最低限必要な荷物をまとめ、残りは車内に置いたまま繁華街の方へ向かって歩きました。片町と木倉町の繁華街を通り抜け、せせらぎ通りを歩いて向かったのは「あぐり」です。しかし、お姉さんから返ってきたのはもう看板という無情の宣告でした。本来なら入れるはずの時間帯ではありますが、非常時に鑑み、よほど顔の利く常連でもない限り断っているということでしょうか。残念ではあるものの、一応納得できる結果ではあります。
問題は代わりの店を探すかどうかです。一軒目で腹はあらかた満ちています。祝日の深夜という条件からしても、行くとすれば「源左エ門」がせいぜいでしょう。しかも、時間的には中途半端にならざるを得ません。どのみち中途半端なら、長らく食わず嫌いをしていた店へ行くのも一興です。せせらぎ通りを引き返し、「猩猩」の暖簾をくぐりました。
金沢の呑み屋を訪ねた初期の頃、教祖の導きを頼りに訪ねたのがここでした。しかし、今に至るまで通い続けた「浜長」と違い、当店とはすっかり縁遠くなっていました。最後に訪ねたのは11年前、それも「浜長」に早仕舞いで振られた上でのことでした。
食わず嫌いを続けてきた理由として、ズバリこれだと思う決め手に欠けたことが挙げられます。都らしい華やぎという点では何といっても「浜長」です。正統派の居酒屋なら「源左エ門」、おでんなら「大関」「赤玉」「高砂」といったところが揃います。こちらの真骨頂は何だろうかと考えたとき、まず思い浮かぶのがせせらぎ通りの趣ある店構えです。しかし、「あぐり」を自ら開拓したことにより、そちらが取って代わりました。その結果、この店には足が向かなくなって現在に至ります。しかし、若かりし頃は気付かなかった味わいに、歳を重ねることによって気付いてくるということがよくあります。金沢でいうなら「菊一」がそうです。当店においても同じ結果となりました。
十年以上無沙汰すると、記憶もあやふやになります。カウンター七席に半個室の座敷だけという店内は、記憶以上にささやかです。純和風とはやや違う、近年教祖が激推ししている小洒落た店とも違う店内の雰囲気は、語弊を恐れずいうならば仙台の「かん」に通ずるものがあります。
巻き紙を使うあちらに対し、当店の品書きは三枚の黒板に綴られます。ただし、できるものは限られる、ほぼ酒だけだと最初に告げられていました。いしるきゅうりなる品を所望するも難色を示され、代わりに選んだのは水茄子でした。この水茄子が秀逸です。粗塩で揉み、レモンを絞っただけのようでありながら、浅漬けとは一味も二味も違う爽やかさがあります。突き出しの煮こごりにも十分な量があり、はしご酒の二軒目として不足はありません。
品書きをよくよく見ると、10時が看板、注文はその15分前までとありました。つまり、断られてもおかしくはなく、温情措置が講じられたということです。しかし恩を着せることはなく、だからといって迎合することもなく、できることはここまでだと、さりげなく示す老練さが教祖の推奨店ならではです。遠い昔に訪ねたとき、店主と言葉を交わした記憶はないものの、話好きな一面もあると知りました。人が変わったかのようなのは、当時お見かけしなかった女将の存在によるところもあるのでしょうか。やはり、一度や二度訪ねただけで店の真価が分かるものではありません。その経験則を改めて実証する結果でした。
★猩猩
金沢市香林坊2-12-15 割烹むら井ビル1F
076-222-2246
1745PM-2145PM(LO)
日曜定休
千枚田
遊穂
勝駒
突き出し
水茄子
問題は代わりの店を探すかどうかです。一軒目で腹はあらかた満ちています。祝日の深夜という条件からしても、行くとすれば「源左エ門」がせいぜいでしょう。しかも、時間的には中途半端にならざるを得ません。どのみち中途半端なら、長らく食わず嫌いをしていた店へ行くのも一興です。せせらぎ通りを引き返し、「猩猩」の暖簾をくぐりました。
金沢の呑み屋を訪ねた初期の頃、教祖の導きを頼りに訪ねたのがここでした。しかし、今に至るまで通い続けた「浜長」と違い、当店とはすっかり縁遠くなっていました。最後に訪ねたのは11年前、それも「浜長」に早仕舞いで振られた上でのことでした。
食わず嫌いを続けてきた理由として、ズバリこれだと思う決め手に欠けたことが挙げられます。都らしい華やぎという点では何といっても「浜長」です。正統派の居酒屋なら「源左エ門」、おでんなら「大関」「赤玉」「高砂」といったところが揃います。こちらの真骨頂は何だろうかと考えたとき、まず思い浮かぶのがせせらぎ通りの趣ある店構えです。しかし、「あぐり」を自ら開拓したことにより、そちらが取って代わりました。その結果、この店には足が向かなくなって現在に至ります。しかし、若かりし頃は気付かなかった味わいに、歳を重ねることによって気付いてくるということがよくあります。金沢でいうなら「菊一」がそうです。当店においても同じ結果となりました。
十年以上無沙汰すると、記憶もあやふやになります。カウンター七席に半個室の座敷だけという店内は、記憶以上にささやかです。純和風とはやや違う、近年教祖が激推ししている小洒落た店とも違う店内の雰囲気は、語弊を恐れずいうならば仙台の「かん」に通ずるものがあります。
巻き紙を使うあちらに対し、当店の品書きは三枚の黒板に綴られます。ただし、できるものは限られる、ほぼ酒だけだと最初に告げられていました。いしるきゅうりなる品を所望するも難色を示され、代わりに選んだのは水茄子でした。この水茄子が秀逸です。粗塩で揉み、レモンを絞っただけのようでありながら、浅漬けとは一味も二味も違う爽やかさがあります。突き出しの煮こごりにも十分な量があり、はしご酒の二軒目として不足はありません。
品書きをよくよく見ると、10時が看板、注文はその15分前までとありました。つまり、断られてもおかしくはなく、温情措置が講じられたということです。しかし恩を着せることはなく、だからといって迎合することもなく、できることはここまでだと、さりげなく示す老練さが教祖の推奨店ならではです。遠い昔に訪ねたとき、店主と言葉を交わした記憶はないものの、話好きな一面もあると知りました。人が変わったかのようなのは、当時お見かけしなかった女将の存在によるところもあるのでしょうか。やはり、一度や二度訪ねただけで店の真価が分かるものではありません。その経験則を改めて実証する結果でした。
★猩猩
金沢市香林坊2-12-15 割烹むら井ビル1F
076-222-2246
1745PM-2145PM(LO)
日曜定休
千枚田
遊穂
勝駒
突き出し
水茄子