豊穣の福井を行く 2020 - 間延び

2020-09-21 15:02:36 | 北陸
国道8号線で福井市街を縦断しました。かねがね噂に聞いていた大土呂の撮影地で列車を狙います。
田圃の中を直線状に行く線路から離れた位置で、斜めがちに撮影するのは春江とおおむね同じです。しかし、異なる点もいくつかあります。ほぼ地平に近い高さを上り列車が通過するあちらに対して、ここでは築堤を行く下り列車を狙う形です。見渡す限りの田圃は、背景に小高い山が横たわる眺めに変わります。その奥からさらに高い二こぶの山が突き出す絵柄は上々です。惜しむらくは、手前の田圃が刈り取られてしまったことでしょうか。奥の方が蕎麦畑になっており、そちらを写し込めないかと模索をしてはみたものの、稲穂と違って逆光気味では絵になりません。稜線の上に漂う雲もなく、全体として横方向に間延びしたかのように見えるのが惜しまれます。
とはいえ無駄足というわけでもありません。宿と同様、初見の場所と一度でも行った場所では勝手がまるで違うからです。一度でも訪ねておけば、次に活かせる教訓が残ります。残された機会は決して多くないものの、いずれはここで会心の画を撮りたいものです。
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豊穣の福井を行く 2020 - 二度目の補給

2020-09-21 13:49:22 | 北陸
出発からほぼ600kmを走りきり、あと少しで警告灯がつきそうな見当になってきました。わずかな時間も惜しまれる撮影の合間ではありますが、沿道の左側に宇佐美の給油所があるため、こちらで道中二度目の補給を済ませます。
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豊穣の福井を行く 2020 - ヨーロッパ軒

2020-09-21 13:39:54 | B級グルメ
丸岡へやってきたのはお昼のためでもありました。撮影と掛け持ちできる使い勝手のよさもあり、数あるヨーロッパ軒の中で、最も愛用してきたのが丸岡分店です。しかし四連休の影響は予想以上に大きく、かなりの数の待ち客が店を取り巻いている状況でした。駅の跡地を回ってから出直すも、店先には依然として待ち客が。よく見ると玄関には記入台があります。並んで待つ必要はなく、順番が来れば電話で呼び出されるという仕組みのようです。それなら記入を済ませてから駅へ向かえば、あちらを回っている間に順番が来ていたでしょう。しかしそれは結果論に過ぎません。今あるのは待つのか待たないのかという選択だけです。待ち客の数自体は大したことがなかったため、名前を記入して待ちました。しかし、離れた場所で待機している先客が多いのか、何組か出てきたにもかかわらずなかなか声はかかりません。この先の行程を考えると、多少の寄り道をすれば行ける分店もあります。しびれを切らし、そちらへ鞍替えするつもりで車を走らせようとすると、駐車場を出る間際に着信音が鳴るという顛末です。
そのようなわけで一悶着はあったものの、待ちに待ったカツ丼は上々でした。昨日訪ねた敦賀の店との比較でいうと、当店の方が衣は薄めでご飯は固めです。肉が若干厚切りなのは当店の特徴ながら、以前との比較でいうと、筋張った部分が少ないように感じます。その日の仕入と仕込みによって微妙な違いが出てくるということでしょうか。しかしいずれも誤差のようなものにすぎません。昨日の今日でも飽きがこない、完成された逸品です。

ヨーロッパ軒 丸岡分店
坂井市丸岡町一本田5-62
0776-67-0843
1100AM-1400PM/1700PM-2000PM
火曜定休
カツ丼930円
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豊穣の福井を行く 2020 - 丸岡バスターミナル

2020-09-21 12:42:16 | 北陸
12時過ぎのサンダーバードを撮ったところで小休止です。県道を東へ走って丸岡の町内に入りました。
役場の隣に残っている駅の跡地を訪ねたのは去年のことです。しかし、あれから二年も経たない間に眺めは一変していました。片隅にあったバスの待合所が跡形もなく取り壊され、小ぎれいな広場になっていたのです。まず目に留まったのは、駅のホームを模したと思しき木組みの天井でした。それに沿う形で敷かれた細いタイルは、北西と西から来て合流していたかつての線路を象っているようにも見えます。市松模様のタイルで仕立てた水飲み場も、かつての駅にあっただろうと想像させられるものです。引いた場所からよくよく見れば、かつての待合所と対をなす位置に、やはり駅舎を模したであろう、立派な瓦屋根を奢った総二階の待合所が建っており、傍には丸岡バスターミナルの看板がありました。
よくよく考えると、去年訪ねた時点でも敷地の一角が工事中でした。あの頃から準備は進んでいたことになります。二路線が合流していた三角形の敷地を生かし、かつての駅を偲ばせるものをさりげなく置いた仕掛けが秀逸です。粋な計らいに感謝します。
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豊穣の福井を行く 2020 - 只乗り

