日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

弁天湯

2020-09-06 21:52:20 | 温泉
近場の銭湯を訪ね歩いたことにより、いわゆる宮造りが多いという事実に気付いてきました。気になって調べた結果、その直感の正しさを知ることになります。組合の公式サイトで調べたところ、休業中のところを含め70件以上の候補が出たのです。
小耳に挟んだところによると、関東一円に特有の建築様式だそうです。そう言われてよくよく考えると、たしかに京都でこれに類するものを見たことがありません。他の地域を含めても、今はなき富山の「観音湯」が思い浮かぶ程度でしょうか。愛好家にはつとに知られた事実としても、こちらにとっては目から鱗の発見でした。俄に興味を掻き立てられ、「熱海湯」の次に訪ねたのが「弁天湯」です。

屋号はおそらく抜弁天にちなんだものでしょう。自宅から向かうと「大星湯」を通り過ぎた先にあり、自転車で行く限り決定的な違いまではありません。しかるに後回しを続けたのは、「大星湯」を訪ねたとき、地図上の距離以上に面倒だったという事情によるところが一つです。それに加え、無味乾燥な箱形の建物に、特段面白味が感じられなかったという事情もあります。それだけに、こちらも宮造りだと知ったときには意表を突かれました。改めてWebサイトの写真を見直すと、二階建ての屋根の上からさらに高い千鳥破風が突き出ています。このことから分かるのは、先日惜しまれつつ閉店した「松の湯」と同様、前面に増築したということです。ただし、増築部分に倍の高さがあることから、元々あった建物が隠れてしまっていたのでした。
そのようなわけで、正面から見た佇まいに特筆すべき点はありません。しかし、その奥にある元の建屋が秀逸です。脱衣所に入るやいなや、高くて広い格天井に刮目させられました。浴場も、これまでに訪ね歩いた銭湯より一回り大きいように感じられます。中央の洗い場が二列あることからしても、単なる錯覚ではないのでしょう。建築当時のままと思しき脱衣所の天井に対して、浴場では窓回りと梁、柱がそれぞれ違う色に塗り分けられ、気鋭の銭湯絵師の作という背景画が奥と手前の壁面を飾ります。洋風の装飾を施した仕切り壁のタイルを含め、色彩と意匠が周到に練られているのは天晴れです。
味わいは「熱海湯」に譲ります。しかし、昔ながらの宮造りを活かしつつ、現代的に再構成されているという点で、甲乙付け難い印象を受けました。外観と内観の隔たりという点でも、特筆される一軒です。

★弁天湯
東京都新宿区余丁町5-1
03-3357-7370
1430PM-100AM
水曜定休(祝日の場合営業し翌日休み)
入浴料470円
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