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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

姿なき威嚇・月の輪熊:鏡台山(妻女山里山通信)

2009-09-28 | アウトドア・ネイチャーフォト
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 鏡台山からの帰路でのことです。昼食後、山頂を出発して北峯を通過し、笹原を抜けて百瀬口分岐への急斜面の道を下りていた時です。往路では見なかったものが登山道の直ぐ脇にありました。
 それが写真の糞です。右の笹の葉が幅5センチ強ですから、その大きさが分かると思います。銭湯の黄色い洗面器いっぱいぐらいの量です。

 間違いなく月の輪熊の糞です。往路は急登で、撮影対象を探して登山道の左右をくまなく見ながら登っていたので、見落とすはずはありません。糞はまだしたばかりで、湯気がたっていそうなくらい。山頂の往復の約1時間の間にしたのでしょう。夏に息子達と登った時に、すぐ下の百瀬口分岐の標識の杭が熊によってボロボロに囓られていました。塗料の石油の揮発性の匂いに熊が興奮するためです。この辺りは熊の通り道なのでしょう。沢山から傍陽(そえひ)や西条側に越えるルートなのかもしれません。

 無言の威嚇の原因ですが、実は往路にこのすぐ上で首に巻いていたタオルを落としてしまったのです。途中で気が付いたのですが、帰路で拾えばいいと、そのまま登りました。熊はきっとその私の汗が染みついたタオルを嗅いで、ここは自分の縄張りだと主張するためにわざわざ目立つところに糞をしたのではないでしょうか。姿なき無言の威嚇です。ひょっとしたら、これを撮影中に遠くの木陰からこちらを覗いていたかも知れません。

 大量の糞は、栗やドングリを食べたもののようです。猪も大きな糞をしますが、丸い団子がつながったような糞です。タヌキの溜糞も大量ですが、小さな団子がたくさん転がっている感じで、古い糞も交じります。ニホンカモシカの糞は、1センチ前後の黒い丸い糞です。熊は雑食なので、食べたものにより糞の色や形状は変わります。栃の実を食べると黄色い糞、柿を食べると種が混じります。また獣を食べると毛が混じっています。

 月の輪熊の行動範囲は、半径15キロぐらいはあるそうです。ということは、鏡台山の熊は妻女山あたりまで来ることもあるということです。実際、岩野駅付近や妻女山に出没したこともあります。天城山周辺では目撃例も毎年のようにあります。息子達と登った時に、鞍骨城の東のコルで熊の爪跡を発見しましたし、天城山周辺で糞は何度も目にしています。親戚のものは実際熊に遭遇しています。特に11月中旬過ぎから12月上旬にかけて、冬眠前によく来るようです。山の木の実が不足する頃なので、山里の柿が目当てのようです。

 熊の存在は、注意深く見ていると頻繁に気付きます。熊棚、爪跡、皮剥、枝落とし等々。普通は、熊鈴をつけていれば、向こうが気付けば遠ざかってくれるはずです。月の輪熊は用心深い性格ですから。但し、人を襲ったことがある熊は、鈴や人の声で逆に襲ってくることもあるとか。しかし、それは極希なことなので、やはり熊鈴はつけた方がいいのです。そうでなければ、常に相手より先に存在を察知するように五感を研ぎ澄ませて歩くことですね。また、春先の小さな子熊を連れたメスは、子熊を連れて逃げられないと判断すると、待ち伏せて突然襲ってきます。これには熊鈴も無力です。もっと遠くから聞こえるような周波数の高い熊鈴やホイッスルを携行したり、爆竹を鳴らすなどの対策が必要です。また、「猫にマタタビ、熊に石油」というように、熊は石油系の匂いに激しく誘引されます。ガソリンや灯油、ペイントの石油系溶剤、防腐剤のクレオソートなどの扱いには、細心の注意が必要です。

 でも、ニホンカモシカの場合でも、ほとんど相手の方が先にこちらを見つけています。視線を感じて見ると、そこにいたという場合がほとんどです。やはり、野生動物は鋭い。もし襲われると、その熊は射殺されなければなりません。一度人を襲った熊は必ずまた人を襲うからだそうです。無益な殺生を避けるためにも熊鈴はつけましょう。休憩中は鈴が鳴らないので笛を携行して、時々吹くといいでしょう。信州では、ホームセンターに色々な種類の熊鈴が売られています。

 鏡台山の西方は鳥獣保護区ですが、彼らの行動半径を考えると、熊にとっては決して広い区域とはいえないでしょう。開拓地もあるし、植林地も多く、それらは熊の食糧を生産しません。また、林道もかなり奥まで通っていて登山者だけでなく人の出入りも多い地域です。結構肩身の狭い思いで暮らしているのかなと思ったりもします。確かに山麓の柿をなくせば下りてこないでしょうが、その代わりの食糧が確保できなければ、やがては数が減り、絶滅の危機に瀕するでしょう。里山での熊との共生は、微妙なバランスの上に成り立っていると思います。

 なぜか熊の糞を見たら青山テルマの「そばにいるね」が頭の中で流れてきて、恐怖感よりも不思議な安堵感を感じながら山を下りたのでした。

★鏡台山のトレッキングを、フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にいずれアップします。どうぞご覧ください。

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