2020-09-21 11:20:51 | 北陸
続いて訪ねたのは春江の直線区間です。見渡す限りの田圃の中を列車が疾走する眺めは、いかようにでも撮れそうに見える一方で、あまりに広すぎるが故の難しさもあるにはあります。列車があまりに遠ければ、そもそも何を撮っているのかが分かりません。さりとてあまりに近付けば、紋切り型の画になりがちです。稲穂が実るこの時期らしい画にするためには、ほどよい間合いを置く必要が出てきます。それに加えて考慮すべきは北陸の稲刈りの早さです。九月の下旬にもなると刈られた田圃が増えてくるため、線路からほどよい間合いを置いた上で、目の前に稲穂が広がっている場所を探す必要が出てきます。それ以前の問題として、背景の目立つ建物と、線路際の雑草、障害物を可能な範囲で避けるという、最低限の配慮も当然必要です。
条件がこうも多いと、いかに広大な田圃といえども、どこから構えればよいかはある程度絞られます。ただしそれを初見で探り当てるのは難しく、何度も足を運ぶことにより会得するしかありません。その点ここは十数年通い続けたなじみの深い撮影地の一つです。ある程度の目星はついています。それを頼りに歩いていくと、目当ての位置の手前に広がる田圃の稲穂が、幸いにしてまだ刈られずに残っていました。しかし、よくよく見ると農道には軽自動車が。トラックではなく乗用車という時点で十中八九同業者でしょう。その見立ては的中し、持参の大鋏で線路際の草を刈っているところでした。その先客との兼ね合いで、10時台に来る特急の作画については妥協せざるを得なかったものの、この御仁がいなければ、そもそも草が邪魔になり、撮影できないところでした。先人の功績に只乗りし、11時台の特急を首尾よく仕留めることができれば、結果としては勝ちといってもよさそうです。
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豊穣の福井を行く 2020 - 九頭竜川

2020-09-21 09:09:30 | 北陸
期待通りに晴れてきました。満を持して向かったのは九頭竜川の鉄橋です。
福井で列車を撮影するのは実質三年ぶりですが、これほどまでに間が空いたのは、昨年犯した失敗のためでもあります。北陸にしては珍しい冬晴れだったにもかかわらず、撮影地に着くや否や準備をする間もないまま列車が来てしまい、呆然と見送らざるを得なかったのでした。気を取り直して後続列車を待つも、空はそれきり曇ってしまい、敗北感に打ちひしがれたというのがそのときの顛末です。
あの失敗の伏線となったのが、間に合わないと分かっていながらこの鉄橋にも寄ったことです。やや南東を向くことから、10時前には側面が陰りがちになってしまい、あの日の光線状態では撮ったとしても今一つなのが分かっていました。しかるにその分かり切った事実を確かめるために寄った結果、悔やんでも悔やみきれない失策につながったわけです。しかしもう同じ轍は踏みません。あのときの教訓を生かし、空が晴れてきたのを見てとるものもとりあえず急行した結果、九時過ぎに来るサンダーバードを狙い通りに仕留めました。九時台の後半にはしらさぎとサンダーバードが続けて来るため、それまで粘ってから切り上げます。
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豊穣の福井を行く 2020 - アズイン福井

2020-09-21 08:10:03 | 北陸
半年ぶりの宿泊なら、慣れたところで飾りたいのはやまやまでしたが、代わりの宿も秀逸でした。昨晩世話になったのはアズイン福井です。
大浴場がないと勝手に思い込んで右往左往したことは既報の通りです。そう思い込んでしまった理由の一つとして、全く知らない宿でもなかったという事情があります。北陸へ行くという案が唐突に浮上したのは、たしか先週の後半でした。その時点ではフクイキャッスルにもまだ空きがあったと記憶します。しかるに直前まで引き延ばしたため埋まってしまい、空いていた数少ない宿の一つがここでした。「紋や」へ行き来する度に前を通っていたこともあり、一度泊まってみようと思い立ったわけなのですが、全くの初見であれば、大浴場があるかどうかを料金とともに調べていたでしょう。中途半端に知っている宿だったことが、無用な思い込みを生む温床となったわけです。
そのようなわけで、昨晩こそ一悶着あったものの、泊まった宿が上々だったことで全てが報われました。「紋や」が実質隣といってよいほど近いことは昨晩も申しましたが、片町の呑み屋街が始まる交差点に面しているため、はしご酒にも申し分ありません。広々した大浴場はフクイキャッスルのそれをも上回ります。打ちっ放しを活かした瀟洒なレストランでいただく朝食は品数も十分。法華クラブに比べてしまえばどうということはないにしても、無料の朝食としては富山のホテルプライム改めプライムインと並ぶ上々の部類です。しかも、割り当てられた高層階の部屋からは足羽川を一望でき、桜が咲けばさぞや見事だろうと思わせる眺めでした。
繁華街から適度に離れた濠端の閑静な雰囲気と、和室に泊まれることの付加価値も含めて考えると、個人的には依然としてフクイキャッスルに軍配を上げたいところではあります。しかしあちらと比べさえしなければ、手放しで絶賛してもよい宿でした。
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豊穣の福井を行く 2020 - 二日目

2020-09-21 06:42:41 | 北陸
おはようございます。二日目は霧の夜明けとなりました。一面に立ち込めた霧がたちまち晴れ、目の覚めるような快晴になるということが北海道ではよくあります。内地でいえば、関越道を走っていくとき、六日町から小出にかけての一帯でも同様のことがよく起こります。あれらとの類推からすると、今日こそは快晴かと期待したくなるのが人情です。予感が的中してくれることを願います。
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